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佐々木朗希投手と白井審判員、”一触即発”の背景は? 専門家の見方

完全試合達成などで注目を浴びる佐々木朗希投手が、審判との関係を巡っても話題となっています。「一触即発」の事態は、なぜ起きたのでしょうか。

佐々木朗希投手(2022年4月、時事)
佐々木朗希投手(2022年4月、時事)

 完全試合達成などで注目を浴びる佐々木朗希投手(千葉ロッテマリーンズ)が、審判との関係を巡っても話題となっています。4月24日のオリックス戦で、球審の「ボール」という判定に不服を示したと思われたのか、球審を務めていた白井一行審判員が、佐々木投手に詰め寄る動きを見せ、「一触即発」の事態のように見えたためです。捕手や監督が間に入って、大事には至りませんでしたが、なぜ、こういった事態が起きたのでしょうか。一般社団法人日本スポーツマンシップ協会理事の江頭満正さんに聞きました。

1500試合超のベテラン、「権威」を守る使命感?

Q.4月24日の試合で、佐々木投手と白井審判員の間に起きたことを、どのように見られましたか。

江頭さん「プロ野球にも適用される公認野球規則には『監督もコーチも選手も、審判の裁定に異議を唱えてはならない』旨が記載されており、『異議を唱えるために(球審のいる)本塁へ近づいた場合、警告を出す』『警告にもかかわらず本塁に近づけば試合から除かれる(退場させられる)』との内容が書かれています。野球の公式戦において、審判には絶対的権力が与えられていると考えられます。

ただ、マウンドからホームベース側に2、3歩近づいてニヤッと笑った、という佐々木投手の行動は、審判に対する『異議』『抗議』と受け取られるようなものでしょうか。今回、佐々木投手は、本塁側へ近づきましたが、すぐに2塁側に向きを変えています。『佐々木投手が審判に異議を唱えるために本塁へ近づいた』とは断定できません。

この程度の行動で、審判が選手に対して詰め寄ることが許されたなら、日本のプロ野球選手は『審判の顔色をうかがう訓練』をしなくてはなりません。スポーツマンシップの観点から言えば、全くの誤りです。

審判は、GAMEをフェアにスムーズに進行させることが最大の役割です。もしもの話ですが、審判の威厳や権力を守るために、反抗的な選手に圧力を掛けたのだとしたら、それは審判の立場を守るためだけの行為であり、GAMEをスムーズに行うことを阻害したといえます」

Q.「審判の裁定に異議を唱えてはならない」とのことですが、プロ野球の試合中、監督が判定(審判の裁定)に抗議するシーンを見ることがあります。

江頭さん「確かに、ストライクかボールかの判定について、監督が審判に『抗議』しているように見えるケースがあります。テレビ中継では分かりにくいですが、監督は『抗議』ではなく『確認』をしているそうです。

監督が『今の(球は)ボールですか? ボール判定のポイントは何ですか?』と尋ね、審判が説明する、といった会話を行っているとのことです。監督にとっては、審判による個人差を正確に把握して、チーム全体で共有するための行為であり、審判に圧力をかけることが目的ではありません。

ただ、はっきりと『誤審だ』と自信がある場合には、退場覚悟で抗議するそうです。選手が退場になるとGAMEに大きな支障が出ますが、監督なら直接的なダメージが少ないので、頭に血が上った選手を抑えて、監督がベンチを飛び出す役割をすることもあるようです。

Q.プロ野球にもビデオ判定が導入され、適用範囲が徐々に拡大しています。

江頭さん「アメリカのメジャーリーグでは2008年から、監督からの要請があった場合、ビデオ判定を行っています。日本プロ野球においては、2010年シーズンからホームランの判定に限り実施されました。しかし当時は、審判自身が要請した場合に限り、ビデオ判定が実施され、監督やコーチから審判に要請することは許されていませんでした。

