オトナンサー|オトナの教養エンタメバラエティー

受験でうつ病に…25歳ひきこもり長女が「障害年金」受給を決断するまで

病気が原因で就労が困難なひきこもりの人の中には、貴重な収入源となる障害年金の受給をためらう人もいます。なぜでしょうか。

障害年金をためらう理由は?
障害年金をためらう理由は?

 働くことが難しいひきこもりのお子さんにとって、公的年金は大事な収入源になります。例えば、公的年金の一つである障害年金は条件を満たせば、若い人でも受給できます。しかし、障害年金が受給できるような状況なのに、それをためらってしまうご家族も一定数いるようです。彼らは一体、どのようなことを心配しているのでしょうか。

真面目な性格が災いし…

 障害年金の相談で訪れた母親(56)はひきこもりの長女(25)のことについて、筆者に話し始めました。母親によると、長女は高校3年の頃、「受験のストレスでおなかを下す」「食欲がない」「よく眠れない」といった症状が現れたため、近所の内科へ通うようになりました。

 内科では軽い睡眠薬や安定剤をもらっていましたが、それでも症状は一向に改善しませんでした。日に日に受験へのストレスが強くなり、勉強もままならない状態に。受験当日は試験会場へ向かうことができず、大学進学の道は閉ざされてしまいました。

 もともと、真面目な性格だった長女はその現実を受け入れることが難しく、毎日のように自分を責め続けたそうです。受験の失敗後は外出もほとんどせず、精神的にどんどん不安定になっていきました。

 ある日、内科の医師から、「今のような状態なら、精神科で診てもらった方がよいと思います。紹介状を書きますから、そちらを受診してください」と言われ、19歳の頃に精神科を受診しました。

 精神科の医師からは「うつ病」と診断され、その後、現在に至るまで通院治療をしています。しかし、容体はなかなか改善せず、働くことも難しい状態でした。無収入であることを不安に思った長女はある日、医師に相談しました。すると、医師からは「障害年金の請求をしてみてはどうか」とアドバイスされたそうです。

 母親の話を踏まえて、筆者はこう言いました。

「初めて病院で受診した日が20歳前なので、娘さんは『障害基礎年金』を請求することになります。医師からもすすめられたということなので、受給が認められる可能性はあるとみてよいでしょう。障害基礎年金は1級と2級があり、より障害状態の重い人が1級です。仮に娘さんが2級に該当した場合、金額はこのようになります」

 筆者はこう説明し、月々の受給金額を紙に書きました。

障害基礎年金 月額約6万5000円
障害年金生活者支援給付金 月額約5000円
合計 月額約7万円

「親御さんと同居している間に障害年金の一部を貯蓄していくことで、将来に備えることができます。例えば、7万円のうち1万円を娘さんの医療費や日用品などに、残りの6万円を貯蓄に回したとすると、30年間で2160万円になります。このくらいの貯蓄ができれば、お金に関してはそう悲観的になることもありません」

「そうですね。かなりの金額になりますね…」

 力なくつぶやいた母親は浮かない顔をしていました。

長女が受給をためらう理由

「何か気になっていることがあるかもしれない」と感じた筆者は母親に質問しました。

「受給に関して、何かご不安などがありますか?」

 すると、母親は長女が抱えている心配事を話しました。母親によると、長女は「障害年金を受給していることが近所の人にバレてしまうのではないか」「近所の人から陰口やひどいことを言われてしまうのではないか」といったことをとても気にしているとのことでした。

「娘から、そのような話をされて、私もすごく心配になってしまいました。本当に障害年金を受給しても大丈夫なのでしょうか」

 それに対して、筆者はこう答えました。

「娘さんやご家族が自分から言わない限り、障害年金を受給していることが近所に伝わることはありません。大丈夫です。また、他のご家族のケースになりますが、障害年金を受給することで『自分が何か悪いことをしているのではないか』といった負い目を感じてしまうお子さんもいるようです。

しかし、そもそも、障害年金はその障害によって生活や仕事が制限されてしまう人の助けになるように国で定めているものなので、受給自体は悪いことではありませんし、法律に違反するわけでもありません。受給の権利があるのであれば受給し、それを足掛かりに生活の基盤を立て直していく方が望ましいと私は考えます」

「そうですね。娘にもそのように伝えてみます。お金が入ってくるようになれば、娘も少しは安心できると思いますし」

「障害年金の請求に向けて、そろえるべき書類はたくさんあるので、もしよろしかったら、私もお手伝いします。ご安心ください」

「はい。分かりました。そのときはご連絡いたします」

 そう答えた母親の顔に少しだけ、笑みが浮かびました。後日、ご家族から、正式に依頼を受けた筆者は障害年金の請求のお手伝いをしました。そして、彼女は無事、障害基礎年金を受給することができました。

(社会保険労務士・ファイナンシャルプランナー 浜田裕也)

浜田裕也(はまだ・ゆうや)

社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー

2011年7月に発行された内閣府ひきこもり支援者読本「第5章 親が高齢化、死亡した場合のための備え」を共同執筆。親族がひきこもり経験者であったことから、社会貢献の一環としてひきこもり支援にも携わるようになる。ひきこもりの子どもを持つ家族の相談には、ファイナンシャルプランナーとして生活設計を立てるだけでなく、社会保険労務士として、利用できる社会保障制度の検討もするなど、双方の視点からのアドバイスを常に心がけている。ひきこもりの子どもに限らず、障がいのある子ども、ニートやフリーターの子どもを持つ家庭の生活設計の相談を受ける「働けない子どものお金を考える会」メンバーでもある。

コメント