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コロナに屈さず 日向坂46、ライブパフォーマンス集団としての進化と真価

停滞しなかったコンセプチュアルライブ

 しかし、このような状況下で、日向坂46の特性の一つであるコンセプチュアルなライブは停滞するわけではありませんでした。本来ならば、初の東京ドーム公演が実現していたはずの2020年12月、日向坂46は前年に続くクリスマスライブ「ひなくり2020~おばけホテルと22人のサンタクロース~」をオンライン配信で開催します。

 一見すると、この「ひなくり2020」もまた、前回と同じくサンタクロースたちを主役とする、明るくファンタジックな物語を描くコンセプチュアルライブでした。しかし、前年と同様に広くフラットなスペースを用いた会場には、無人の観客席を並べてペンライトを配置し、観客の不在をあえて可視化します。

 その上で展開される、メンバー演じるサンタクロースたちの住む世界に「朝が来ない」という非常事態を起点にしたライブ全体のメインストーリー、そして、その原因を打破しようとするクライマックスは明らかに、ライブ空間をオーディエンスと共有する日常が戻ってくることへの願いを物語化したものでした。

 前年よりもさらに音楽劇としての性格を強め、コンセプチュアルな物語の中にストレートな祈りを託したパフォーマンスを日向坂46は実現してみせました。ポピュラーな立場を担うアイドルグループ・日向坂46の営為を考えるとき、こうしたアウトプットの意義は小さくないはずです。

 それから数カ月、新型コロナウイルスの感染状況はいまだ予断を許さず、デビュー2周年を祝うライブイベントもオンラインのみでの開催になりました。とはいえ、得意のコンセプチュアルなライブに祈りの物語をのせ、現実の世界に投じてみせた日向坂46が次に見せる表現には、やはり期待がかかります。

 先の「ひなくり2020」では、素早く動くワンカット長回しのカメラに対応してメンバーたちが配置を次々に変えたり、AR技術を用いてメインステージに大きな虹をかけて、クライマックスのハイライトを作るなど、現在のライブ環境に合わせて、むしろ、オンラインを通じてこそ効果的な演出を施す様もうかがえました。

 今日、メディアで存在感を増す日向坂46が現在、どのようなパフォーマンス集団であるのか、その根幹に最も接近できるのは、来る配信ライブかもしれません。

(ライター 香月孝史)

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香月孝史(かつき・たかし)

ライター

1980年生まれ。ポピュラー文化を中心にライティング・批評やインタビューを手がける。著書に「乃木坂46のドラマトゥルギー 演じる身体/フィクション/静かな成熟」「『アイドル』の読み方 混乱する『語り』を問う」(ともに青弓社)、共著に「社会学用語図鑑 人物と用語でたどる社会学の全体像」(プレジデント社)、執筆媒体に「RealSound」など。

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