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【退職代行】どこまでがセーフ? 「モームリ」運営会社に警視庁が家宅捜索…弁護士に聞く“違法の線引き”

民間企業が退職代行のようなサービスを行っても問題はないのでしょうか。退職代行時に法的責任を問われる可能性がある行為について、弁護士に聞きました。

「退職代行モームリ」の公式サイト
「退職代行モームリ」の公式サイト

 退職を希望する人に代わって退職の意思を伝えるサービス「退職代行モームリ」の運営会社が、「退職代行」の仕事を違法に弁護士にあっせんし、紹介料を受け取った疑いがあるとして、警視庁が10月22日、弁護士法違反容疑で運営会社に家宅捜索に入ったと新聞やテレビなどで報じられました。この報道に対し、SNS上では「いつかお世話になろうと思っていたのに」「モームリ使われたブラック企業が喜んでそう」「モームリさんいなくなったら、誰がブラック企業あぶり出してくれるんや~」「モームリを何とかするより、ブラック企業を何とかしてほしいよ」「モームリの運営、もう無理?」などの声が上がっています。

 そもそも、民間企業が退職代行のようなサービスを行っても問題はないのでしょうか。退職代行時に法的責任を問われる可能性がある行為について、佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

本人に代わって退職の意思を勤務先に伝える行為も弁護士法違反に該当する可能性

Q.そもそも、退職代行のサービスは法的に問題はないのでしょうか。

佐藤さん「退職代行のサービス内容は依頼先の弁護士や業者によって異なります。一般的に、弁護士が提供する『退職代行』とは、退職したい人の代理人になり、会社と退職に関するあらゆる交渉をすることを指します。単に依頼者から預かった退職届を会社に提出するだけではなく、例えば、退職金の金額を交渉したり、支払われていない残業代があればその請求をしたりすることも含まれます。

一方、弁護士以外の退職代行業者の場合、依頼者の退職の意思を会社に伝えることのみがサービス内容になっていると考えられます。弁護士資格を持たない人が何らかの交渉を行ったり、請求したりすることは弁護士法で禁じられており、できません。

また、弁護士法の解釈によっては、本人に代わって退職の意思を勤務先に伝える行為も、弁護士法違反に当たるという見解があります。

他に、労働組合法上の労働組合には、憲法28条で定められている団体交渉権があるため、労働組合法の要件を満たす労働組合が運営する退職代行サービスの場合、交渉までサービス内容に含まれているのが通常です。

退職代行に関する交渉がうまくいかず、『会社を訴えたい』『会社から訴えられてしまった』などで裁判に発展する場合、対応できるのは弁護士のみなので、注意が必要です」

Q.では、民間企業が行う退職代行サービスは違法の可能性が高いのでしょうか。

佐藤さん「先述の話をまとめると、民間企業(弁護士でない者)が退職代行サービスを行うことの法的問題性については、弁護士法の解釈によります。弁護士法72条は、弁護士や弁護士法人でない者が報酬を得る目的で『法律事務』を取り扱うことを禁じています。退職の意思を会社に伝えることだけなら『法律事務』に当たらず問題ないという見解によれば、その範囲で代行サービスを提供している限り、法的問題はないことになります。

一方、退職の意思を会社に伝える行為は『労働契約の終了』という法律上の効果を発生させるものであり、弁護士法違反になるという見解によれば、退職したい者(依頼者)と弁護士でない退職代行業者との契約が無効になる可能性があります。

前者の見解を取ったとしても、先述のように、弁護士でない者は退職に関わる交渉を一切することができません。そのため、本来であれば退職金や未払い残業代などの金銭を請求できるケースでも、請求しないままになってしまうことも考えられます。

また、退職の意思を会社に伝えたところ、法的トラブルに発展してしまい、弁護士に再度依頼する必要が生じることもあります。そうなると、依頼者には余計な費用がかかることになってしまいます。依頼する側としては、誰に依頼するか、慎重に検討する必要があるように思います。

企業に在籍する弁護士であれ、法律事務所に在籍する弁護士であれ、弁護士資格がある人が退職代行サービスを行う場合は、交渉も裁判対応も可能であり、法的問題が生じることはありません」

Q.退職代行サービス「モームリ」の運営会社が10月22日、「退職代行」の仕事を違法に弁護士にあっせんし、紹介料を受け取った疑いがあるとして、警視庁の家宅捜索を受けたと報じられました。退職代行会社が弁護士から紹介料などの報酬を受け取る行為も弁護士法で禁止されているのでしょうか。

佐藤さん「弁護士でない者が、報酬を得る目的で法律事件に関しあっせんすることも、弁護士法72条で禁じられています。従って、退職代行会社が、報酬目的で、弁護士に退職希望の顧客を紹介し、弁護士から紹介料を受け取っていたのだとすれば違法になります」

Q.退職代行サービスを使って退職するのは法的に有効なのでしょうか。

佐藤さん「退職代行サービスを使った退職自体は法的に有効です。民法627条1項では、期間の定めのない労働契約はいつでも退職の申し入れをすることができ、退職の申し入れの日から2週間が経過すると終了すると定められています。そのため、ご自身で退職の申し入れをした場合であっても、有効な退職代行サービスを使った場合であっても、退職自体は可能です。

ただし、先述のように、民間企業(弁護士でない者)による退職代行については、弁護士法に抵触する恐れがあり、退職代行業者が行ったことが無効と判断される可能性があることには注意しましょう。

退職代行サービスの利用時に生じるトラブルとしては、例えば『退職代行サービスを利用したにもかかわらず、会社から何度も連絡が来るなど、困った状態が継続している』『退職代行サービス業者と連絡が取れなくなってしまった』などが考えられます。このようなトラブルに遭遇した場合は、弁護士に相談しましょう。弁護士は訴訟提起も含め、トラブルを解決するための最善の方法を検討し、実行することができます」

(オトナンサー編集部)

【豆知識】「えっ…!」 これが退職代行で禁じられている“行為”です!

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佐藤みのり(さとう・みのり)

弁護士

神奈川県出身。中学時代、友人の非行がきっかけで、少年事件に携わりたいとの思いから弁護士を志す。2012年3月、慶応義塾大学大学院法務研究科修了後、同年9月に司法試験に合格。2015年5月、佐藤みのり法律事務所開設。少年非行、いじめ、児童虐待に関する活動に参加し、いじめに関する第三者委員やいじめ防止授業の講師、日本弁護士連合会(日弁連)主催の小中高校生向け社会科見学講師を務めるなど、現代の子どもと触れ合いながら、子どもの問題に積極的に取り組む。弁護士活動の傍ら、ニュース番組の取材協力、執筆活動など幅広く活動。女子中高生の性の問題、学校現場で起こるさまざまな問題などにコメントしている。

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