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1年間実戦なし、連続完全試合目前で降板…佐々木朗希投手の育成・起用法、専門家の見解は?

「記録途絶えた後」に注目を

Q.佐々木投手のような育成法、起用法は珍しいように思います。

江頭さん「佐々木投手は、分かりやすかったと言えます。速球投手であり、18歳で成長途上であり、身体的に完成していない。そういう不安要素があったので、実戦投入をせずに育成させるという判断がしやすかったのです。

経営的にも合理的な判断です。入団1年目の年俸はまだ安く、育成に費やしてもダメージにはなりません。同じロッテ球団ではありますが、種市篤暉(たねいち・あつき)投手のように、1軍で活躍し年俸が上がった後で、1年以上故障・リハビリで戦線を離脱することになると、投手本人も球団も悲劇でしかありません。ロッテはその教訓を、今、生かしているのかもしれません」

Q.佐々木投手のような育成法、起用法をすれば、もっと多くの若手選手が大活躍できるのでしょうか。

江頭さん「投手の肩や肘が消耗品であることは、科学的に明らかです。しかし、過酷な使い方をしなければ、消耗期間を延ばすことはできます。今後も、佐々木投手にとって最適な投球数、投球間隔日数、登板後のコンディショニングなど、投手自身が学び、専門家にケアを依頼してゆく必要があります。球団や監督に投手自身が情報を伝え、双方にとって最適な登板スタイルをつくることが重要です。

スポーツ医療やコンディショニングの専門家が、日本にはもっと必要です。中学生や高校生の時に、誤った過酷な練習を自らしてしまう事例が少なくありません。クラブチームにしても、部活にしても、コンディショニングの専門家がついて、成長期のアスリートを大事にすべきです。

佐々木投手は、高校時代から160キロ超の球を投げ、注目されていましたが、甲子園出場がかかった2019年夏の岩手大会決勝を、監督が『故障を防ぐため』として登板回避させました。佐々木投手と彼の指導者のように、プロになる、ずっと以前から科学的に正しい練習と起用法をすべきです。そうすれば、本人の資質にもよりますが、もっと多くの素晴らしい選手が育つ可能性があると思います」

Q.佐々木投手に期待することがあれば、お願いします。

江頭さん「完全試合は素晴らしい偉業であることは、疑いの余地がありません。今後、過度な期待が、ファンやメディアから、かかってくると思います。最初に好成績を残したアスリートは、この外圧につぶされてしまうことがあります。

バルセロナ五輪の水泳で、14歳の若さで金メダルをとった岩崎恭子さんは、自宅へのいたずら電話や、後をつけられるなどの迷惑行為を受け、五輪出場を後悔したそうです。16歳で長野冬季五輪に出場したフィギュアスケートの荒川静香さんは、何人もの先輩から異なるアドバイスを受けて混乱し13位と振るわず、やはり五輪出場を後悔しています。

佐々木投手も、メディアやファンから、今後は批判的な言葉も多くなるでしょう。『勝利しなくてはならない』と考えずに、勝利に向かって全力で野球を楽しんでほしいです。負けないことを目標とするのではなく、勝つために挑戦し、プレーすること、自分はまだまだ体が未完成であるのを忘れないことが大切です。

現時点で、投手として最高といえる記録を打ち立てたので、今後、佐々木投手の成績は下がっていくでしょう。パーフェクトピッチング記録が途絶えた後が重要です。当然ですが、パーフェクトピッチング中は、走者に注意する必要はありません。走者が出たときに、どのようなピッチングをするかが鍵になると思います。

パーフェクトピッチング中の佐々木投手は、まだ野球というゲームを楽しんでいる状態ではなく、ピッチングのみをしている状態で、少年野球のエースと同じです。対戦相手と駆け引きをし、作戦の読み合いをし、ゲームを楽しんでほしいですね」

(オトナンサー編集部)

【画像】甲子園目前で敗れ、涙こらえる姿も…高校時代の佐々木朗希投手

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江頭満正(えとう・みつまさ)

独立行政法人理化学研究所客員研究員、一般社団法人日本スポーツマンシップ協会理事

2000年、「クラフトマックス」代表取締役としてプロ野球携帯公式サイト事業を開始し、2002年、7球団と契約。2006年、事業を売却してスポーツ経営学研究者に。2009年から2021年3月まで尚美学園大学准教授。現在は、独立行政法人理化学研究所の客員研究員を務めるほか、東京都市大学非常勤講師、一般社団法人日本スポーツマンシップ協会理事、音楽フェス主催事業者らが設立した「野外ミュージックフェスコンソーシアム」協力者としても名を連ねている。

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