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”新入社員”が路上で「名刺交換お願いします!」…交換後に多数の営業電話、違法性は?

“新入社員”を名乗る人から路上で「新人研修の一環です。名刺交換していただけますか?」と声を掛けられ名刺交換をした後、多くの営業電話がかかってきたとき、違法性はないのでしょうか。

名刺交換後に多数の営業電話、違法性は?
名刺交換後に多数の営業電話、違法性は?

 新年度が始まったこの時期に時々経験するのが、“新入社員”を名乗る人から路上で「すみません、名刺を交換していただけますか?」と声を掛けられることです。「研修の一環で、一人でも多くの人と名刺交換しないと会社に帰れない」との事情を聞かされると、気の毒でついつい名刺交換をしてしまった人もいるのではないでしょうか。

 ただ、名刺交換をしてから数日後、会社にさまざまな営業電話がかかってくると、名刺を渡したことを後悔しますし、営業の新規開拓のために使われたことに「だまされた」と怒りすら感じます。渡した名刺が営業のために使われたとき、違法性はないのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

「1億円以下の罰金」の可能性

Q.そもそも、路上で不特定多数の人に名刺交換を求める行為自体、違法性はないのでしょうか。

佐藤さん「路上で不特定多数の人に名刺交換を求めたとしても、直ちに違法にはなりません。道路上では、交通の妨害となるような方法で立ち止まったり、しゃがみこんだりするなど、道路における交通の危険を生じさせ、または著しく交通の妨害となる恐れがある行為が禁じられています(道路交通法76条)。

そのため、名刺交換を人々の通行を妨げるような方法で行った場合、違法になる可能性があります。しかし、名刺交換は、道路の端で交通の妨害にならないように行うのが通常かと思いますので、その場合には違法性を認めることはできないでしょう」

Q.路上で名刺交換して数日後、会社にさまざまな営業電話がかかってくるようになったとします。渡した名刺が営業のために使われたとき、違法性はないのでしょうか。

佐藤さん「違法性が認められる可能性はあります。路上で名刺交換する際、『新人研修の一環』と説明し、『営業目的』を告げなかった場合、個人情報保護法に抵触するからです。

個人情報保護法は、『個人情報取扱事業者』が守るべきルールを定めています。『個人情報取扱事業者』とは、個人情報を、特定の人が検索できるようにデータベース化して、その事業活動に利用している者のことをいうため(個人情報保護法16条)、路上で名刺を収集し営業活動している企業は、これに当たると思われます。

『個人情報取扱事業者』は、うそをつくなど、不正な手段により個人情報を取得することが禁じられており(個人情報保護法20条)、本人から直接、書面に記載された本人の個人情報を取得する場合は、あらかじめ本人に対し、その利用目的を明示しなければなりません(個人情報保護法21条)。

また、利用目的は、できる限り具体的かつ明確に特定する必要があり、原則として利用目的以外に個人情報を利用することはできません(個人情報保護法17条、18条)」

Q.路上で名刺交換することを指示した企業には、法的責任が発生するのでしょうか。

佐藤さん「仮に、営業目的などなく、名刺交換の練習をするよう指示し、交換した名刺について目的外で使用しなかったのであれば、企業に法的責任が発生することはないでしょう。

しかし、個人情報を集めるのが本当の目的で、そのために名刺交換を指示したとすれば、先述したように、個人情報保護法に抵触します。その場合、『個人情報取扱事業者』である企業は、個人情報保護委員会から、違反行為の中止を勧告・命令されることがあり、命令に違反した場合、その旨を公表されたり(個人情報保護法145条)、罰則を科されたりすることがあります(個人情報保護法173条、179条)。

違反した企業に対する罰則は、2020年の法改正により厳罰化され、『1億円以下の罰金』になります」

Q.ちなみに、「自分の名刺を交換したら営業に使われる」と思い、わざと他人の名刺を渡した場合、渡した人に法的責任が発生するのでしょうか。

佐藤さん「新入社員らしき人物から名刺交換を求められた人は、通常、『個人情報取扱事業者』には当たらないため、個人情報保護法違反には問われないでしょう。

しかし、他人の名刺を本人の同意を得ることなく、第三者に渡すことは、プライバシーを侵害しているともいえるため、場合によっては、民事上、損害賠償責任を問われる可能性があります。

何より、他人に迷惑がかかるかもしれないことを認識しながら、他人の名刺を無断で渡すことは不道徳であり、避けるべきです」

Q.いかにも新入社員に見える人から「名刺交換をしてください」と声を掛けられた場合、どのように対応すれば穏便に済ませられるのでしょうか。

佐藤さん「毅然(きぜん)と断ることに何ら問題はありませんが、もし、断りにくいような場合には、『忙しいので』とか『今、名刺を持っていないので』とか理由を付けて、穏便に断ればよいのではないでしょうか。仮に、『このままでは会社に帰れない』など泣き落としをされても、特に気遣う必要はないように思います。

そもそも、名刺交換の練習は、同じ企業の従業員同士でできるはずなので、不特定多数の通行人に練習を求めることには、違和感があります。氏名や勤務先、所属、肩書など、さまざまな個人情報が分かる名刺は、渡す相手によっては悪用されるリスクがありますから、むやみに渡すことは避けた方がよいでしょう」

(オトナンサー編集部)

佐藤みのり(さとう・みのり)

弁護士

神奈川県出身。中学時代、友人の非行がきっかけで、少年事件に携わりたいとの思いから弁護士を志す。2012年3月、慶応義塾大学大学院法務研究科修了後、同年9月に司法試験に合格。2015年5月、佐藤みのり法律事務所開設。少年非行、いじめ、児童虐待に関する活動に参加し、いじめに関する第三者委員やいじめ防止授業の講師、日本弁護士連合会(日弁連)主催の小中高校生向け社会科見学講師を務めるなど、現代の子どもと触れ合いながら、子どもの問題に積極的に取り組む。弁護士活動の傍ら、ニュース番組の取材協力、執筆活動など幅広く活動。女子中高生の性の問題、学校現場で起こるさまざまな問題などにコメントしている。

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