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「成果を上げたら報酬を上げる」という“当然”に見える人事制度の問題点

就活や転職、企業人事のさまざまな話題について、企業の採用・人事担当として2万人超の面接をしてきた筆者が解説します。

成果主義の問題点は?
成果主義の問題点は?

 日本経済が右肩上がりの高度成長期を終えて、はや数十年。近年では「失われた30年」などとも言われ、国内総生産(GDP)もずっと横ばいです。こんな停滞の中では、企業も頑張った従業員全員に高い報酬を出すことはできず、「目標を達成して、成果を上げたら評価して報酬を上げる」という「成果主義」が当たり前の世の中になり、今ではそれに疑問を挟む人もいなくなってきました。

 ところが、いつも日本企業がまねようとするゼネラル・エレクトリック(GE)やマイクロソフト、グーグルなどの名だたる欧米企業では、成果主義やその裏にある目標管理制度を廃止する企業が増えているようです。それはなぜなのでしょうか。

プロセスは見ず、ゴール実現の成否だけを見る

 まず、「成果を評価する」とは、仕事における最終的な成果だけを見て、途中のプロセスは見ないということです。もちろん、途中のプロセスも「中間成果物」とする「準」成果主義的運用もありますが、「中間成果物」でもそれに至るまでのプロセスがまたあるわけであり、結局はプロセスを見ないということは同じです。

 また、本当の最終成果とは企業全体の利益でしょうから、社長以外のどんな人の「成果」も「中間成果物」であるとも言えます。つまり、最終成果であろうが、中間であろうが、あるゴール(目標)を決めてそれを実現できたかどうかを見るというのが、成果主義で評価を行うための必要条件ということです。

 そこで問題になるのが「そもそもゴールなど、厳格に決められるのか」ということです。スポーツやゲームのように厳格なルールの枠の中で行う仕事であれば、ある程度決められますが、何が起こるか分からない変化の速度の激しいこの時代では、半年先でも自社の環境がどうなっているのか分からず、個々人の仕事のレベルにまで落とし込んで具体的なゴールを決めることは至難の業です。

 それなのに、成果主義とセットの目標管理制度では、成果を上げられたのか否かを厳密に判定するために、多くの企業が「ここまでやれば100%」という目標設定を強いられています。しかし、未来予測はどこまで行っても不正確です。「これが100%」という目標が不正確なのは当然のことです。後から振り返れば期初の目標が間違っていたり、簡単過ぎたり、難し過ぎたりすることは多く、そんな目標の成否で厳密に評価されてしまうのは、納得いかないことでしょう。

低い目標設定横行、頑張ろうとした人が憂き目に

 そうすると、普通の人の心理としては、「なるべく目標を低く設定しよう」という動機が働きます。どんな環境の変化が起こったとしても、目標を低く設定しておけば、なんとか達成して成果を上げたように見せることができるからです。

 目標設定会議においては、どれだけ自部門を取り囲む環境が厳しいかとか、どれだけ今回のチャレンジが難しいかとかのプレゼン大会になり、だから目標がせいぜいこれだけですという主張が繰り広げられます。そして低い目標を勝ち取ってきたチームのリーダーはメンバーから喜ばれ、高い目標を押し付けられたチームのリーダーは非難されます。

 そんな性悪説で考えなくても、と思うかもしれません。確かに目標管理制度がどうあれ、もっとポジティブに高い目標を自ら設定しようとか、メンバーを鼓舞してあの高い目標を目指そうという人もいることでしょう。

 しかし、そういう性善説的な人の目標設定にも問題があります。自分やメンバーが達成できそうなできるだけ高い目標を設定すると、彼らは、同じ成果を上げても、低い目標設定をした人と比べると、目標達成率で劣ることになり、せっかく頑張ったのに損をしてしまうからです。「それでも仕方ない」と思える人はどれだけいるでしょうか。きっと「頑張ったのに報われない」と会社を恨んでしまうことになると思います。

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曽和利光(そわ・としみつ)

人材研究所代表

1971年、愛知県豊田市出身。灘高校を経て1990年、京都大学教育学部に入学し、1995年に同学部教育心理学科を卒業。リクルートで人事採用部門を担当し、最終的にはゼネラルマネジャーとして活動した後、オープンハウス、ライフネット生命保険など多様な業界で人事を担当。「組織」「人事」と「心理学」をクロスさせた独特の手法を特徴としている。2011年、「人材研究所」を設立し、代表取締役社長に就任。企業の人事部(採用する側)への指南を行うと同時に、これまで2万人を超える就職希望者の面接を行った経験から、新卒および中途採用の就職活動者(採用される側)への活動指南を各種メディアのコラムなどで展開している。著書に「定着と離職のマネジメント『自ら変わり続ける組織』を実現する人材流動性とは」(ソシム)など。

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