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隣の部屋から生活音…壁をたたいたりして「仕返し」すると、法的責任は?

集合住宅に住んでいると、隣の部屋などから生活音が聞こえ、騒音と感じることがあります。騒音に対する「仕返し」として、壁や天井をたたく人もいますが、法的責任は問われないのでしょうか。

騒音に「仕返し」したら?
騒音に「仕返し」したら?

 集合住宅に住んでいると隣や階下、階上の部屋から、足音や掃除機、洗濯機などの生活音が聞こえてくることがあります。夜間に大きな生活音が聞こえてくると、騒音トラブルの原因となりますが、そこまで大きな音ではなくても、神経質な性格の人は気になって、ストレスをためるケースもあります。

 中には注意喚起のために、わざと壁や天井などをたたく人もいるようですが、こうした生活音の騒音に対する「仕返し」が、法的責任を問われる可能性はないのでしょうか。芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

騒音主の法的責任は?

Q.周囲の多くが迷惑と感じるような騒音をわざと引き起こすと、何らかの罪に問われるのでしょうか。

牧野さん「生活騒音そのものを取り締まる法律はありませんが、周囲の多くが迷惑と感じるような騒音をわざと引き起こした場合、犯罪として成立する可能性はあります。例えば、軽犯罪法1条14号では『(警察官などの)公務員の制止を聞かずに、人声、楽器、ラジオなどの音を異常に大きくして静穏を害し、近隣に迷惑をかけた者』を『拘留または科料の刑罰に処する』と規定しています。

刑法208条では『暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役、もしくは30万円以下の罰金、または拘留、もしくは科料に処する』とあります。騒音を故意に、しかも非常に強烈に引き起こした場合、『音による暴行』として暴行罪が成立する可能性もあるでしょう。

また、刑法204条では『人の身体を傷害した者』を15年以下の懲役、または50万円以下の罰金である傷害罪として罰すると定めています。音による暴行の結果、相手が聴覚障害や睡眠障害、その他の精神障害などを引き起こした場合、傷害罪が成立する可能性もあるでしょう。わざと騒音を引き起こしていなくても、刑法209条1項の過失傷害罪が成立し、30万円以下の罰金、または科料に処される可能性もあります」

Q.そこまで大きな生活音ではない場合でも、気になって精神的に負担を感じたり、体調を崩したりした場合、騒音主に対して法的責任を問えるのでしょうか。

牧野さん「極端に大きな生活騒音でないと刑事罰の対象にはなりにくいですが、社会生活の中で我慢すべきである限度の『受忍限度』を超える騒音の場合、民法709条の『不法行為』(故意や過失による他人の権利の侵害)に当たり、一定の要件を満たせば、民事訴訟による損害賠償請求が可能です。実際、損害賠償請求を認めた裁判例は多数あります。

騒音が受忍限度を超えているかどうかは、騒音の被害を受けた個人的な我慢の限度に加え、騒音が深夜や早朝に及んでいるか、長時間か短時間か、騒音値(デシベル)などの客観的な基準から総合的に判断されます。東京都環境局は、住居用地域の騒音環境基準を昼間(午前6時~午後10時)は55デシベル以下、夜間(午後10時~翌日午前6時)は45デシベル以下と定めています」

Q.生活音の騒音に対する「仕返し」として、騒音主への注意喚起のため、わざと壁や天井などをたたくと、罪に問われることがあるのでしょうか。

牧野さん「生活騒音で不愉快な思いをすることはあっても、『仕返し』として、わざと壁や天井などをたたく行為をすべきではありません。『音による暴行』で騒音主に恐怖心を与え、暴行罪に問われたり、仕返しにより、騒音主が何らかの疾患を抱えると、傷害罪に問われたりする可能性があります。民事責任を追及される恐れもあります。

問題が何も解決しないどころか、双方で感情的にエスカレートして、むしろ、さらなる深刻なトラブルに発展する可能性があるので絶対にやめるべきです」

Q.騒音トラブルのときには「まずは当事者間で話し合ってください」ということをよく聞きます。しかし、注意された騒音主が感情的になることも考えられ、危険だと思うのですが、なぜ、「まずは当事者間で話し合いを」となるのでしょうか。

牧野さん「管理会社や大家さんといった仲介者が入ると、お互いの言い分の微妙な感覚が伝わらずに伝言ゲームとなり、より大きなトラブルになるリスクがあるためです。一般的な解決方法としては(1)当事者へ口頭で伝える(2)直接話し合うと感情的になる可能性もあるので、手紙やメモで伝える(3)管理会社や大家さんに相談をする――という方法があります。(1)(2)は当事者間の解決方法ですが、それでも解決できない場合は(3)になるでしょう。

ただし、騒音を解決しようとする過程で嫌がらせを受けたり、大きな音で威嚇されたりするなど、身の危険を感じる行為があるときは刑事犯罪に当たる可能性があるので、警察に通報・相談をしましょう」

Q.管理会社や大家さんに相談しても解決しそうにない場合、弁護士などの第三者を立てて、交渉した方がよいのでしょうか。

牧野さん「最終手段として、費用はかかりますが、弁護士など法律の専門家に相談することになるでしょう。仮に裁判に発展する場合、騒音計での騒音記録、騒音主に何度も改善を申し入れた事実、警察への被害相談の記録、健康が損なわれた場合は医師の診断書など、客観的な証拠を集めておくことが重要になります。

集合住宅を購入・賃借する場合、基本的な問題意識として、騒音問題に悩まされない防音対策が十分な部屋かどうかを選択基準に加えて選ぶようにしましょう」

(オトナンサー編集部)

牧野和夫(まきの・かずお)

弁護士(日・米ミシガン州)・弁理士

1981年早稲田大学法学部卒、1991年ジョージタウン大学ロースクール法学修士号、1992年米ミシガン州弁護士登録、2006年弁護士・弁理士登録。いすゞ自動車課長・審議役、アップルコンピュータ法務部長、Business Software Alliance(BSA)日本代表事務局長、内閣司法制度改革推進本部法曹養成検討会委員、国士舘大学法学部教授、尚美学園大学大学院客員教授、東京理科大学大学院客員教授を歴任し、現在に至る。専門は国際取引法、知的財産権、ライセンス契約、デジタルコンテンツ、インターネット法、企業法務、製造物責任、IT法務全般、個人情報保護法、法務・知財戦略、一般民事・刑事。

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