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「指示待ち社員」の若手が多くて困ると嘆く前に、上司や先輩が考えるべきこと

就活や転職、企業人事のさまざまな話題について、企業の採用・人事担当として2万人超の面接をしてきた筆者が解説します。

「指示待ち社員」はどうして生まれる?
「指示待ち社員」はどうして生まれる?

「最近の若手は『指示待ち社員』が多くて困る」といった嘆きを企業幹部やベテラン社員から聞くことがあります。「言われたことしかやらない」と不満を持つ気持ちは分かりますが、そうした社員はなぜ生まれるのでしょうか。少々、耳が痛くなるかもしれませんが、その理由を説明します。

若手は皆、「指示待ち社員」だった

 世間では、上司の指示をじっと待って、自発的には動こうとしない若手社員を「指示待ち社員」と呼んできました。しかし、別に最近の若手が「指示待ち社員」というわけではなく、なんのことはない、今、上司である人たちも、おしなべて昔はみんな「指示待ち社員」でした。

 そもそも、「指示待ち族」という言葉は、現代コミュニケーションセンターが「いわれたからやる。いわれないことはやらない」という性質を持つ1981年の新入社員を指してつくった言葉とのことです。1981年の新入社員といえば、2021年の今では既に60歳を超えているようなベテラン社員です。つまり、若手社員は何十年もの間、ずっと、「指示待ち社員」だったのです。

「言われたからやる」のではなく、「言われていないこともやる」ことは経営学の用語では「組織市民行動」(organizational citizenship behavior)と言われ、研究対象となっています。もう少し丁寧に定義すると「職務要件に含まれていない、組織の機能を高める貢献行動」とか、「役割外のことでも組織に役に立つことであればする行動」などのことです。

 これらの定義から考えると、「指示待ち社員」とは要は「組織市民行動」を取らない社員のこととも言えます。「組織市民行動」を社員が取るようになると、会社の業績は向上し、離職率は下がることが分かっており、会社が社員にそれを求めるのは当然かもしれません。

恩義を感じれば「組織市民行動」を行う

 それでは、どういう要素が人を「組織市民行動」に向かわせるのでしょうか。その一つの大きな要素が「組織コミットメント」≒「組織に対する愛着」です。自分の所属する組織に対して愛着があれば、自分の与えられた役割以外のことでも、その組織のためになることであれば、何でもやろうと思うのは自然なことです。

 そして、組織に対する愛着は、「好意の返報性」という心理法則があるように、「自分が組織から愛されている」「組織に対して恩義がある」と思うことで強化されます。つまり、まず組織が社員を大切にし、社員は組織に恩義や愛着を感じ、その結果、「組織市民行動」を行い、「指示待ち社員」から脱することになるのです。

 このように、「言われていないことをする」=「指示待ち社員」ではない社員になるには、組織に恩義を感じている必要があるわけですが、そう考えると、まだ入社して間もなく、会社に特に何をしてもらったわけでもない若手社員が「指示待ち社員」になってしまうのも仕方ありません。

 一方で、長く会社に在籍しているベテラン社員は、さまざまな仕事場面で、組織や上司、同僚に助けられてきて、徐々に恩義や愛着を感じるようになっているので、自発的な役割外行動である「組織市民行動」を取るようになるのも当たり前かもしれません。若手社員が「指示待ち」なのは、能力や姿勢の問題ではなく、愛着の問題なのです。

若手が「役割外行動」をしない=上司がしないから

 そう考えると、若手社員に「指示待ちではなく、自発的に動け!」というのは「この会社のことを愛せ!」と言っているようなものです。「愛せ!」という命令はむなしいものです。何かに対する愛着は命令されて生じるものではありません。愛着とはもっと、自然に生まれるものです。

 研究によれば、上司や同僚から仕事上のサポートを受けることや、評価の公平、仕事上での裁量権、自分の能力を開発できる機会に対する満足度などが、組織に対する愛着を生み出すことが分かっています。要はここまでに述べた若手社員が望むことをコツコツしてあげれば、いつか、自然に組織に愛着がわいて、「指示以外」のこともするようになるのです。

「若手社員はみんな指示待ちだ」と嘆いている上司や先輩の皆さんはどうぞ、若手社員が組織を愛せるように、彼らがしてほしいと思っていることをどうぞやってあげてください。

 ここで皆さんにお聞きします。若手が「指示待ち社員」、つまり、組織のためになる役割外行動をしないのは、上司や先輩である皆さんが今の仕事をただ単に成し遂げるために、必要最小限の仕事しかしないからではないでしょうか。皆さん自身が「組織市民行動」をしているかどうか、自問してみてほしいのです。

 そして、今の仕事の成果に直接的に結びつかなくとも、若手社員の成長やメンタル面への支援をすれば、彼らはきっと、「指示待ち社員」ではなくなることでしょう。

(人材研究所代表 曽和利光)

曽和利光(そわ・としみつ)

人材研究所代表

1971年、愛知県豊田市出身。灘高校を経て1990年、京都大学教育学部に入学し、1995年に同学部教育心理学科を卒業。リクルートで人事採用部門を担当し、最終的にはゼネラルマネジャーとして活動した後、オープンハウス、ライフネット生命保険など多様な業界で人事を担当。「組織」「人事」と「心理学」をクロスさせた独特の手法を特徴としている。2011年、「人材研究所」を設立し、代表取締役社長に就任。企業の人事部(採用する側)への指南を行うと同時に、これまで2万人を超える就職希望者の面接を行った経験から、新卒および中途採用の就職活動者(採用される側)への活動指南を各種メディアのコラムなどで展開している。著書に「定着と離職のマネジメント『自ら変わり続ける組織』を実現する人材流動性とは」(ソシム)など。

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