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神経が分からない…チケット譲渡の際に“身分証明証”を貸し借りする行為、法的には?

行けなくなったイベントのチケットを譲渡したりする際、顔写真のない身分証明証も貸し出すケースが増えているようです。法的リスクはないのでしょうか。

身分証明書の貸し借りに法的問題は?
身分証明書の貸し借りに法的問題は?

 身分証明証の貸し借りについて先日、ネット上で話題になりました。近年、ツイッターを中心に、病気や急用などで行けなくなったイベントのチケットについて、個人間の定価譲渡(転売目的でない)やトレードの募集を呼びかける投稿が多く見られます。

 チケットの違法転売(ダフ屋行為)対策として身分証明証の確認などを行うイベントも増えていますが、これをすり抜けるために、顔写真のない身分証明証(健康保険証など)も合わせて貸し出すケースが増えているようです。

 ネット上では、「恐ろしい」「見知らぬ他人に身分証を貸す神経が分からない」「こういうのって犯罪にならないの?」など、さまざまな声が上がっていますが、身分証明証の貸し借りにはどのような法的リスクがあるのでしょうか。

 芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

貸した側も詐欺罪にあたる可能性

Q.チケット入手の目的に限らず、身分証明証を貸し借りし、何らかの目的のために使用する行為について、貸した側と借りた側には一般にどのような法的問題がありますか。

牧野さん「他人の身分証明書を使って身分を偽り、財物や財産上の利益を交付させると、刑法第246条の『詐欺罪』に該当する可能性があります。

1.人を欺(あざむ)いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。
2.前項の方法により、財産上不法の利益を得、または他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

他人の身分証明書を使って被害者がだまされ、本人だと思って財物や財産上の利益を交付し、損害を被っていれば、加害者に対して不法行為に基づく損害賠償請求が可能です。

身分証明証を借りた者は、それを使用し、身分を偽って被害者をだまし、財物や財産上の利益を交付させたので詐欺罪に該当することは分かりますが、身分証明書を貸した者も、詐欺に使用されることを意図していれば、『他人にこれを得させた者』に該当するため、詐欺罪にあたる可能性があります」

Q.チケット入手の目的で身分証明証を貸し借りし、使用する行為について、貸した側と借りた側には一般にどのような法的問題がありますか。

牧野さん「先述のように、身分証明証を借り、それを使用してイベントに参加した場合、本来は入場できないのに身分を偽って(=本人になりすまして)主催者側をだまし、コンサート等のイベントに入場するという『財産上不法の利益を得た』ことになるため、刑法第246条2項の詐欺罪に該当する可能性があります。

他方、身分証明書を貸した者も、身分を偽って主催者側をだまし、『他人(身分証明書を借りた人)にこれ(財産上不法の利益)を得させた者』に該当するため、同項の詐欺罪にあたる可能性があります。記名の入場券は他人に譲渡できないということを認識しておくべきでしょう」

Q.身分証明証の貸し借りによって何らかの不利益を被った側は、貸し借りを行った人に、どのような法的手段を取ることができますか。

牧野さん「被害者(主催者)がだまされて『本人である』と思い、財物や財産上の利益を交付して損害を被っていれば、加害者(入場しようとした者)に対して不法行為に基づく損害賠償請求が可能です。ただし、身分証明証を提示して主催者をだまし、イベント会場に入場してコンサート等を楽しむことができた場合には、主催者側としては当該入場券の入場料は既に回収しており、損害の発生を認めることは難しいでしょう。

チケットの転売者と購入者の間では、購入者がそのリスクを理解した上で購入している場合、転売者に対して契約違反や不法行為の責任を問うことは難しいでしょう。犯罪行為になる可能性があるため、ネットオークション保険の対象にならないリスクもあります」

Q.身分証明証の貸し借りに関するトラブルについて、過去の事例・判例はありますか。

牧野さん「身分証明証の貸し借りではなく、偽造による事件ですが、大手企業が地面師に55億円をだまし取られ、容疑者が逮捕された東京都心の不動産詐欺事件では、土地の所有者でない者がパスポートを偽造して本人になりすまし、買い主をだまして代金を詐取しています」

(ライフスタイルチーム)

牧野和夫(まきの・かずお)

弁護士(日・米ミシガン州)・弁理士

1981年早稲田大学法学部卒、1991年ジョージタウン大学ロースクール法学修士号、1992年米ミシガン州弁護士登録、2006年弁護士・弁理士登録。いすゞ自動車課長・審議役、アップルコンピュータ法務部長、Business Software Alliance(BSA)日本代表事務局長、内閣司法制度改革推進本部法曹養成検討会委員、国士舘大学法学部教授、尚美学園大学大学院客員教授、東京理科大学大学院客員教授を歴任し、現在に至る。専門は国際取引法、知的財産権、ライセンス契約、デジタルコンテンツ、インターネット法、企業法務、製造物責任、IT法務全般、個人情報保護法、法務・知財戦略、一般民事・刑事。

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