50歳ひきこもり長男を案じる母と姉 母亡き後、年金6万円で生活厳しく…どうする?
ひきこもりの子どもを持つ親は自身が亡くなった後も、子どもが生活を続けていけるように備える必要があります。その対策について、専門家が解説します。

ひきこもりのお子さんがいるご家庭にとって、家族内で将来のお金の見通しを共有するのはとても大事なことです。いつか、どこかの時点で、お子さんにもお話をすることになるのですが、お子さんにとっては刺激が強過ぎる可能性があります。お金の見通しを共有した後は、お子さんの心の支えになるような、ご家族のフォローが欠かせないことでしょう。
父親が亡くなり生活厳しく
「50歳になる、ひきこもりの弟について相談したい」と姉から依頼を受けた筆者はそのご家族と面談をすることになりました。当日は姉(長女)と母親、そして、ひきこもりの弟(長男)がやってきました。長男はひょろりと背が高く、ほとんど外出をしていないためか、肌はかなり色白。筆者があいさつをしても反応はありません。終始うつむいて、体を小さくしており、気力があまり感じられませんでした。
ご家族のお金の見通しを立てるため、筆者は家族構成や家計収支から伺いました。
長男(50) 無職
母親(81) 無職
長男と母親の2人暮らし
長女(52) 結婚して、母親家族とは別居
父親は1年前に死亡
父親が亡くなった後、収入は母親の老齢年金と遺族年金のみとなりました。月額に換算すると約16万円。今のところ、親子2人分の生活費は賄えていますが、貯金をするほどの余裕はありません。財産は小さな自宅と貯金が600万円ほどで、長男が65歳になった後の公的年金は月額で約6万円です。
このままでは、母親が亡くなった後、かなり早い段階で貯金が底を突いてしまうことが分かりました。また、長女からの資金援助も期待できないことも今回の面談ではっきりしました。ご家族でお金の見通しを共有した後、部屋には重苦しい沈黙が漂いました。ひきこもりの長男が面談に出席したということは「何かを変えたい」という気持ちがあるのかもしれません。そう思った筆者はご家族の様子をうかがいつつ、次のような話をしました。
「例えば、息子さんがこれから、お仕事を始めて、月数万円でも稼げるようになれば、お金の見通しはやや改善します。お仕事についてはどのようにお考えでしょうか」
その問い掛けに母親と長女は無言のまま。その目は「仕事はおそらく難しいでしょう」と語っているようでした。筆者が長男の方に視線を向けると、下を向いたまま、肩を震わせています。その目からは大粒の涙がこぼれていました。
「自分でも働かなくちゃいけないことは分かっています。でも、どうしても働くことができません…。体力も自信もないし、人とうまく付き合っていくこともできません。いまさら、仕事に就けるわけがありません…」
長男の悲痛な声が部屋に響きました。
家族と約束したことは?
母親亡き後、長男の年金収入だけでは生活が成り立ちそうもありません。そこで、筆者はご家族に次のような話をしました。
「おそらく、将来のどこかの時点で、息子さんは生活保護を受給することになるでしょう。ただ、生活保護になるからといって、何も準備しなくてもよいというわけではありません。息子さんが1人で役所の窓口に出向き、きちんと事情を説明できるかどうか。説明することが難しいと感じるのなら、同席してくれる人は誰かいないのか。そのようなことを考えて、準備しておく必要があります」
すると、長女は筆者に相談を依頼するまでのいきさつを語り始めました。
父親が亡くなった後、長女と母親は2人でお金について話し合ったそうです。「母親亡き後、長男はおそらく、生活保護になるだろう」という意見で一致しましたが、一方で「長男は社会とのつながりがほとんどなく、外部の人間に助けを求めることはしないだろう」と思ったそうです。
長男と長女は疎遠であり、長女にすら助けを求めない可能性もあります。家族だけで長男と話をしても感情的になってしまい、話し合いがうまくいかないかもしれません。そこで、第三者(筆者)を交えて話し合うことにしました。長男には母親から、「家族の大事な話をしたい」と説得してもらい、何とか、面談に同席してもらうことになったそうです。
母親は長男の肩にそっと手を乗せ、優しく語り掛けました。
「私が亡くなった後、生活に困ってしまったら我慢せずに、まずはお姉ちゃんに相談して。お姉ちゃんと一緒に役所に行って、助けてもらいましょう」
長女が母親に続きました。
「私から、お金の援助はできないけど、役所で一緒に相談することはできるわ。困ったら連絡して。約束よ」
母と長女の言葉に、長男は泣きじゃくりながら何度もうなずいていました。
ひきこもりのご家族のお金の見通しは厳しい結果になってしまうこともよくあります。お金の見通しを共有した結果、お子さんが少しでも働いて、お金を稼げるようになればよいのですが、うまくいかないこともあります。親亡き後、生活に困ったら、まず、誰に連絡を入れ、サポートしてもらうのか。あらかじめ、ご家族で話し合って決めておくとよいでしょう。
(社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー 浜田裕也)
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