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高校生になっても…? 子どもの「抱っこ」、どうやって卒業させる?

街中で、乳幼児が親に「抱っこ」をせがむ光景を時々見かけますが、いずれは抱っこを卒業する必要があります。どのようにして、抱っこから卒業させたらよいのでしょうか。

抱っこはいつまでに卒業?
抱っこはいつまでに卒業?

 街中で、乳幼児が親に「抱っこして」とせがむ光景を時々見かけます。幼い子どもが「抱っこ」をせがむことは当たり前のことと捉えている人も多いでしょう。しかし、ネット上には「小学生や中学生、高校生になっても抱っこしてほしいと思う子どもがいる」という声があります。

 いつかは抱っこを卒業する必要があると思いますが、どのようにして、子どもを抱っこから卒業させたらよいのでしょうか。子育てアドバイザーの佐藤めぐみさんに聞きました。

抱っこは親との精神的絆

Q.そもそも、乳幼児はなぜ、親に抱っこしてもらいたいと思うのでしょうか。

佐藤さん「親に抱っこしてもらうことによって、甘えたい、安心したいという思いがあるからです。小さい子どもにとって、抱っこは『アタッチメント(子どもがある特定の人に持つ愛着感情)』という心理的作用の点で重要になります。簡単に言うと、その人との精神的な絆のことです。

生まれてからしばらくの間、赤ちゃんは『自分は母親と一体化している』という感覚を持っており、抱っこは赤ちゃんに『母親とつながっている』ということを実感させてくれます。それによって安心感を得るのです。これは1歳を過ぎて自分で歩くようになり、『自分と母親は別の人間だ』と理解するようになっても続き、『安全基地』としての役割を持ち続けます。

楽しいときは親と離れて遊べる子どもも少し不安なことが起きると、親を視覚的に確認したり、抱っこを求めたりします。そのようにすることで『自分は大丈夫だ』という安心感を得ているのです」

Q.抱っこすることで、子どもの成長にも何らかの好影響を与えるのでしょうか。

佐藤さん「明らかに好影響を与えます。先述したアタッチメントについて、イギリスの精神科医ジョン・ボウルビィは自身が提唱した『愛着(アタッチメント)理論』の中で『子どもは社会的、精神的発達を正常に行うために、少なくとも1人の養育者と親密な関係を維持しなければならず、それがなければ、子どもは社会的、心理学的な問題を抱えるようになる』と言っています。

抱っこは子どもの甘えたい気持ち、不安を解消してほしい気持ちを満たすため、アタッチメントを強化することになります。子どもが親にアタッチメントを形成することは人間らしい成長の土台となるため、それを促進する作用を持つ抱っこの役割は大きいといえます」

Q.抱っこが大切なものだということは分かりましたが、いつかは卒業する必要があると思います。どのようにして、子どもを抱っこから卒業させたらよいのでしょうか。

佐藤さん「一般的には、3歳を過ぎて幼稚園に通っているとき(保育園の場合も同じくらいの年齢時)、抱っこを求める回数が減ることが多いようです。しかし、抱っこを求める回数が減らないからといって、無理に『小学校までに抱っこを卒業しなくては』と考える必要はありません。抱っこの代わりとなるスキンシップや癒やしを取り入れることで、自然と抱っこを求める回数が減っていくことが望ましい流れといえます。

子どもは不安な気持ちや寂しい気持ちを和らげてもらいたくて、抱っこを求めています。もし、『今日から、抱っこはしない』と決め、しかも、それ以外の対応もしないと、子どもの甘えたい気持ちが消えないままとなり、ぐずることが逆に増えてしまうかもしれません。幼稚園くらいから、例えば、子どもを膝に乗せる、手をつなぐなど抱っこ以外のスキンシップを積極的に取り入れて気持ちを満たし、結果的に抱っこが減るというのが理想的だと思います」

Q.小学生や中学生、高校生になっても、抱っこしてもらいたいと思う子どもがいるそうです。これはおかしなことなのでしょうか。

佐藤さん「小学校低学年ではまだまだ、抱っこを求めることもあるでしょう。『抱っこしてほしい』とは言わなくても、スリスリと甘えてきたり、膝に乗ってきたりすることはよくあります。特に、小学校に入学したての時期やクラス替え、発表会の前など、子どもが不安を感じたときに見られます。

これは少しもおかしいことではありません。むしろ、アタッチメントがきちんと機能している表れでもあるのです。『母親のところに戻れば安心できる』と子どもが理解しているからこそ起きる行動です。その後も小学校高学年くらいまで、まだまだ分かりやすい形で甘えてくることはあるでしょう。

ただ、中高生の思春期になると、親への反抗心が出るなど親との距離を置こうとすることが多く、一般的には、中高生で抱っこをせがむというのはまれです。甘える場合でもわがままになってみたり、感情的になったりということの方が普通だと思いますが、もし、抱っこを求める場合は、心に何かしらの不安がある可能性が高いので、それを『変だ』と却下するのではなく、よいきっかけをもらったと捉え、いつも以上にしっかりと話を聞くなど心をほぐす接し方をするのが望ましいでしょう」

Q.では、抱っこを卒業させる年齢を親が決めるのはよくないということでしょうか。

佐藤さん「親が年齢で線を引いてしまうのは望ましいとはいえません。なぜなら、いつも元気いっぱいの子どもでも時に気落ちしたり、不安になったりすることがあるからです。大人もそうですが、一年中、情緒が安定し続けている人はいません。波というのは誰にでもあるものです。

抱っこというのは『抱っこしてもらえば、楽に移動ができる』という物理的な楽さを求めているのではなく、『甘えてホッとしたい』という精神的な満たしの要素が大きいものです。精神的な役割が大きいからこそ、『お兄ちゃんでしょ』『何甘えてるの』など突き放した対応は避けたいところです。

ただ、抱っこをよく求めてくる2歳くらいの子どもの親は『子どもからの抱っこを全て満足させないといけないのか』と感じてしまうかもしれません。もちろん、いつも抱っこに応えられるわけではありません。料理をしているとき、両手に荷物を持っているときなど無理なタイミングは多々あります。

だからこそ、わざわざ、年齢で区切る必要はないと私は思うのです。子育てはエンドレスな大仕事なので、できるときにできることをするのが親としてのベストです。抱っこに関してもできる範囲で対応しつつ、自然に解消していくのを待つのがおすすめです」

(オトナンサー編集部)

佐藤めぐみ(さとう・めぐみ)

公認心理師(児童心理専門)

ポジティブ育児研究所代表。育児相談室「ポジカフェ」主宰。英レスター大学大学院修士号(MSc)取得。オランダ心理学会(NIP)認定心理士。現在は、ポジティブ育児研究所でのママ向けの心理学講座、育児相談室でのカウンセリング、メディアや企業への執筆活動などを通じ、子育て心理学でママをサポートする活動をしている。著書に「子育て心理学のプロが教える 輝くママの習慣」(あさ出版)など。All About「子育て」ガイド(https://allabout.co.jp/gm/gp/1109/)を務めている。公式サイト(https://megumi-sato.com/)。

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