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「母国ウクライナ守るため」五輪メダル売却、是か非か 専門家の見解は?

東京五輪やパラリンピックでメダルを獲得したウクライナの選手が、メダルを売却して母国を支援しようとする動きが相次いでいます。その是非について、専門家に聞きました。

東京五輪のメダル(2019年7月、時事)
東京五輪のメダル(2019年7月、時事)

 東京五輪やパラリンピックでメダルを獲得したウクライナの選手が、メダルをオークションにかけて資金をつくり、ロシアに侵攻されている母国を支援しようとする動きが相次いでいます。日本円に換算して約250万円で落札された事例も報道されており、ネット上では「泣けてくる」と感動する声の一方、「切ないし悲しい」「買い取った人、戦後に返してあげて」「平和の祭典のメダルが戦争のために売られるなんて…」といった声も出ています。この事態について、一般社団法人日本スポーツマンシップ協会理事の江頭満正さんに聞きました。

「がれきと化すよりは…」と決断?

Q.アスリートにとって、五輪のメダルというものは、どういう意味を持つものなのでしょうか。

江頭さん「『夢をかなえた証し』だと思います。多くのメダリストは子供の頃から、『オリンピックでメダルをとること』を目標とし、公言してきたはずです。指導者や両親の協力を得て、青春時代特有のさまざまな誘惑に負けず、己を律し、自己犠牲を厭(いと)わず何年もかけて、手にした『夢をかなえた証し』です。控えめに言っても、命の次に大事なものかもしれません」

Q.そのメダルを売却することについて、どのように思われますか。

江頭さん「国土が破壊されているウクライナの惨状を報道で見ていますと、人生を懸けて獲得したメダルがいつ、がれきと化してもおかしくありません。オリンピックのメダルも、ロシアによる攻撃にさらされているのです。メダリストの中には、ユニホームを軍服に着替え、ウクライナを守る戦線に加わっている男性も少なくありません。そのような極限状態において、メダルが持つ意味が大きく変わったのでしょう。

メダルを手放しても、オリンピックでの成績が抹消されるわけではありません。あまり知られていませんが、オリンピックには賞状もあります。メダルには獲得した選手名は入りませんが、賞状には入っています。

ロシアの攻撃によってメダルを失うくらいなら、選手自らの手で処分し、それで得られたお金をウクライナのために使おうという気持ちになったのでしょう。戦争という状況下では、『捕虜になるくらいなら自害する』という選択をした人々の歴史が数多く残されています。メダルへの愛情が高ければ高いほど、兵士として前線に向かう前に、メダルを自分で処理しようと、ウクライナのメダリストが考えるのは理解できます。

またスポーツ競技者にとって、メダルなど賞を獲得した証しも大切ですが、優秀な結果を出した際に使っていた『道具』も宝物になります。野球のグラブや、テニスのラケットなど、アスリートのパフォーマンスに影響を与える『道具』は、時として『相棒』となることがあります。高校時代部活に明け暮れた思い出の詰まった道具を、大切に保管している人は少なくありません。メダルだけがアスリートの宝物ではありません。

戦争という状況下で、家や街が破壊されることを覚悟したとき、メダルを少しでも換金して家族のため、国のために役立てたいと考えるのは不思議ではありません。ウクライナではメダルだけでなく、貴金属もオークションなどで換金されています。100万円の腕時計を持っていても戦争の役には立ちません。メダルが注目されていますが、高額な貴金属と同様に、今必要なものに交換されているということです」

Q.銅メダルが約250万円で落札されたスタニスラフ・ホルナ選手は、ウクライナ軍の支援が目的と報道されています。「平和の祭典」である五輪のメダルが、戦争のために使われることについて、どう思われますか。

江頭さん「殺りくを目的として、メダルが換金されたのであれば、許しがたいことです。しかし、人の命を救うため、戦争を早期終結させるために、メダルが換金されたのであれば、それは平和利用だと思います。この2つを明確に区切ることは難しく、曖昧な部分もありますが、侵略を受けて市民が殺りくされているウクライナの軍事物資に使われるのでれば、平和利用と考えてもいいと思います。

その『平和の祭典』を主催している国際オリンピック委員会(IOC)が、ロシアを追放しないことが不思議でなりません。2022年北京冬季五輪では、ロシアはドーピングが原因で、国家としての参加は許可されていませんでした。それにもかかわらず、プーチン大統領は、開会式に参加するという厚顔無恥な行動をし、五輪終了後にウクライナ侵攻を開始。パラリンピック期間中も戦闘を続け、『オリンピック休戦協定』に違反しました。

『例外なく、ロシア国籍のアスリートを、今後一切のオリンピックに参加させない』とIOCが発表すれば、情報統制下のロシア国内でも報道されるでしょう。ロシア国営放送はIOCを非難すると思われますが、優秀なアスリートが声を上げ、2024年開催予定のパリ大会に出場することが絶望的となれば、プーチン批判だけでなく、亡命希望者も増えるでしょう。

21世紀において、アスリートはHEROです。子どもたちの憧れであり、努力を重ね、さまざまな誘惑に負けず、自制してきた理想的な成功者として、社会的に評価されています。彼らの発信力は強く、時として国家元首をも上回る場合があります。今までのロシアメダリストたちが、反戦を訴えて立ち上がったら、ロシア国内で反戦ムードが強くなる可能性もあります。ロシアの正義を信じているロシア国民も、トップアスリートから子どもまで『オリンピック』という夢が永遠になくなることへの反発が起きてもおかしくありません」

【画像】ロシア軍の猛攻を受けたウクライナの惨状

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江頭満正(えとう・みつまさ)

独立行政法人理化学研究所客員研究員、一般社団法人日本スポーツマンシップ協会理事

2000年、「クラフトマックス」代表取締役としてプロ野球携帯公式サイト事業を開始し、2002年、7球団と契約。2006年、事業を売却してスポーツ経営学研究者に。2009年から2021年3月まで尚美学園大学准教授。現在は、独立行政法人理化学研究所の客員研究員を務めるほか、一般社団法人日本スポーツマンシップ協会理事、音楽フェス主催事業者らが設立した「野外ミュージックフェスコンソーシアム」協力者としても名を連ねている。

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