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「人に任せるよりも自分でやった方が早い」 仕事を任せない人の問題点とは?

就活や転職、企業人事のさまざまな話題について、企業の採用・人事担当として2万人超の面接をしてきた筆者が解説します。

新人に仕事を任せない人も
新人に仕事を任せない人も

 春になり、今年も多くの会社に新入社員がやってきました。まだ、人事部主導の全体研修などを受けている段階かもしれませんが、早晩、各部署に配属されて、皆さんの後輩として一緒に働くことになるでしょう。

 新人を育てるのも先輩社員の大切な仕事の一つですが、近年、生産性の向上ばかり要求されての余裕のなさの表れか、厳しい成果評価による競争の行き過ぎのせいか分かりませんが、後輩に対して「育てよう」という意識の低い人が増えているように感じます。「手のかかる新人の世話をするのが面倒くさい」という人もたまにいますし、「新卒採用なんてやめてしまって、中途採用だけでいいじゃないか」という人もいます。中途採用重視の是非はともかく、「育成意識」は減っているようです。

 また、育成意識がないとまでは行かなくとも、「人に任せるよりも自分でやった方が早い」と新人や若手に仕事を任せない人もよく見かけるようになりました。果たして、それでいいのでしょうか。

「罪」とまでは言えないが…

 実際、「自分でやった方が早い」と彼らが言うように、その人が頑張って仕事をやりきってしまう方が、よちよち歩きの新人や若手にやらせるより、抜群に生産性やクオリティーも高く、短期的には会社への貢献度は高くなります。

 経営陣も上司たちも日頃から「生産性を上げろ」と言っているだけに、なかなか注意しづらい状況ですし、もっと言えば、仕事を任せていないことの是非はさておき、彼らが頑張っていることは事実ですから、「罪」とまでは言えないでしょう。ただ、それでも「人に任せるよりも自分でやった方が早い」という考え方はやめるべきだと思います。

【理由1 人は仕事で育つ】

 一つの理由は、人は仕事で育つものだからです。よく、「人が成長するのは仕事経験が7割、上司の薫陶が2割、教育研修が1割」などと言われます。多くの人が同感してくれるのではないでしょうか。「部下や後輩に仕事を任せない」というのは、その7割の仕事経験を奪ってしまうことともいえます。

 どんな人でも最初は素人です。最初からプロの仕事ができる人はいません。野球の練習ばかりしていて、一度も実戦経験のない人が突然、試合に出てもいきなり成果は出せないでしょう。失敗する可能性の高いことを前提として仕事を任せなければ、人は育ちません。もっと言うと、仕事を任せない人は「成長機会を独占している」とも言えます。会社全体の能力の底上げを考えるのであれば、やはり問題でしょう。

【理由2 事業の継続性に悪影響を与える】

 また、自分が一番早く仕事ができるからといって、仕事を人に任せないでおくと、その仕事は「ブラックボックス」化してしまい、その人しかできないものになっていきます。これは会社にとっては大変なリスクです。

 会社というものは継続していくために、万一誰かが抜けたとしても、仕事が滞ることがないようにしなければなりません。仕事を任せない人はそのことによって、会社を危険にさらしているとも言えるのです。筆者も昔の上司によく、「おまえがいなくなっても会社が回るようにすることが本当の仕事だ」と言われましたが、その通りだと思います。

【理由3 業務改善を阻む】

 理由は他にもあります。ある人がなんとかして特定の仕事をやり遂げてしまい続けていれば、アウトプットだけ見るなら問題ないかもしれません。しかし、そこに至るまで、どんなプロセスで仕事をしているのかが分からない状況であれば、もしかすると「もっとよい方法でやればいいのでは」「そもそも、そのプロセスは不要なのではないか」という評価をすることができなくなり、その仕事のプロセス改善ができなくなります。

 人に仕事を任せると、その過程で「なぜ、このプロセスをこういう順番でやるのか」「この仕事にどんな意味があるのか」を説明する必要が出てきますが、それは業務改善のチャンスです。これがなくなってしまい、無駄な仕事が温存されてしまう可能性があります。

一番悪いのは経営陣や上司

 さて、仕事を人に任せずに抱え込んでやりきってしまう人が中長期的にみると、どんな問題を引き起こすのかについて述べてきました。しかし、冒頭でも述べたように、やっている本人は頑張っているわけですので、「仕事を抱え込む」ことをすべて、彼らの罪とするべきではありません。

 むしろ、彼らにそうさせているのは経営陣や上司たちではないでしょうか。やってくれることをいいことに、その状態にあぐらをかいて、短期的な生産性のみを享受し、会社の未来に対して人的、金銭的な投資をしていないのは「上」の人です。

 仕事を任せずやりきってしまう人から、仕事を引き離すことは権限上、可能なはずです。それをしないのは「上」の不作為というものです。生産性の向上は別の方法でなんとかするのが「上」の仕事であり、抱え込む人に責任を押し付けるようなことをしてはいけません。つまり、「人に任せるより自分でやった方が早い」人の問題とは、むしろ、「人に任せるより自分でやった方が早い」人を放置している経営陣や上司の問題という面が大きいのです。

(人材研究所代表 曽和利光)

曽和利光(そわ・としみつ)

人材研究所代表

1971年、愛知県豊田市出身。灘高校を経て1990年、京都大学教育学部に入学し、1995年に同学部教育心理学科を卒業。リクルートで人事採用部門を担当し、最終的にはゼネラルマネジャーとして活動した後、オープンハウス、ライフネット生命保険など多様な業界で人事を担当。「組織」「人事」と「心理学」をクロスさせた独特の手法を特徴としている。2011年、「人材研究所」を設立し、代表取締役社長に就任。企業の人事部(採用する側)への指南を行うと同時に、これまで2万人を超える就職希望者の面接を行った経験から、新卒および中途採用の就職活動者(採用される側)への活動指南を各種メディアのコラムなどで展開している。著書に「組織論と行動科学から見た 人と組織のマネジメントバイアス」(共著、ソシム)など。

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