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白石麻衣&西野七瀬、乃木坂46との“つながり”がもたらす現在の姿

長らく、乃木坂46の顔として活躍、現在はソロで活動をしている白石麻衣さんと西野七瀬さん。卒業後も活躍が続く背景には、グループ在籍時からの“つながり”があると筆者はいいます。

白石麻衣さん(2019年12月、時事)、西野七瀬さん
白石麻衣さん(2019年12月、時事)、西野七瀬さん

 2011年8月に結成された乃木坂46は今夏、誕生から10周年を迎えました。女性グループアイドル活況の2010年代を歩んできた乃木坂46はやがて、アイドルシーンの中心的存在へと成長していきますが、その期間はまた、在籍するメンバーが個々人としての活動実績を着実に重ねていく時間でもありました。

 活動初期から、演技やファッションモデルなど組織としての得意分野を意識的に開拓してきた乃木坂46ですが、継続的に種をまいてきたその成果は今、グループを卒業した人々の、現在形のアウトプットへと着実に結実しつつあります。

 ここでは、長らく乃木坂46の顔として活躍し、それぞれ出演するテレビドラマがこの9月に最終回を迎えた、白石麻衣さんと西野七瀬さんに着目しつつ、個々の演者としての現在、また、在籍していたグループの活動との接続がいかにうかがえるか、その一端に触れたいと思います。

アイコンとしての役割を果たす白石麻衣

 9月24日に最終回を迎えたばかりのドラマ「漂着者」(テレビ朝日系)で、新谷詠美役を務めていたのも記憶に新しい白石さんですが、今年も複数のファッション雑誌の表紙を務め、また、広告の顔としても頻繁にメディアに登場するなど活躍を続けています。さまざまな種類の媒体で、アイコンとしての役割を演じていくという活動は乃木坂46在籍時から長年、彼女が絶えず行ってきた仕事です。

 もとより、アイドルという職能自体が、いくつものジャンルを越境しながら、アイコンを務めることのプロフェッショナルですが、白石さんはグループ在籍期間を通じて、そうしたアイドルの特性を体現してきた代表的な存在でした。

 その意味で、現在の白石さんの活躍も、乃木坂46でのキャリアで示してきた特性をさらに発展した先に見える景色と言えます。また、白石さんは昨年から今年にかけて、そのようなアイドルグループ在籍時の活動と個人としての活動、それぞれの在り方を緩やかに接続するような見せ方を行ってもきました。それが、現在登録者数135万人を数える白石さんの公式YouTubeチャンネル「my channel」です。

 昨年、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、グループからの卒業が延期されていた期間に開設された白石さんの公式チャンネルはその成り立ちからして、一人の芸能者としての白石さんと出身グループとを独特の形でつなぐ性質を持っていました。

 やがて、正式にグループを離れた後はパーソナルな側面を発信する動画の他、白石さん自身が広告に参加している企業とコラボレーションした動画では、本人のキャラクターを生かして、公式チャンネルのコンテンツとして成立させつつ、PRの顔としての機能も果たします。自らの公式チャンネルを用いたこのような発信はまた、彼女が長年行ってきたアイコンとしての職能を表すものです。

 個人としての活動や、ちょっとした隙間のひとときをのぞかせるようなオフショットを動画で伝える一方、乃木坂46に在籍中のメンバーや直近の卒業メンバーとの交流、あるいはグループ在籍時のトピックを中心的に扱った動画も、同チャンネルではごく自然に織り込んでいます。

 それらは個人とグループとを緩やかにつなぐ、昨年来の「my channel」の特質を引き続き見せるものでありつつ、現在では異なる立場にいる芸能人同士が確かに、同じルーツを共有していることをファンに提示してみせるようなコンテンツでもあります。

 一人の芸能人としての白石さんのありようを表現しながら、かつての在籍グループとのつながりを並列して見せるこれらのアウトプットは、グループでキャリアを開始した人物が、その先にどのような軌跡を描いてゆくのかを連続的に見ていくような趣があります。

俳優として飛躍する西野七瀬

 白石さんよりも一足早く、2018年末でグループの活動を終え、翌年2月に卒業ライブを行って、正式にソロの活動に入ったのが西野七瀬さんでした。その西野さんは個人としての活動が3年目に入っている現在、俳優としての活躍がとみに目を引くようになっています。

 7月に放送開始、9月15日に最終話が放送されたドラマ「ハコヅメ~たたかう!交番女子」(日本テレビ系)にも牧高美和役で出演していた西野さんですが、今年は劇団☆新感線の舞台「月影花之丞大逆転」や、8月に相次いで公開された映画「孤狼の血 LEVEL2」「鳩の撃退法」といった作品への出演を通じて、より、役者としてのレンジを広げている印象です。

 もちろん、これらの活動はソロになって以降の俳優としての飛躍でもありますが、一方で、西野さんはグループ在籍時から、演技者の片りんを見せてきた人でもありました。

 俳優としての活動機会を意識的に設けている乃木坂46の中で、西野さんは在籍時、外部のドラマや映画作品への出演が際立って多かったわけではありません。しかし、グループが数多く制作してきた、優れたドラマ型MVや個人PVといった映像コンテンツの中では、微細な表情の移ろいの表現などに早くからさえを見せ、楽曲世界を豊かに拡張する役割をしばしば果たしてきました。

 公開中の「孤狼の血 LEVEL2」では、村上虹郎さんが演じるスパイの姉・近田真緒役を西野さんが務めています。一見すると、意外な配役として受け止められもしたキャスティングですが、裏社会に強く関わる刑事やヤクザの構成員らとも深い関係性を持ち、また、現実社会に長く根を張る問題を背負い込む立場でもある真緒役を、西野さんは作中でごく自然に引き受けています。

 時に憂いをたたえながら、決して大仰でなく、心情を表現するさまは、物語世界は大きく違えども、かつてのドラマ型MVなどでうかがうことができた、西野さんのスタイルの変奏でもあります(その意味では、一般なイメージとしての「アイドルらしさ」のようなものを求められる局面もあった今春の舞台「月影花之丞大逆転」の方が、西野さん自身の演技表現としては、イレギュラーであったとさえ言えるかもしれません)。

 10月には、主演を務める新ドラマ「言霊荘」(テレビ朝日系)が放送開始、12月にはグループ卒業直後に出演し話題を呼んだドラマ「あなたの番です」(日本テレビ系)の劇場用映画の公開が控えるなど、今年の西野さんは引き続き、俳優分野での開拓が続きます。ここからさらに、俳優としての線が太く、色濃くなってゆく過程が見られそうです。

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香月孝史(かつき・たかし)

ライター

1980年生まれ。ポピュラー文化を中心にライティング・批評やインタビューを手がける。著書に「乃木坂46のドラマトゥルギー 演じる身体/フィクション/静かな成熟」「『アイドル』の読み方 混乱する『語り』を問う」(ともに青弓社)、共著に「社会学用語図鑑 人物と用語でたどる社会学の全体像」(プレジデント社)、執筆媒体に「RealSound」など。

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