役所も企業も…誤りを“見て見ぬふり” 「誤りを正せない心理」に解決策はある?
官民問わず、内部で何らかの問題があっても「見て見ぬふり」をする人がいます。「誤りを正せない心理」とは、どういう状態で、解決策はあるのでしょうか。心理カウンセラーに聞きました。

国土交通省で長年、統計データの書き換えが続いていたことが発覚しました。しかも、問題に気付いた後も、一部職員が是正を提案したのに上司が取り合わず、抜本的な改善や公表を先送りにしていたようです。民間企業でも、社内で何らかの問題があっても「見て見ぬふり」をする人がいるものです。こうした「誤りを正せない心理」とはどういう状態で、解決策はあるのでしょうか。心理カウンセラーの小日向るり子さんに聞きました。
自己保身が最大の要因
Q.行政、民間にかかわらず、自分が所属する組織で、何らかの誤りがあるのに正せない心理とはどのようなものでしょうか。まず、その誤りを正せる権限のある管理職や責任者の場合について、教えてください。
小日向さん「何らかの誤りがあった場合、組織の上部にいる人は誤りが生じた原因を判明させ、再度起こらないよう、対策を考え、それを公表する責任があります。さらに、場合によっては管理監督責任を問われて、懲罰を受ける可能性もあります。従って、大きくは『原因追及のために指揮を執る労力が面倒』という心理と『懲罰を受けることが怖い』という自己保身の心理があるのではないかと推測します。
平穏に業務が進んでいるときは、彼らは非管理職より高い報酬と社会的ステータスがあるので、そういった意味でもなおさら、その権利は手放したくないでしょう」
Q.次に、権限のない部下が誤りに気付いたものの正せない、あるいは指摘できない場合について、その心理を教えてください。
小日向さん「状況によって、幾つか考えられますが、まず一つは、自分の業務に対して熱意がないという心理要因です。熱意がない人たちは『お金がもらえれば何だっていい』といった姿勢で仕事と向き合っていますので、業務の是非にはそもそも関心がないのです。
もう一つ考えられるのは『指摘をした際の報復が怖い』といった恐怖の心理です。責任を取らされた上司の恨みから、左遷人事を受けるなどの可能性がある場合、それが誤りであっても恐怖心から動けなくなってしまいます。これも管理職や責任者と派生は異なるものの、同じく、自己保身の心理です」
Q.誤りを自らは正せない、あるいは指摘できない人の中にも、外部から指摘を受けたら、素直に誤りを認める人もいるようです。その心理とは。
小日向さん「誤りを正せない自分自身に対して、良心の呵責(かしゃく。悪いことをした自分に対して、自身の良心から、その言動を責めること)があると、指摘によって、素直に誤りを認めやすく、また、呵責が大きい人ほど、積極的に調査に協力する傾向があると感じます。
良心の呵責に苛(さいな)まれている時間は苦しいものですから、指摘は彼らにとって不利なことでなく、むしろ、その苦しみから解放される『絶好の機会』とさえ感じられるのではないでしょうか」
Q.逆に、外部から指摘を受けてもなかなか、誤りを認めようとしない人がいます。その心理とは。
小日向さん「誤りを認めることで『自分に不利な状況』となることと『自分の良心』をてんびんにかけて、自分の良心を捨てるという選択をした人は誤りを認めません。しかし、その選択は一概に、自己保身を含めた自己中心的な思考だと断罪できるものでもないということは押さえておきたいところです。なぜなら、例えば、誤りを認めることで家族までもが路頭に迷うことになるなど、その選択をする背景は個々に異なるからです」
Q.組織内の誤りに気付いたとき、望ましい態度や心構えとは。
小日向さん「もちろん、人として望ましい態度だけで論じるのであれば、すぐに誤りを告発して、訂正や再発防止に動く、懲罰も受け入れるという姿勢がベストです。しかし、先述したように、自分も含めて、人にはそれぞれ抱えている状況、価値観があり、組織はそうした個人の集合体であることは忘れてはなりません。
従って、その組織にいるという選択をしている限りは『自分が組織の一員として、どう動くことが組織の最適解となるのか』という視点を忘れずに誠実に誤りと向き合い、誤りを正していく方向を模索することが大切だと思います」
(オトナンサー編集部)
コメント