ボロボロで恥ずかしい…歯科医院に行く勇気のない人へ、医師の思い&アドバイスは?
「歯科治療が怖い」「歯がボロボロで恥ずかしい」といった事情で長年、歯科医院を受診する決心がつかない人は少なくないようです。そうした人たちに対する歯科医師の思いを聞きました。

歯の治療を受けることに対して「苦手」「怖い」といったネガティブな印象を持っている人は少なくないと思います。そんな気持ちが強いあまり、長年にわたって歯科の受診を避けたり、通院を途中でやめてしまったりした人の中には、虫歯や歯周病などが進行して歯がぐらついていたり、歯を失ってしまったりしているケースもあります。
しかし、逆にそのような状態になったことで「歯がボロボロだから受診する決心がつかなくて、気付けば10年がたっていた」「虫歯も歯石も多過ぎて、口の中を見せるのが恥ずかしい」「歯医者さんに怒られそうで、歯科医院に行くのがますます不安」などの思いを抱え、何年も受診から遠のいている人もいるようです。
「歯科医院に行く勇気が出ない」人たちに対して、歯科医師はどのような思いを持っているのでしょうか。こどもと女性の歯科クリニック(東京都港区)院長で歯科医師の岡井有子さんに聞きました。
“歯科恐怖症”の人は結構いる?
Q.一般的に、かかりつけの歯科医院には、どのくらいのペースで通うのが理想なのでしょうか。
岡井さん「口腔(こうくう)内が健康な状態の人であれば、3~6カ月ごとに1度の通院で問題ないと思います。歯石が付きやすい人は3カ月、歯磨きが上手で口腔内環境のよい人は6カ月を目安にするとよいでしょう。虫歯など、何らかの問題を抱えた人は、その問題が解決するまでは基本的に毎週の通院治療、また、治療の完了後は3カ月に1度の通院が望ましいです。ただし、通院ペースは患者さんの状態や医院の治療方針によって異なるので、受診時に相談しましょう」
Q.「歯の治療が苦手(歯科医院が苦手)」「歯がボロボロで見せるのが恥ずかしい」などの理由で、長期間にわたって受診をしていなかった患者さんは実際にいるのでしょうか。
岡井さん「何らかの原因で歯科が怖くなってしまった“歯科恐怖症”の人は結構おられます。『とにかく怖い』『麻酔が効かなかった』『知人の歯科医院で無理が言えなかった』など理由はさまざまですが、歯医者さんでお口を開けることができないのは子どもだけでなく、一部の大人の患者さんにも共通しています。
私のクリニックの場合は子どもと女性を中心に診療対象としているので、『歯医者さんが怖い』と歯科医院を受診できなくなった人にも『怖くなさそう』と感じていただきやすいのか、『実は歯医者さんが怖くて何年も行けていなくて…』という人にも来院いただいています。そのような人はやはり、口腔内が“ボロボロの状態”であることが多く、歯周病がひどく進んだ状態になっていたり、歯石もたくさん付いていたりします。
もちろん、虫歯も進んでいます。中には、歯周病がひどく、歯がグラグラになっていたり、(歯の根っこだけが残った)残根状態で抜歯を必要としたりする場合もあります」
Q.実際、さまざまな理由で長期間、歯科を受診する決心がつかなかった患者さんが歯科を受診し、悪い状態が進んでいた場合、その状態を見た歯科医師は率直にどう思うことが多いのでしょうか。中には「恥ずかしい」「どう思われるだろう」「怒られるかも」と気にする患者さんもいるようです。
岡井さん「『どうして、ここまでひどくなるまで…』とは正直思いますが、先述のように、歯科医院に行けなかった理由があるのだから仕方ありませんよね。思い切って、勇気を出してお越しくださった患者さんなので、今回は治療が中断しないように声を掛けながら、今から、お口の環境をよくできるように頑張ろうと切り替えます」
Q.仮に、お口の中が“ボロボロの状態”の場合、治療のプランはどのように組み立てていくのですか。
岡井さん「痛みがある場合はまず、痛みの部位の治療(抜歯など)を優先します。その後、歯周病治療を開始します。歯周病が落ち着いてきたら、歯周病の治療は継続しながら、虫歯の部分を治療します。症状や問題のある歯の本数にもよりますが、抜歯や小さな虫歯は1日、根っこの治療は3週間から長くて2カ月、歯周病治療は2カ月程度、入れ歯は1カ月、ブリッジなど補綴(ほてつ)物は1カ所につき、型取りを含め、2週間程度の期間を要します。
歯周病治療と他の処置は並行できますが、歯周病が改善した上で詰め物などの治療を行うことが望ましいです」
Q.「歯医者に行くのが怖い」「ボロボロの歯で受診する勇気がない」などの思いから、歯科医院の受診をためらっている人も少なくないと思います。
岡井さん「歯科医院に行くのが怖い人は医院のウェブサイトでドクターの写真などを見て、『この先生なら怖くなさそう』という医院を探すのもよいと思います。最近はウェブサイトに先生のお顔の写真が出ていることが多いので、気が合いそうな先生を探してみましょう。また、クリニック名の印象などで探すのも一手です。クリニック名には、その先生の思いが込められている場合も多いです。私の場合、『子どもと女性』を掲げているので、やはり、『怖くなさそう』というイメージがあるのかもしれませんね。
歯のトラブルを防ぐためにはまず、歯磨きです。歯磨きがしっかりできていれば、たとえ虫歯になったとしても進行を抑えられます。歯磨きにもさまざまなノウハウがあるので、上手な歯磨きの方法を歯科医院で教えてもらいましょう。虫歯を放置していてもよくなることはありませんが、歯磨きが上手であれば急激な進行はないからです。また、歯科医院でお口を開けられない人もいると思いますが、その理由の一つに『嘔吐(おうと)反射』があります。
これがある人は笑気ガスを吸入することでリラックス状態をもたらし、痛みが感じにくくなる『笑気麻酔』に対応できる歯科医院を選ぶのも一つの方法です。また、笑気ガスを扱っていない医院でも、嘔吐反射がある旨を事前に先生に伝えておくと、鼻呼吸を促したり、楽な姿勢を取らせてくれたりと、クリニックサイドで配慮できる場合があるので相談してみましょう。
『クリーニング時の器具(スケーラーチップ)の触る感じが嫌』『(治療中の水や唾液を吸う)バキュームが嫌』『タービンの音が嫌』など、患者さんによって苦手なこともいろいろあると思いますが『○○が嫌だから、歯科医院が怖い』と原因が分かっている場合、その理由を先生に伝えてみると、案外すぐに解決するかもしれません。『歯医者に行かなきゃいけないな』という思いは皆さんが感じておられると思うので、歯科医院に足を向けるきっかけを探していただきたいなと思います。
また、将来、子どもたちが同じ思いをしなくて済むように、歯科医院が嫌な場所とならないような配慮を私たち歯科医師も心掛けねばなりません。そのためにも、親御さんには予防を第一に考えていただきたいですね」
(オトナンサー編集部)
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