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「まさか私が?」 30代で突然「てんかん」を発症した2児の母 生活はどう変わった?

「てんかん」は子どもの頃に発症するイメージが強い病気だと思いますが、実際は大人が発症するケースもあります。30代で突然てんかんを発症した、2人の子どもを育てるライターが、この病気の実態について紹介します。

買い物中に突然意識を失った筆者(筆者作)
買い物中に突然意識を失った筆者(筆者作)

「てんかん」という病気があります。てんかんは、脳の神経細胞の異常な電気活動により、意識障害やけいれんなどの発作を起こす脳の病気です。子どもの頃に発症するイメージが強いかもしれませんが、実際は乳幼児から高齢者まで、全ての年代で発症する可能性があります。昨年、30代で初めててんかん発作を起こした筆者が、当時を振り返りながら、てんかんという病気の実態をお伝えします。

娘の誕生日に突然意識失う

 2021年の夏の終わり、筆者は車を運転して近くのショッピングモールへ買い物に行きました。その日は娘の3歳の誕生日だったため、お祝い用の料理と、誕生日プレゼントを買うつもりでいたのです。

 駐車場に車を止め、まずはおもちゃ売り場に向かいました。娘が大事にしているお世話人形用の抱っこひもを買い、喜ぶ娘の顔を想像しながら、今度は急いで食品売り場に向かいました。

 混雑していた夕方の食品売り場。急いで買い物を済ませて帰ろうと、足早にカートを押して歩いていたそのとき、急にめまいのような、気持ちが悪いような、何とも言えない違和感を覚えました。

 すると次の瞬間、自分の意思とは関係なく、視線がスーッと上がっていくのを感じ、最後に天井を見た記憶を最後に、筆者の意識は途切れました。

気が付いたら救急車の中

 ふと目を覚ますと、そこは見慣れない場所でした。周りからは「起きた起きた」という声が聞こえ、目の前にぼんやり映った人から「大丈夫ですか?」と声を掛けられました。

 しかし、今いる場所もそこまでの経緯も、まるで紙芝居の1枚の絵が突然抜き去られてしまったかのようで、筆者にはまったく理解できませんでした。

 何も分からない状況に困惑しながら、絞り出すように「ここは…」と聞くと、衝撃的なことを言われました。

「救急車の中です。あなた、倒れたんですよ」

 買い物をしていたつもりだったのに、気が付いたら救急車の中にいたというあり得ない状況に、筆者はちょっとしたパニック状態になりました。同時に、頭が割れるような激しい頭痛に襲われました。

 頭痛だけではなく、経験したことがないほどの動悸(どうき)で、身の置きどころがないほどの苦しみが続きました。倒れた瞬間は意識がなく、痛みは感じませんでしたが、おそらく立ったままの状態から受け身も取らずに後ろへ倒れたのでしょう。頭を激しく床に打ち付けたのだと思います。

 救急車の中でしばらく痛みや苦しさと闘っていましたが、時間の経過とともに徐々に動悸は収まっていき、落ち着きを取り戻していきました。救急隊の人からその日の出来事について聞かれても、当初は記憶が非常に曖昧で、どんな日だったのか分からなくなっていたのですが、救急隊の人と話していく中で、記憶の曖昧な部分が徐々に整理され、頭の中のもやが晴れていくように感じました。

 そしてようやく「今日が娘の誕生日」だということにたどり着き、時計を見て、思っていた以上に時間が経過していたことを知ったのです。買い物をしていたときは午後4時くらいのはずでしたが、時計の針は午後7時を示していました。

 発作が起きた日は、救急車でそのまま大きな病院に行き、簡単な検査をして異常が見られなかったので、迎えに来た家族と共に家に帰りました。

 しかし、後日改めて脳神経外科を受診し、脳波の検査を受けて、自分が倒れた原因が「てんかん」だったことを知ったのです。それは、まさに青天のへきれきでした。

車の運転ができなくなった

 筆者には、自閉症と知的障害がある息子がいます。息子はこれまで、てんかん発作を起こしたことはありません。しかし、同じ障害があるお子さんの中には、てんかんを併発しているケースがあることを耳にしていたので、リスクがあるなら息子だと思っていたのです。

 それがまさか、自分がてんかんになるとは夢にも思いませんでした。そして、「てんかんという病気は子どもの頃になるもの」というイメージが強かったので、大人になって初めて発症することがあるのも驚きでした。

 てんかんが分かってから、筆者の生活は大きく変わりました。最も大きかったのは、少なくとも当分の間、車の運転ができなくなったことです。これまで、買い物や娘の保育園の送迎に車を使っていたので、買い物に行く店も制限されるようになりましたし、娘の保育園も転園することになりました。

 筆者の場合、発作を経験してから車の運転が怖くなってしまったので、移動手段が徒歩しかないことには諦めがつきました。しかし、自分の病気によって子どもの生活環境を変えてしまった申し訳なさ、「いつ倒れるか分からない」という恐怖感から、落ち込む日々が続きました。

 てんかんという病気は、発作が起きていないときは普通の人と何も変わらないように見えますが、精神的に抱えるストレスは想像以上に大きいものだと思います。

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べっこうあめアマミ(べっこうあめあまみ)

ライター、イラストレーター

知的障害を伴う自閉症の息子と「きょうだい児」の娘を育てながら、ライター、電子書籍作家として活動。「ママがしんどくて無理をして、子どもが幸せになれるわけがない」という信念のもと、「障害のある子ども」ではなく「障害児のママ」に軸足をおいた発信をツイッター(https://twitter.com/ariorihaberi_im)などの各種SNSで続けている。障害児育児をテーマにした複数の電子書籍を出版し、Amazonランキング1位を獲得するなど多くの障害児家族に読まれている(https://www.amazon.co.jp/dp/B09BRGSY7M/)。「べっこうあめアマミ」というペンネームは、障害という重くなりがちなテーマについて、多くの人に気軽に触れてもらいたいと願い、夫と相談して、あえて軽めの言葉を選んで付けた。

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