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「無痛分娩なら楽だね」にモヤモヤ→産婦人科医「楽な出産はありません」 イメージと現実の“ギャップ”どう埋めるか

小池百合子知事が公約に掲げた「無痛分娩の助成」。いまだ「楽」とのイメージが根強い「無痛分娩」の“リアル”について、産婦人科医が見解を示します。

「無痛分娩なら楽」なのか?
「無痛分娩なら楽」なのか?

 7月7日に投開票が行われた東京都知事選挙で、3回目となる当選を果たした小池百合子知事。小池知事が、少子化対策の公約の一つに掲げていたのが「無痛分娩(ぶんべん)の助成」です。普通分娩(自然分娩)にプラスしてかかる無痛分娩の費用に対する助成で、「体への負担が少ないとされる無痛分娩が広がることで、少子化対策につながる」との考えによるものとしており、今後実現されるのか、ますます注目を集めそうです。

 実際に無痛分娩を選択し、出産した女性からは「全くの無痛というわけではないよ」「無痛だとしても命がけであることに変わりはない」といった体験談が多く聞かれるようになりましたが、その名称から「痛みがない」「楽」というイメージもいまだ根強いようで、「無痛分娩なら楽だね、と言われると正直モヤモヤする」など複雑な気持ちを抱く人は決して少なくないことがうかがえます。

 名称によるところのイメージと、実際の出産に存在するギャップについて、日々出産に立ち会う産婦人科医はどう考えているのでしょうか。自身も無痛分娩による出産経験がある、神谷町WGレディースクリニック(東京都港区)院長で産婦人科医の尾西芳子さんによる解説と見解です。

「完全無痛」と「和痛」がある

「無痛分娩」とは、腰から麻酔のチューブを入れ、そこから継続して麻酔薬を入れることで下半身に麻酔をかけ、痛みを和らげながら分娩する方法です。費用は病院にもよりますが、通常の分娩料金にプラスして10万円程度になるケースが多いです。

 無痛分娩には麻酔のリスクがあり、通常の分娩よりリスクが上がります。そのため、どこの病院でも行っているわけではなく、実施している病院はまだまだ少数です。

 また、妊婦さん自身に血液が固まりにくい病気や心臓の病気などの合併症がある場合は、無痛分娩を行えないこともあります。逆に、分娩時に痛みを取ることで合併症を少なくできると考えられる場合(妊娠高血圧症など)は、積極的に無痛分娩を行うケースもあります。

 ところで、先述した「痛みを和らげながら分娩する方法」と聞いて、「全くの無痛じゃないの?」と疑問に思った人もいるかもしれません。

 無痛分娩には、その言葉通り「完全無痛分娩」を行う病院と、痛みを和らげる「和痛(わつう)分娩」を行う病院があります。この両者をまとめて「無痛分娩」と呼ぶことが多いため、「痛くないつもりだったのに痛かった」ということもしばしばあるようです。

 どちらの場合も、陣痛を起こすために陣痛誘発剤を使うことが多いのですが、完全無痛と和痛とでは、使用のタイミングに違いがあります。

・完全無痛の場合……麻酔薬を入れるのと陣痛誘発剤を使用し始めるのがほぼ同時
・和痛の場合……陣痛誘発剤を使用し始め、子宮の入り口がある程度開いてきてから麻酔薬を入れる

 自然に陣痛が来てから麻酔を入れる病院もありますが、その場合は和痛に近い形になります。「なぜ、全て完全無痛にしないのか」と思う人もいるかもしれませんが、麻酔によって陣痛が弱まるため、あまり早くから始めたり、麻酔の量が多過ぎたりすると子宮の入り口がなかなか開かず、分娩が長引いてしまう危険性があるからです。

 分娩が長引くと赤ちゃんへのストレスが大きくなり、具合が悪くなってしまうと最終的に帝王切開になることもあります。つまり、陣痛が来て、子宮の入り口が開いてから麻酔を入れる和痛の方が、陣痛開始〜出産までがスムーズなので、こちらの方法を取る病院も多いのです。

【閲覧注意】「すごい…!」 これが体外に出てきた「胎盤」の見た目です(写真)

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尾西芳子(おにし・よしこ)

産婦人科医(神谷町WGレディースクリニック院長)

2005年神戸大学国際文化学部卒業、山口大学医学部学士編入学。2009年山口大学医学部卒業。東京慈恵会医科大学附属病院研修医、日本赤十字社医療センター産婦人科、済生会中津病院産婦人科などを経て、現在は「どんな小さな不調でも相談に来てほしい」と、女性の全ての悩みに応えられるかかりつけ医として、都内の産婦人科クリニックに勤務。産科・婦人科医の立場から、働く女性や管理職の男性に向けた企業研修を行っているほか、モデル経験があり、美と健康に関する知識も豊富。日本産科婦人科学会会員、日本女性医学学会会員、日本産婦人科乳腺学会会員。オフィシャルブログ(http://ameblo.jp/yoshiko-onishi/)。

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