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堀未央奈、乃木坂46卒業 際立つ“演技力”と“発信力”が切り開く未来

乃木坂46の堀未央奈さんが、来年1月にリリースされるシングル「僕は僕を好きになる」の活動をもってグループを卒業へ。これまでの軌跡を振り返ります。

堀未央奈さん
堀未央奈さん

 乃木坂46の堀未央奈さんが11月27日、グループからの卒業を発表しました。同日に公開された彼女のソロ楽曲「冷たい水の中」のMV内で卒業を宣言、来年1月にリリースされる乃木坂46のシングル「僕は僕を好きになる」の活動をもってグループを離れます。

 乃木坂46の2期生メンバーとして加入した堀さんは2013年にシングル表題曲「バレッタ」のセンターポジションに抜てきされて以降、グループの中心メンバーとして活躍してきた人物です。一方では、独特の存在感で女優としての萌芽(ほうが)を早くから見せてきた人でもありました。

 また近年では、その言動に静かな力強さをのぞかせる機会も多く、その立ち居振る舞いからは発信者としての説得力も増していることがうかがえます。そうした発信力や存在感を持つメンバーが所属していることは、表現者が集う組織として信頼感に直結するだけに、堀さんの旅立ちには頼もしさと寂しさが同居します。

合流と同時にセンター起用、慣例に

 すでに触れたように、堀さんは2013年に発表された乃木坂46の7枚目シングル「バレッタ」でセンターに抜てきされ、正規メンバーとして実質的なデビューを果たします。新加入メンバーが、グループ全体の活動に合流するタイミングでセンターに起用される施策は堀さん以後、3期・4期生メンバーにも適用され、乃木坂46の慣例になりました。

 もっとも、堀さんがセンターに選出された2013年秋時点では、1期生以外のメンバーがシングル活動に関わっておらず、新期メンバーがどのようにグループに溶け込んでいくのか先例もなく、いまだ不透明な時期でした。そのため、加入から日の浅い人物の唐突なセンター起用は恣意(しい)的に波乱を起こしてグループをかき乱す、いわば、劇薬的な性格の強いものだったといえます。

 つまり、新期メンバーを育む体制が整った現在の乃木坂46とはいささか異なる環境で、堀さんはデビューを迎えました。乃木坂46が自らのブランドや方向性を確立する以前、グループの模索の一つとしての、半ば強引な物語を新人の堀さんは引き受け、キャリアをスタートさせたことになります。多人数グループのストーリー形成において、当事者にこうした負荷がかかることは軽視されるべきではないでしょう。

 乃木坂46の模索期のひずみは堀さんが属する2期生メンバー全体にも影響を及ぼすものでした。草創期から乃木坂46の顔を託されてきた1期生や、グループが充実期を迎え、方針が定まった環境のもとで新たな任務を担う3期・4期生に対して、乃木坂46が方向性を探っている過程で加入した2期生はそのタイミング故になかなか報われにくい局面も多く、それは組織として現在形の課題でもあります。

 その中で、2013年秋から今日に至る足跡の大半を選抜メンバーとして過ごしてきた堀さんは2期生メンバーの存在を知らしめる代表格でした。彼女の活躍は乃木坂46全体に層の厚さを加えるだけでなく、グループのデビュー翌年に加入して長いキャリアを歩み続ける、2期生メンバーたちの象徴でもありました。

 他方、一人のパフォーマーとして堀さんを見るとき、演技活動において存在感が際立つ人でもあります。乃木坂46はかねてより、演技者を育むことに重きを置く組織ですが、ドラマ型作品が多いMVやグループ特有のコンテンツである個人PVにおける出演機会など、特に映像媒体で印象的な芝居を幾度も見せてきました。

 特有のひょうひょうとした風情は不条理さやオフビートなおかしみを表現する際にも、また、時に痛々しいほどの切実さを伝える際にも振り幅の大きい武器として生かされています。もちろん、その個性は乃木坂46の作品をパフォーマンスする上でも多分に発揮されてきました。

 とりわけ、山戸結希監督が手掛ける作品には堀さんの演技の鮮烈さが顕著に表れています。堀さんが主演を務めた映画「ホットギミック ガールミーツボーイ」(2019年)や、先月公開のMV「冷たい水の中」といった山戸監督作品は彼女の演技の持つ緊張感を優れて伝えるものです。

 消費される存在のありようにまで細やかに目を向け、その上で、現状をにらみ返してもみせるような山戸監督の視野は堀さん個人の仕事にとっても、乃木坂46にとっても豊かな奥行きと示唆をもたらします。

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香月孝史(かつき・たかし)

ライター

1980年生まれ。ポピュラー文化を中心にライティング・批評やインタビューを手がける。著書に「乃木坂46のドラマトゥルギー 演じる身体/フィクション/静かな成熟」「『アイドル』の読み方 混乱する『語り』を問う」(ともに青弓社)、共著に「社会学用語図鑑 人物と用語でたどる社会学の全体像」(プレジデント社)、執筆媒体に「RealSound」など。

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