公害の原因物質 家庭の「水銀体温計」、使い続けてもいい? 処分方法は?
水俣病の原因となった水銀についてはさまざまな規制がありますが、家庭にある「水銀体温計」を使い続けてもいいのでしょうか。もし処分するとしたら、どうすればいいのでしょうか。
ジョニー・デップさん主演の映画「MINAMATA−ミナマタ−」が公開中です。水俣病の存在を世界に伝えた写真家ユージン・スミス氏(故人)を描いた作品ですが、水俣病の原因となった水銀については「水銀に関する水俣条約」で既に、使用などが厳しく規制されています。しかし一方で、水銀を使った製品はかつて、私たちの身の回りに多く存在し、コロナ禍で昨年、電子体温計が品薄になった際、「水銀体温計」を引っ張り出して使ったという人もいるのではないでしょうか。
水銀の問題が指摘されている現在、水銀体温計を使い続けてもいいのでしょうか。もし処分するとしたら、どうすればいいのでしょうか。環境省の担当者に聞きました。
使用は問題なし、ただし処分時は注意
Q.水銀体温計や水銀温度計の回収はいつから、どういう経緯で始まったのでしょうか。水俣条約の概要を含めて教えてください。
担当者「2013年10月、熊本県の熊本市と水俣市で開催された外交会議において、『水銀に関する水俣条約』が採択されました。同条約は水銀、および水銀化合物の人為的排出から、人の健康、および環境を保護することを目的としており、採掘から流通、使用、廃棄に至る水銀のライフサイクルにわたる適正な管理と排出の削減を定めるものです。
わが国では、水俣条約の国内担保法として、『水銀による環境の汚染の防止に関する法律』(水銀汚染防止法)が2015年6月に公布されました。水銀汚染防止法では国の責務として、『市町村が水銀使用製品を適正に回収するために、必要な技術的な助言その他の措置を講ずる』よう努めることを、また、市町村の責務として、『廃棄された水銀使用製品を適正に回収するために、必要な措置を講ずる』よう努めることを規定しています。
また、水銀汚染防止法律案に対する国会の付帯決議において、『退蔵されている水銀血圧計および水銀体温計については、将来的な不適正処理のリスクを低減するため、短期間に集中的に回収・処分していくことが望ましい』として、国や市町村、事業者団体などが連携して集中的に回収することが求められています。
そのような背景から、環境省では、市町村による水銀使用製品の適正な回収を推進するため、2014年度から2017年度にかけて、家庭内に退蔵されている水銀使用廃製品(水銀体温計、水銀温度計、水銀血圧計)を、市町村内の薬局・薬店を回収拠点として短期的(1~2カ月)に回収する実証事業を実施しました。
また、医療機関や教育機関などに退蔵された水銀血圧計等を対象とした回収促進事業を2014年から行っています。そのほか、都道府県や市町村の教育委員会などの参考になるよう、2018年度に環境省モデル事業、および自治体独自で行っている事業の概要を掲載した『教育機関等に退蔵されている水銀使用製品回収事業事例集』を作成しています。現在も引き続き、関係団体と連携して回収を促進しています」
Q.水銀体温計や水銀温度計は現在は製造されていないのでしょうか。製造が禁止されているとしたら、いつからですか。
担当者「国内では水銀汚染防止法に基づき、2020年12月31日以降、水銀体温計は原則製造が禁止されており、製造は確認されていません。水銀温度計についても原則として製造は禁止されており(高精度での計測が必要で、代替製品がないものを除く)、規制対象製品について、製造は確認されていません。なお、販売・使用については規制されていません」
Q.水銀体温計はかつて、多くの家庭や病院などで使われていたと思います。回収を始めた頃にどれくらいの数があり、直近でどれくらいまで減っているか、推計があれば教えてください。学校などで使われた水銀温度計についても推計があれば。
担当者「2010年度ベースの『水銀マテリアルフロー』(水銀の輸出入・回収・処分等の流れの推計)では全国の病院・診療所・歯科医院における水銀体温計の保有量は約37万個と推計されていました。これまで回収された量の網羅的な把握はしていませんが、2020年度に環境省が都道府県医師会を対象として行ったアンケートの回答では、水銀汚染防止法の制定や廃棄物処理法施行令の改正等が行われた2015年度から2020年度において、水銀体温計が計約27万個回収されていることを確認しています。
また、教育機関における水銀体温計などの保有量に係る推計はありませんが、2020年度に環境省が都道府県・市町村教育委員会を対象として行ったアンケートの回答では、2015年度から2020年度までに水銀体温計が約18万個、水銀温度計が約2万個回収されていることを確認しています」
Q.昨年、新型コロナウイルス感染症が流行して電子体温計が品薄になった際、しまい込んでいた水銀体温計を出して使った人もいるようです。また、品薄のことは別にして、ずっと水銀体温計を使っている人もいるようです。水銀体温計を使い続けることに問題はあるのでしょうか。
担当者「水銀体温計を引き続き使用することは現状では問題ありません。ただし、水銀体温計が不要になった場合は、廃棄物として適正に処理を行うことが必要なのですが、水銀使用製品の製造が禁止されたことなどで水銀の需要が減少し、それに伴い、廃棄物処理のコストが今後高騰していくと考えられること、使用されなくなった後の退蔵品による将来的な不適正処理(災害時の紛失等を含む)のリスクを低減させる必要があることから、環境省としては早期の処理を推進しています」
Q.家庭の水銀体温計を処分したい場合、どのようにすればよいのでしょうか。誤って通常の不燃ごみとして捨てたり、可燃ごみに交ったりした場合、環境へどのような影響が考えられるのでしょうか。
担当者「水銀体温計は市区町村のごみ分別区分に従って、適切に捨ててください。一般の可燃ごみ、不燃ごみ等に水銀含有製品が混入した場合、誤焼却、誤破砕などにより、製品に含まれる水銀が環境中に飛散したり、(排ガス中の水銀濃度上昇などで)焼却炉が停止することで、地域のごみ処理が停滞したりする可能性があります。水銀含有製品の廃棄物は誤焼却や誤破砕などの防止のため、一般の廃棄物とは分けて、適切に収集運搬・処分することが望ましいと考えます」
(オトナンサー編集部)
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