さいとう・たかをさん死去 分業制「ゴルゴ13」は継続へ、著作権は誰のもの?
漫画制作に分業制を取り入れていた漫画家が亡くなり、没後も連載を続けた場合、「著作権」はどうなるのでしょうか。亡くなった人の著作権について、弁護士に聞きました。

人気漫画「ゴルゴ13」の作者、さいとう・たかをさんが9月24日に亡くなったことが発表されました。さいとうさんは漫画制作に分業制を取り入れており、連載は今後も続くとのことですが、さいとうさんの没後に作られた漫画の著作権はどうなるのでしょうか。亡くなった人の著作権について、芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。
「二次的著作物」扱いに
Q.まず、漫画家が亡くなった場合、生前に描いた作品の著作権がどのような扱いになるか、教えてください。
牧野さん「漫画は著作権法で保護される『思想または感情の創作的な表現』=著作物として、権利が保護されます。著作物を創作した著作者(今回の場合は、さいとう・たかをさん)の権利は著作物を創作した時点で発生し、第1に、人格的な利益を保護する『著作者人格権』(公表権、氏名表示権、同一性保持権)、第2に、財産権として保護される『著作権』(複製権、公衆送信権などで、保護期間は著作者の生存期間とその死後70年間)の2つの法的権利があります。
著作者人格権は著作者が精神的に傷つけられないよう保護する権利の総称で、財産的な価値とは別の権利です。著作者だけが保有する『一身専属権』で譲渡や相続は原則できません(例外的に法定の範囲、つまり、孫など2親等までの親族は一定条件で権利行使が可能)。他方で、著作権は財産権として、譲渡や相続ができます。
今回の場合、さいとうさんの生前の漫画作品の著作権の扱いについて考えると、さいとうさんの死後は、相続人に相続されて、さいとうさんの死後70年間存続するのが原則です。さいとうさんの漫画を利用したい当事者は、その許諾を相続人から得る(通常、使用料の支払いを伴います)必要があります」
Q.さいとう・たかをさんは生前から、漫画の分業制を確立していたそうです。分業の場合の著作権は一般的に、どのようになるのでしょうか。
牧野さん「さいとうさんのように分業制を確立していた場合の、一般的な漫画家のケースを想定して説明します。原則として、漫画家本人が著作者と公表され、スタッフは創作ではなく、漫画家の指示に従って、作業的な貢献しかしていない場合、原則として、漫画家本人の単独の著作物となります。
しかし、スタッフと創作部分を分業していた場合、その創作性への寄与の度合いになりますが、漫画家本人の単独の著作物ではなく、プロダクションのスタッフとの共同著作物になる場合があります。その場合、著作権も著作者人格権も共有することになります」
Q.「ゴルゴ13」は今後も連載が続くとのことです。漫画家の没後にできた作品の著作権はどうなるのでしょうか。
牧野さん「死後に創作された漫画については、死者は創作ができませんので、その漫画家が新たに創作した著作物とはいえません。プロダクションのスタッフが共同で創作したのであれば、その漫画家の原作に依拠した、スタッフの新たな『共同著作物』=『二次的著作物』になるでしょう。
そこで、相続人の著作権(二次的著作物を創作する場合に許諾が必要な『翻案権』)や遺族の著作者人格権(勝手に改変されない『同一性保持権』)の侵害リスクがありますので、生前の漫画作品の相続人や法定の遺族(相続人とは限りません)の承諾(通常、使用料の支払いを伴います)が原則必要でしょう。
また、原著作物の著作者は著作権法28条で、スタッフの新たな『共同著作物』=『二次的著作物』に対して、スタッフと同じ著作権を保有しますので、著作権の権利期間が満了するまでは著作権の相続人の承諾(通常、使用料の支払いを伴います)が必要でしょう。
ただし、生前に、財産権である著作権をプロダクションへ譲渡しておけば、著作権は相続されず、翻案権の承諾は不要でしょう。それでも、著作者人格権(同一性保持権)は譲渡できないので、子や孫など法定の権利を付与された親族への配慮は必須と思われます。
なお、亡くなった時点で制作が途中まで進んでいて、没後に完成した作品の場合、亡くなった人と完成させたスタッフとの『共同著作物』になると考えられます」
Q.ちなみに、芥川龍之介(1892~1927年)や太宰治(1909~1948年)は没後70年以上過ぎています。彼らの作品をモチーフにした二次的著作物(例えば、映画、ドラマなど)、あるいは派生小説を作りたいと思った際、彼らの著作権は気にする必要はありますか。例えば「羅生門」の続編を勝手に書いて、書籍として発表することはできますか。
牧野さん「仮に元の作品そのままであれば、商業利用もできます。一方で、質問のようなケースについては著作権が切れても、続編のような形も含め、作品を改変する行為については同一性保持権の侵害になりますので、注意が必要です。本人が亡くなっていても、孫などの法定の権利を付与された親族の承諾を得るのが無難でしょう」
(オトナンサー編集部)
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