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困窮者に忍び寄る新ヤミ金「給料ファクタリング」、何が問題? そもそもファクタリングとは?

新型コロナウイルスの影響で生活が苦しくなった人に「給料ファクタリング」なるものを持ち掛ける事業者がいます。「ファクタリング」とは――。

困窮者に忍び寄る「給料ファクタリング」業者とは?
困窮者に忍び寄る「給料ファクタリング」業者とは?

 新型コロナウイルスの影響による休業や解雇、自宅待機などで生活が苦しくなった人が増えています。1人10万円の特別定額給付金も6月にずれこむ地域がありそうで、手元のお金が急ぎで必要という人も増えているようですが、そうした人に「給料ファクタリング」「給与ファクタリング」などと称して現金を用意する、と持ち掛ける事業者がいます。

 この「ファクタリング」とは何のことで、法的問題はないのでしょうか。芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

実質は高利貸し、金融庁も注意呼び掛け

通常のファクタリングの仕組み。基本的には合法
通常のファクタリングの仕組み。基本的には合法

Q.そもそも、「ファクタリング」とはどういうものでしょうか。

牧野さん「ファクタリングは、中小企業などが取引先への売掛債権(商品やサービスを提供した際の売掛金など)をファクタリング業者へ売却して、当座の資金を調達する方法で、合法的に行えるものです。

ファクタリング業者は債権を買い取り、自ら債権回収をしますが、未回収のリスクを考慮して、中小企業から手数料を受け取ります。売掛債権の売買が成立した時点で、焦げ付きのリスクはファクタリング事業者が負うのが原則です。担保や保証人も原則として要求されません。貸金ではないので、貸金業の登録(貸金業法)も不要で、出資法の上限金利20%の規制も受けていません。

ファクタリングが適正に行われている場合は問題ないのですが、出資法の金利規制を受けない、いわば、このグレーゾーンを利用して、ヤミ金融業者がファクタリングを装って、高利の貸金を行うことが問題となっています。

実質的に貸金にあたる場合、貸金業の登録(貸金業法)が必要ですし、さらに、出資法の上限金利20%(これを超えると刑事罰の対象)の法規制が適用されます。金融庁のホームページでも、ファクタリングを装って高利の貸金を行うヤミ金融業者に気をつけるように注意喚起しています」

給料ファクタリングの仕組み
給料ファクタリングの仕組み

Q.なぜ、給料のファクタリングは問題なのでしょうか。

牧野さん「ヤミ金融業者はSNSなどで利用者へ、『即現金』と甘い言葉で誘ってきますが、実質高利の貸金を合法的なファクタリングを装って行う点が問題です。

例えば、月給20万円の会社員が給料日の半月前、給料ファクタリング業者に利用を申し込み、“手数料”2万円を差し引いた現金18万円を受け取ったとします。『給料債権の譲渡』という名目ですが、業者と勤務先は何ら接触せず、半月後、給料をもらった会社員自身が給料ファクタリング業者に20万円を支払います。手数料名目の2万円は実質的には利息で、年利換算すると240%という高利となります。

結局は、会社に対する給料債権(労働者が給料を受け取る権利)を高利で前借りするもので、数回繰り返すと借金が増えて破綻する結果になります。

また、そもそも、労働基準法は給料などの賃金を『直接労働者に支払う』ことを定めています。給料ファクタリング業者が『給料債権を譲渡された』といっても、勤務先から給料分のお金を受け取ることはできません。つまり、ファクタリングを装っているだけで、会社員は自身が受領した金銭(賃金)を業者に支払うことになるので、企業間で資金調達のために行われる通常のファクタリングとは異なります。

ヤミ金融業者の給料ファクタリング行為は実質、高利の貸金にあたるとされて、貸金業法違反(貸金業の不登録)および出資法違反(上限金利20%を超えると刑事罰の対象)の違法行為となる可能性があります。

金融庁もホームページで、『給与ファクタリング』と称して個人に金銭を提供し、後日回収する業者について、『貸金業登録を受けずにこうした業務を営む者は、違法なヤミ金融業者です』『絶対に利用しないでください』と注意を呼び掛けています」

Q.特別定額給付金など新型コロナ関連の給付金を、ファクタリングによって早く現金化することはできるのでしょうか。

牧野さん「政府からの給付金の振り込みが遅れれば、チャンスを狙って悪徳業者が『前借りできる』『即時に現金化できる』などと誘ってくるかもしれません。

しかし、通常のファクタリングは、債権を買い取ったファクタリング業者が債務者(買い取った債権の支払い義務を追う者)から回収する仕組みですが、今回の給付金は、本人が本人名義の口座へ振り込んでもらうように申請しますので、ファクタリングは事実上できません。

それでも、お金に困った人が『自分の口座に振り込まれたら払います』と悪徳業者に約束して、生活資金を得ようとする可能性はあります。ただし、その約束は貸金なので違法の可能性が高く、恐らく、かなり高額な手数料(事実上の違法な利息)を取られるでしょう」

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牧野和夫(まきの・かずお)

弁護士(日・米ミシガン州)・弁理士

1981年早稲田大学法学部卒、1991年ジョージタウン大学ロースクール法学修士号、1992年米ミシガン州弁護士登録、2006年弁護士・弁理士登録。いすゞ自動車課長・審議役、アップルコンピュータ法務部長、Business Software Alliance(BSA)日本代表事務局長、内閣司法制度改革推進本部法曹養成検討会委員、国士舘大学法学部教授、尚美学園大学大学院客員教授、東京理科大学大学院客員教授を歴任し、現在に至る。専門は国際取引法、知的財産権、ライセンス契約、デジタルコンテンツ、インターネット法、企業法務、製造物責任、IT法務全般、個人情報保護法、法務・知財戦略、一般民事・刑事。

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