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喫茶店で咳をしたら“マナー違反”と注意され…相手の写真をアップし炎上「晒すのは論外」、法的には?

喫茶店で、風邪による咳をしていたら「マナー違反」と注意されたので、相手の後ろ姿を撮影してSNSにアップした――。この行為と投稿が大きな物議を醸しました。法的にはどのような問題があるのでしょうか。

腹が立って相手の写真を投稿する行為、法的には?(写真はイメージ)

投稿者は風邪をひいていたという

「喫茶店で風邪による咳(せき)をしていたらマナー違反だと注意された」という趣旨の投稿が先日、SNS上で話題となりました。投稿者はツイッターでこれに反論し、ついでに相手の女性の後ろ姿を撮影してアップ。この行為が物議を醸していました。

 そのツイートは次のような内容です(現在は非公開)。

「今、風邪引いてる前提でお話しします。喫茶店で斜め前に座ってる女が私にこんな紙を渡してきたんですよ。ずっとマスクしてたし食べるときは外すの仕方なくないですか。腹たったので『おさえてます』って言いながら紙投げ返しちゃった。人にどうこういう前にお前、体どうにかしろよ」

 渡された紙には「せきをするなら 必ず手でおさえてください マナー違反です」と書かれており、「体どうにかしろよ」というのは、女性が太り気味の体型であることを指していたようです。

 女性の後ろ姿を撮影し、写真をアップした投稿者は次のように続けました。

「こういうの晒(さら)すと『盗撮じゃないですか! ネットにあげるなんて! 非常識! キー!』みたいなこと言う人一定数いるのわかってたけど、だから顔とか分からないように後ろ姿にしてんじゃん。うるさ。そういう人は絡んでこないで」

 これについてSNS上では「注意されて腹立つのはわかるけど、晒すのは論外」「その場で解決しろよ」「すみませんの一言で済むのに、なんでわざわざアップすんの」など、さまざまな声が上がりましたが、芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士は投稿者の行為の法的問題について、次のように話します。

「『お前、体どうにかしろよ』という悪意のある投稿は、刑法231条の侮辱罪にあたる可能性があります。同条は『事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する』と定めています。『お前、体どうにかしろよ』というコメントは、直接的な表現ではありませんが、状況からすると『公然と人を侮辱する』場合に該当する可能性があるでしょう。また、民法上の不法行為である『侮辱行為』により本人の人格権を侵害し、精神的な損害を与えたとして慰謝料を請求できる可能性があります」(牧野さん)

 後ろ姿とはいえ、写真をアップする行為についてはどうでしょうか。

「後ろ姿であっても、その本人と特定しうるものであれば個人の肖像権やプライバシー権を侵害している可能性があります。これらは基本的には民事上の権利で、同意なく自分の姿を公衆にさらされない権利です。本人の承諾なくその人が写った写真を公開した場合、それだけで肖像権の侵害となり、その人が受けた精神的損害を賠償する必要があります。さらに、写真を手がかりにその人が特定され、執ようにコンタクトをされて精神的損害を受けた場合も、その損害を賠償しなければなりません。また、写っていた人の名誉を毀損したり、プライバシー権を侵害したりしたことで民法上の不法行為が成立し、精神的損害(慰謝料)を賠償しなければなりません。ただし、肖像権やプライバシー権は制定法ではなく、判例上認められている権利なので、基本的に刑事罰はありません」

(オトナンサー編集部)

牧野和夫(まきの・かずお)

弁護士(日・米ミシガン州)・弁理士

1981年早稲田大学法学部卒、1991年ジョージタウン大学ロースクール法学修士号、1992年米ミシガン州弁護士登録、2006年弁護士・弁理士登録。いすゞ自動車課長・審議役、アップルコンピュータ法務部長、Business Software Alliance(BSA)日本代表事務局長、内閣司法制度改革推進本部法曹養成検討会委員、国士舘大学法学部教授、尚美学園大学大学院客員教授、東京理科大学大学院客員教授を歴任し、現在に至る。専門は国際取引法、知的財産権、ライセンス契約、デジタルコンテンツ、インターネット法、企業法務、製造物責任、IT法務全般、個人情報保護法、法務・知財戦略、一般民事・刑事。

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