その理由は『ビデオ判定に頼るのは、審判員の技術向上に逆行する』という、フェアプレーやスポーツマンシップを無視した、審判員の事情によるものでした。アメリカから10年遅れて2018年から、やっと日本でも、監督が審判にビデオ判定をリクエストできるようになりました。ただ、限定的な範囲ではあります」

Q.今回注目された白井審判員とは、どのような人なのでしょうか。

江頭さん「佐々木投手に詰め寄った白井一行審判員は、2000年からプロ野球の審判を務めているベテランです。2021年には、通算1500試合で審判を行ったことをたたえられています。2018年には『審判員奨励賞』にも選出されています。1500試合の経験もあり、審判の信頼性、権威を守る使命感があるのでしょう。佐々木投手のわずかな表情の変化についても、許すことができなかったのかもしれません」

Q.プロ野球における、選手と審判の理想的な関係とは、どういうものでしょうか。

江頭さん「スポーツマンシップでは、審判をリスペクトすることが重要視されています。ですが、やみくもに信じろとも、絶対的な権力を認めよ、とも言っていません。審判は誤審をせず、冷静沈着にフェアなジャッジをしてほしいです。高いスキルを持ち、ベストな状態でGAMEに参加してもらうことが、スポーツを最高に楽しめる重要な要素なので、リスペクトする必要があるのです。

野球に限らず、スポーツ経験者なら、少なからず誤審で嫌な思いをしたことがあるでしょう。審判はGAMEを壊すことができる立場にいます。まして日本プロ野球のように審判に絶対的な権限が与えられていたら、極端な話ですが、審判の機嫌によってGAMEが変わってしまうこともあり得るでしょう。

個人的な意見ですが、判定の機械化には賛成です。選手に対しての好印象も悪印象もなく、誤審の生じにくいジャッジをするのが理想です。野球の場合、高度な測定技術を使えば、ストライクかボールかの判定も、アウトかセーフかの判定も、ホームランの判定も可能になるでしょう。

佐々木投手の一件で、『審判を味方につけることも重要だ』と発言した解説者がいましたが、それでは、『実力があっても、審判を敵に回せば損をする』ということになります。全くフェアではありません。

スポーツは、対戦相手と勝敗を競う遊びです。野球選手は英語で『BASEBALL PLAYER』であり、『Competitor(競技者)』でも、『Fighter(戦士)』でもありません。大事なことは、対戦相手とPLAYをすることであって、審判の機嫌を取ることではありません。審判の判定に翻弄(ほんろう)されて、PLAYに集中できなくなっては、本末転倒なのです。審判に腹を立てたらスポーツは楽しくなくなり、パフォーマンスが落ちてしまうことになりかねません。良くない審判が担当になったら、自分自身がイライラしないことです」

Q.佐々木投手については。

江頭さん「佐々木投手のような若手プロ野球選手には、日本プロ野球の年功序列、縦社会といった、あしき慣習を気にせず、実力主義を貫いてほしいです。近年、スポーツ指導者について、『透明性』が求められるようになりました。選手が監督の『お気に入り』にならないと、公式戦に出場できない時代は終わったのです。

ただ、審判と選手との関係は、まだまだ改善の余地があるようです。佐々木投手には、審判をリスペクトしつつも、確かな自信を持って、GAMEを楽しんでほしいと思います」

(オトナンサー編集部)

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江頭満正(えとう・みつまさ)

独立行政法人理化学研究所客員研究員、一般社団法人日本スポーツマンシップ協会理事

2000年、「クラフトマックス」代表取締役としてプロ野球携帯公式サイト事業を開始し、2002年、7球団と契約。2006年、事業を売却してスポーツ経営学研究者に。2009年から2021年3月まで尚美学園大学准教授。現在は、独立行政法人理化学研究所の客員研究員を務めるほか、一般社団法人日本スポーツマンシップ協会理事、音楽フェス主催事業者らが設立した「野外ミュージックフェスコンソーシアム」協力者としても名を連ねている。

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