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日本人は「ダメな事業」でもやめられない民族? “やめずに成功”事例も

就活や転職、企業人事のさまざまな話題について、企業の採用・人事担当として2万人超の面接をしてきた筆者が解説します。

日本人は「やめる」のが苦手?
日本人は「やめる」のが苦手?

 コロナ禍、しかも、緊急事態宣言下での東京五輪開催について、太平洋戦争時の日本になぞらえる議論がありますが、企業経営においても、日本人は問題のある事業やダメな事業であっても「やめる」ことが苦手だとみられています。それはなぜなのか、考えてみましょう。

「続ける」ことが得意な日本人

 まず、日本人の特徴について考えると、日本人は「続ける」ことが得意な民族のようです。2020年度版の日経BPコンサルティング・周年事業ラボの調査によると、世界で最も「100年企業」(創業から100年以上の企業)が多いのは日本です。その数は3万社以上、世界シェアでは4割超です。さらに200年企業でみても、日本はこれまた世界1位の1340社でシェアは65%です。

 また、現存する世界最古の企業も日本にあり、寺社仏閣建築を手がける金剛組(大阪市)で創業はなんと578年ですから創業1400年以上です。ちなみに、京都にある筆者の自宅のすぐ近くにも創業1200年を超える仏具店があります。これらを見ると、驚異的な「続ける」力だと言わざるを得ません。

 一方、失礼に聞こえたら恐縮なのですが、これは別の観点でみれば、「やめなかった」「やめられなかった」とも言えます。もちろん、先ほど挙げたような会社は素晴らしい事業をやっているのでそれをやめる必要などないのですが、歴史のどこかのタイミングで、一つの選択肢としては寺社仏閣の建築や仏具をやめて、時代に合わせた新しい事業に変えてもよかったかもしれません。

 ただ、日本の超老舗企業は旅館業や紙製造、和菓子、お酒、お茶など、ずっと「一筋」を貫いて生き残っている会社がほとんどです。超老舗企業は諸外国も似た部分があるのですが、そういう「一筋」企業が日本はずぬけて多いのです。

「どんどん事業を入れ替える」生き残り方も

 一方、100年企業の数が日本に次いで多い(約2万社、シェア約24%)の米国の会社を見てみましょう。代表格であるエジソンが創ったゼネラル・エレクトリック(GE)は創業140年超です。

 GEはもともと、電球などをつくる家電メーカーでしたが、8代目最高経営責任者(CEO)ジャック・ウェルチが「世界でNo.1かNo.2でなければ再建か売却か閉鎖だ」と宣言し、金融事業やメディア事業に参入しました。その後、9代目CEOジェフ・イメルトは今度は金融事業やメディア事業から撤退し、エネルギー関連、医療、航空機関連、データの分析関連を現在の事業の柱にしています。このように、どんどん事業を入れ替えて生き残る会社も諸外国には多いのです。

 もちろん、日本でもソニーのように、金融やゲームや映画などへ事業のポートフォリオをどんどん入れ替える経営をしている企業は増えています。ただ、まだまだ、そこまでの大転換をできる企業は多くはありません。一筋でやり続けて生き残るか、一筋を通したが故に消滅するかというケースが多いように思います。

 その理由の一つに、日本人の性格があると思われます。日本人の性格は他国に比べて、農耕民族的な保全性が高いことがパーソナリティーテストの研究者などによって明らかにされています。一つの領域で改善を重ねて掘り下げることに適している人が多いのです。だから、「やり続ける」のかもしれません。

「諦め」ができない

 また、日本人は「損切り」が下手な民族であるとも言われます。既に失敗してしまって取り返せないコスト(サンクコスト=埋没費用などと言われます)をなかなか諦めずに、さらなる投資を続けることが多いからです。

 諦めなければ、その間はさらに損害が拡大していようとも確定はしていないので、責任を取らなくても済みます。しかも、同調圧力の強い日本人の組織は全会一致的合意形成をすることが多いので、みんなで始めたものを誰かがやめさせることで、全員に損害を確定させることがしにくいのです。みんなが「この投資はダメだ」と思っても、自分がそれを言いだす勇気のある人が少ないということです。

最後は自分の決断

 以上、日本の会社がなぜ、ダメだと思われるような事業でもやめられないのかについて、いろいろ述べてきました。そのために大変な目に遭う人もいることでしょう。

 しかし、最後に述べておきたいのは「できるまでやったらできる」というのも一つの真理であるということです。サンクコストとは、もう役に立たない資産を指しますが、それが将来にわたって役に立たないかどうかは誰にも分かりません。「やめた方がいい、絶対に成功しないから」と言われ続けても、やめずにやった人が成功する例はたくさんあります。

 そう考えると、日本人が「やめにくく」「続けやすい」人たちなのであれば、無理してどんどん変えるスタイルを取らず、「成功するまでやる」スタイルで戦ってもよいのかもしれません。冒頭で述べた長寿企業の多さもそれを物語っているようにも思います。

「結局、どっちなんだ」と言われそうですが、ここまで述べてきた日本人の特性やその長短を理解した上で、自分自身で決断することが大事だと筆者は思います。

(人材研究所代表 曽和利光)

曽和利光(そわ・としみつ)

人材研究所代表

1971年、愛知県豊田市出身。灘高校を経て1990年、京都大学教育学部に入学し、1995年に同学部教育心理学科を卒業。リクルートで人事採用部門を担当し、最終的にはゼネラルマネジャーとして活動した後、オープンハウス、ライフネット生命保険など多様な業界で人事を担当。「組織」「人事」と「心理学」をクロスさせた独特の手法を特徴としている。2011年、「人材研究所」を設立し、代表取締役社長に就任。企業の人事部(採用する側)への指南を行うと同時に、これまで2万人を超える就職希望者の面接を行った経験から、新卒および中途採用の就職活動者(採用される側)への活動指南を各種メディアのコラムなどで展開している。著書に「組織論と行動科学から見た 人と組織のマネジメントバイアス」(共著、ソシム)など。

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