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室温17度で病院通いに…温度を低くする「エアコン奉行」上司にどう対処? 社労士の見解

暑がりで、エアコンの設定温度を低く管理したがる「エアコン奉行」の上司や先輩が職場にいる場合、どう対応したらよいのでしょうか。

「エアコン奉行」にどう対処すべきか?
「エアコン奉行」にどう対処すべきか?

 6月になると、職場でもエアコンの冷房機能を使う日が増えますが、この時季に登場するのが、いわゆる「エアコン奉行」です。暑がりで、エアコンの設定温度を勝手に低くするなど職場の室温を管理したがる人のことを呼びます。エアコン奉行が上司や先輩の場合、「勝手に冷房の設定温度を下げないでください」とは言いにくく、体調を崩して困っている人もいるようです。どのように対応すればよいのか、社会保険労務士の木村政美さんに聞きました。

「エアコン奉行」本人への注意はNG

Q.暑がりの人や寒がりの人が、夏季に同じ職場で快適に仕事ができる室温として、多くの企業では何度ぐらいに設定されていることが多いですか。

木村さん「官庁などの公共機関では、環境省が推奨している室内温度が28度で、クールビズが促進されていることから、室温は28度に設定されていることがほとんどです。

一方、民間企業では、労働安全衛生法の『事務所衛生基準規則』で『室内温度は18度~28度、湿度は40%から70%内』と定めており、この範囲内で室温設定すればよいことになっています。そのため、職場の環境や状況で臨機応変に室温を調整していると思います」

Q.上司や先輩には「勝手に冷房の設定温度を下げないでください」と言いづらく、さりげなく元の設定温度に戻しても、気付けばまた下げられているものです。どのように対応したらよいですか。

木村さん「職場の事情にもよりますが、暑がりのエアコン奉行や社員がいると、寒いからといって自己判断でエアコンの温度設定を上げるのは難しいでしょう。そこで対策としては、彼らに暑さを感じさせない工夫が必要となります。具体的には、『室内の空気を循環させる』『エアコンの吹き出し口を調整する』『空調をドライ(除湿)にする』です。

こうした工夫をしたり提案したりする他に、自分の席がまともに冷気の当たる場所にある場合は、冷気が直接当たらない場所への移動を願い出るのも方法です。くれぐれも、エアコン奉行本人に注意しないでください。注意しても事態が改善されないことが多いからです。会社の上層部に現状の改善を訴えるのも一つの方法です」

Q.エアコン奉行である上司や先輩と平社員との、壮絶な“バトル事例”を教えてください。

木村さん「ある営業所の事例です。上司である所長が異常な暑がりなのに加え、『営業から戻ってくる部下たちも涼ませるため』という理由で、夏場の事務所内の温度を常時17度に設定していました。ある内勤社員は異常なほどの寒さを感じ、洋服を着こむなどの自衛的な防寒対策を行った上で、たまに所長が留守のときに温度を上げたり、エアコンの吹き出し口に紙を貼ったりしていました。

しかし、異常な暑がりの所長が戻ってくると、すぐに元通りにされてしまいます。所長に『寒いのでどうにかしてください』と掛け合いましたが、外勤社員の暑さ対策を引き合いに出され、逆に我慢するように強制されました。

やがて、その内勤社員は冷えが原因で体調を崩し、病院通いを余儀なくされてしまいました。この段階で、内勤社員は本社の総務部に現状を訴え、その結果、所長は責務である職場環境の改善を怠ったとして厳重注意を受けました」

Q.上司や先輩のエアコン奉行に、どうしても「勝手に冷房の設定温度を下げないでください」と言えない場合、どのような自衛策がありますか。

木村さん「迷惑を被るのは男性よりも、寒がりの女性が多いです。そこで、オフィスの冷房で体が冷えないために女性ができる自衛策は、一般的ですが、カーディガンなどの上着や、ひざ掛け、靴下やレッグウオーマーなどを着用することです。移動や外出の場合に簡単に脱いだり着たりできるものがよいでしょう。

お尻の冷えを防止するために、椅子にクッションを使用することや、腰やおなかの冷え対策に腹巻きを着用することも有効です。例えば、シルクの腹巻きは薄手の生地ですが保温効果があり、洋服の下に着用しても体のラインに響かないのでお勧めです。普段から体を冷やさないようにするため、温かい飲み物や食べ物を取るのもよいでしょう。ただし、ホットコーヒーは逆に体を冷やしてしまうので注意が必要です。

また、オフィス内と外との温度差が大きいと、外出のたびに体が温度差に対応しようとするので体力を消耗します。疲れから体調を崩しやすくなりますので、しっかりと休息や睡眠を取ることが大切です」

Q.自衛策を講じても、室温の低さから風邪をひくなど体調を崩してしまった場合、労災を申請することはできますか。

木村さん「室温の低さから病気になった社員が、自ら労災の申請をすることは可能です。しかし、労災として認めるか否かは労働基準監督署が判断するため、申請すれば必ず認められるとは限りません。

労災決定の判断材料として、会社の室温の低さが原因で病気となったことを申請者自身が書類で立証する必要がありますが、風邪については、あらかじめ自衛策を講じれば病気は防げると判断され、労災が認められる確率はかなり低いと思います」

Q.エアコンの冷房をつけても、室内の冷え方にむらが出ます。冷房に頼り過ぎず、職場で均一に最適な室温にするためにできる工夫を教えてください。

木村さん「具体的には、先述したエアコン奉行への対応を行えばよいと思います」

【室内の空気を循環させる】
オフィスの空調には、冷房が効きすぎて寒い場所がある一方、ほとんど冷房が当たらず暑い場所もあるように、むらがあります。また、冷たい空気は部屋の下にたまりがちです。そこでサーキュレーターを使用し、室内の空気をかき混ぜて、むらを少なくします。狭い室内であれば、サーキュレーターの代わりに扇風機を使ってもよいでしょう。

【エアコンの吹き出し口を調整する】
エアコンの吹き出し口を下に向けた場合、冷たい空気が下にたまります。吹き出し口を水平にすると、冷たい空気が上から下へと流れるので室内温度のむらが低減します。

【空調をドライ(除湿)にする】
同じ温度でも、湿度が下がると暑さを感じにくくなります。湿度が15%下がると体感温度は1度下がるといわれています。除湿器やエアコンの除湿機能を上手に使って体感温度を下げましょう

(オトナンサー編集部)

木村政美(きむら・まさみ)

行政書士、社会保険労務士、ファイナンシャルプランナー

1963年生まれ。専門学校卒業後、旅行会社、セミナー運営会社、生命保険会社営業職などを経て、2004年に「きむらオフィス」開業。近年は特にコンサルティング、講師、執筆活動に力を入れており、講師実績は延べ700件以上(2019年現在)。演題は労務管理全般、「士業のための講師術」など。きむらオフィス(http://kimura-office.p-kit.com/)。

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