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「さい帯血バンク」のサンプルが地震で失われたら…施設の責任を問うことはできる?

へその緒に含まれる血液である、さい帯血を保管する「さい帯血バンク」。そこに預けたサンプルが地震などで失われてしまった場合、施設側の責任を問うことはできるのでしょうか。専門家と一緒に考えます。

預けたさい帯血が天災でダメになってしまったら…

 白血病などの血液疾患や再生医療に役立つとされる「さい帯血」。母親と新生児を結ぶさい帯(へその緒)と胎盤に含まれる血液で、赤血球や白血球、血小板など血液のもとになる「造血幹細胞」を多く含んでいることから注目を集めています。

 このさい帯血を保管する機関は「さい帯血バンク」と呼ばれ、「公的バンク」と「民間バンク」のいずれも存在します。公的バンクは第三者の治療に使用するさい帯血を寄付し、民間バンクはわが子の“万が一”に備えてさい帯血を保管する機関です。

 さい帯血は出産直後にしか採取できず貴重なため、その保管体制も気になるところですが、地震などでさい帯血が失われてしまった場合、バンク側の責任を問うことはできるのでしょうか。

天災は“不可抗力”で責任問われない

 弁護士の牧野和夫さんは「地震などの天災は不可抗力であるためバンク側が責任を負うことは通常ありません」と話します。

 ただしバンクが提供者との間にどのような契約を締結しているかにもよるそう。提供者とバンクの契約が、契約違反の場合のペナルティーを定めていればその金額を請求でき、提供者に精神的損害が生じれば慰謝料を請求できる可能性があるといいます。

 バンク側が意図的にサンプルを傷つけるなどの行為があれば、器物損壊罪など刑事罰に問われる可能性もありますが、「通常は問われないでしょう」(牧野さん)。

 それでは、さい帯血のやり取りにあたって法的、倫理的などの問題が生じる可能性はないのでしょうか。

 牧野さんは「公的バンクは移植が必要なあらゆる患者に公平かつ適正に移植医療を提供するのが目的で、関連学会の影響下で運営されていますが、民間バンクはそうした影響下にないため、その質と安全性の改善に向けた法規制や基準を設けるべきだといった議論もなされています」と話しています。

(オトナンサー編集部)

牧野和夫(まきの・かずお)

弁護士(日・米ミシガン州)・弁理士

1981年早稲田大学法学部卒、1991年ジョージタウン大学ロースクール法学修士号、1992年米ミシガン州弁護士登録、2006年弁護士・弁理士登録。いすゞ自動車課長・審議役、アップルコンピュータ法務部長、Business Software Alliance(BSA)日本代表事務局長、内閣司法制度改革推進本部法曹養成検討会委員、国士舘大学法学部教授、尚美学園大学大学院客員教授、東京理科大学大学院客員教授を歴任し、現在に至る。専門は国際取引法、知的財産権、ライセンス契約、デジタルコンテンツ、インターネット法、企業法務、製造物責任、IT法務全般、個人情報保護法、法務・知財戦略、一般民事・刑事。

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