オトナンサー|オトナの教養エンタメバラエティー

白石麻衣&西野七瀬共演 「広告」に見る俳優育成グループとしての乃木坂46

2021年版「アサヒスーパードライ」春限定スペシャルパッケージの広告キャラクターに、元乃木坂46の白石麻衣さん、西野七瀬さんが起用されました。「乃木坂46×広告」という視点で筆者が分析します。

白石麻衣さん(2019年12月、時事)、西野七瀬さん
白石麻衣さん(2019年12月、時事)、西野七瀬さん

 1月26日から発売される2021年版「アサヒスーパードライ」春限定スペシャルパッケージの広告キャラクターに、白石麻衣さんと西野七瀬さんが起用されることが発表されました。これまで、両者とも、それぞれにアサヒビールの広告に登場することはありましたが、かつて、乃木坂46を代表するメンバーとして活動し、現在、個々に独自の道を開拓している2人が改めて顔を合わせる今回の企画は注目度の高いものになりそうです。

 同商品の春限定パッケージの広告についてはすでに昨年、白石さんを含む乃木坂46メンバーが出演しています。当時、グループからの卒業を発表していた白石さんになぞらえるような物語が仕立てられ、自らの道を切り開くため留学する白石さんの旅立ちを他のメンバーが祝福する設定のCMが放映されました。この年の春限定パッケージは同商品史上過去最高の売り上げを記録していますが、今年の白石さんと西野さんの起用はこのCMの系譜に位置するといえるでしょう。

グループ結成以来の「演技」への傾斜

 昨春から引き続く同商品の広告展開をはじめ、近年の乃木坂46は数多くの広告キャラクターを務めてきました。特にここ1年ほどの「乃木坂46×広告」に着目すると、単に知名度の高い芸能人の起用という事象にとどまらない、コンテンツ制作の追求が見えてきます。

 実のところ、それらは乃木坂46が長い年月をかけて積み重ねてきた営みが直接的に発展したものにほかなりません。その営みとはすなわち、乃木坂46が結成以来、重きを置く演技への傾斜、そして、本格的なドラマ型作品を中心とした映像コンテンツとしての充実度です。

 まず、昨年の春、前述の「アサヒスーパードライ」春限定パッケージと前後する時期に発表されたのが与田祐希さんや久保史緒里さん、遠藤さくらさん、賀喜遥香さんらが出演したブルボン「フェットチーネグミ」の広告企画でした。映像作家の横堀光範さんが監督・脚本を務めたドラマ作品が制作され、高校の演劇部を舞台に進路や他者から向けられる視線に悩みながら、自身のやりたいことに手を伸ばそうとする物語がつづられます。

 もっとも、複数作られたテレビCMで流れるのはあくまで、ダイジェストか予告編のようなドラマの断片でした。この企画の本領は尺の短いテレビCMではなく、ブルボンのサイトやSNSで公開されるウェブムービー“本編”の方にあります。“本編”、すなわち、フルバージョンのムービーでは、CMとしての尺の長短を気にせず、登場人物それぞれの背負う文脈や関係性を細かく描いています。それはもはや、オーソドックスな意味でのCMというよりも、ほとんど独立した一編のドラマ作品のように作られています。

 同年秋には齋藤飛鳥さん、生田絵梨花さん、秋元真夏さん、松村沙友理さん出演による第2弾も同様のスタイルで制作され、第1弾の青春群像劇よりも先の人生、それぞれの道が定まり始めた人々の物語が描かれて、ドラマとして発展していきました。

 このように、1つのグループ内に人生のさまざまな段階を自然に、また、巧みに演じられるメンバーを育んできたことも現在の乃木坂46の強みです。

 俳優を育てるグループとしての充実ぶりの一助となってきたのは、乃木坂46が楽曲をリリースするたびに手間をかけて多数制作してきた映像作品でした。大掛かりな規模で作られるドラマ型ミュージックビデオや、毎年大量に作られてきた「個人PV」と呼ばれる映像をはじめとする作品群はメンバーに演じるための機会を度々提供してきました。

 また、あくまで、楽曲リリースに付随した映像制作でありながらも、楽曲に従属するノベルティーとしてではなく、それら映像作品自体が乃木坂46のアイデンティティーを示す活動の一つとなっていることも特徴です。

 前述した「フェットチーネグミ」企画のように、散発的なCMにとどまらず、独立した映像作品のような趣のムービーを手掛け、そのプロジェクト総体の豊かな発信が受け手に訴求していくスタイルは、こうした乃木坂46自身が行っている映像制作、および、発信と相通じるものです。

1 2

香月孝史(かつき・たかし)

ライター

1980年生まれ。ポピュラー文化を中心にライティング・批評やインタビューを手がける。著書に「乃木坂46のドラマトゥルギー 演じる身体/フィクション/静かな成熟」「『アイドル』の読み方 混乱する『語り』を問う」(ともに青弓社)、共著に「社会学用語図鑑 人物と用語でたどる社会学の全体像」(プレジデント社)、執筆媒体に「RealSound」など。

コメント