大御所は宮沢賢治 「文章のシズル感」を伝えるテクニックとは何か?
新刊「ちょっとしたことで差がつく 最後まで読みたくなる 最強の文章術」の中から、文章術に関するエッセンスを紹介します。

さらりと読んでもパッと情景が浮かぶ、そんな臨場感ある文章は読んでいて楽しいものです。皆さんは、「犬の鳴き声を表現してください」と言われたらどのように答えますか。おそらく「ワンワン」と答える人が多いと思います。「猫の鳴き声を表現してください」と言われたらどう答えますか。「ニャーニャー」が多いはずです。
このような、動物の鳴き声やしぐさといった、音・動きなどを文字にした言葉のことを「オノマトペ」と言います。今回は、筆者の新刊「ちょっとしたことで差がつく 最後まで読みたくなる 最強の文章術」(ソシム)の中から、文章術に関するエッセンスを紹介します。
「オノマトペ」は感情に伝わりやすい
Apple社創業者でもあるスティーブ・ジョブズはプレゼンの天才と言われましたが、必ず「オノマトペ」を使っていました。画面をスライドさせるときに、「ブン」「ボン」などの言葉を使い、聴衆がイメージしやすいように伝えていたのです。
読売巨人軍終身名誉監督の長嶋茂雄さんは、「ビューッと来たら、バシンと打て」というようなアドバイスを、独特の抑揚をつけて、身ぶり手ぶりで教えていました。
「オノマトペ」には、読者の感情に訴えやすくなるという大きなメリットもあります。言葉で映像をイメージさせるのに効果的なのです。日本語は「オノマトペ」の種類がとても多いのです。
〈擬音語・擬声語〉実際の音を描写した言葉
メーメー、ブーブー、ドクドク、ガチャン、ゴロゴロ、ガタンゴトン、パチパチ、チャリーン、ドカン、ズズー
〈擬態語〉身ぶりや状態、様子、感情などを音で表した言葉
バラバラ、メロメロ、モクモク、キラキラ、ギラギラ、ピカピカ、ワクワク、ドキドキ、たっぷり、きゅん、じーん、ムラムラ
擬声語、擬態語は臨場感や躍動感を演出するにはもってこいの言葉で、読者に強い印象を与えることができます。例えば、「梅雨に入り、雷の音がする」というより、「梅雨に入り、ゴロゴロと雷の音がする」と擬音語を入れただけで、より季節感がでます。
・新しく車を買った。
→ 新しく車を買った。ピカピカだ。
・妻が誕生日のお祝いをしてくれた。
→ 妻が誕生日のお祝いをしてくれた。じーんときた。
・できたてのピザを食べた。チーズが溶けておいしかった。
→ できたてのピザを食べた。チーズがとろりと溶けて、サクサク感も抜群だった。
・目があった瞬間、胸の高鳴りを感じた。熱いものがこみ上げてきた。
→ 目があった瞬間、キュンと胸の高鳴りを感じた。熱いものがグッとこみ上げてきた。
同じ状況を文章にしているにもかかわらず、擬態語を入れた例文は、風景が目に浮かび、感情の高まりを感じます。リアリティーも増すことが分かると思います。
「オノマトペ」の大御所は宮沢賢治
さて、「オノマトペ」の説明に忘れてはいけないのが、宮沢賢治です。日本文学において、宮沢賢治は「優れたオノマトペの神様」や「オノマトペの達人」と、称されています。独自の創作オノマトペが作品の至るところに現れ、読者の魅力を引き付けます。
次の2つのオノマトペ(カタカナ部分)は何を意味しているか分かりますか?
(1)なんでも構わないから、早くタンタアーンと、やって見たいもんだなあ。
(2)林の中をなきぬけて、グララアガア、グララアガア、野原の方へとんで行く。
(1)は、猟で獲物を仕留める音です。「注文の多い料理店」の冒頭で使われています。(2)は、「オツベルと象」の一節です。象の群れが勢いよく走っていく様子を表現しています。興味のある人は「宮沢賢治のオノマトペ集」 (ちくま文庫) などをお読みください。
擬声語・擬態語は多用しすぎると、文章が子どもっぽくなる傾向もありますが、状況を描写するには秀逸なテクニックなので覚えていて損はありません。
感じたままを言葉に変えて、読者の共感を得られるのが理想の使い方です。独創性を発揮してさまざまなフレーズを書いてみましょう。表現の引き出しが増えて、文章力が磨かれていきます。
(コラムニスト、著述家 尾藤克之)
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