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坂道グループがコロナ禍で発信したもの 見えた「オンライン配信」の可能性

オンライン配信の可能性の模索

 他方、握手会に代表される対面型イベントはオンラインでの代替企画に振り替えられていきますが、坂道シリーズの中では9月、日向坂46が「オンラインミート&グリート」として先鞭(せんべん)をつけ、他グループもそれに続きます。現在の環境に適応しながら、従来のルーティンに準じた活動を探り当てようとしていることがうかがえます。また、6月に始まった乃木坂46独自の映像アーカイブのサブスクリプションサービスは、以前のような発信がしにくい現況における試行としての意味も含むことになりました。

 もっとも、これらの施策に比べて先行きが極めて不透明なのが音楽ライブです。特に、多くの人々が行き交う大規模会場での公演についてはごく最近になって、有観客での開催事例や開催予定の発表がなされる例がわずかに生まれているものの、いまだにめどが立っていません。アリーナ、スタジアム級の会場を使用することが通例になった坂道シリーズ各グループに関して言えば、この先もしばらくはオンラインの動画配信を介したライブ開催が想定されるはずです。

 しかし、特に今年後半、さまざまなアーティストのイベントがオンライン配信される機会が多くなるにつれて、配信ライブのあり方にも進化が見られるようになりました。それはあらかじめ現場に観客を動員しない前提だからこそ可能になる演出の模索です。坂道シリーズにも優れた創意工夫がうかがえました。

 例えば、欅坂46が7月と10月に催したライブはそれまでの体制に終止符を打ち、グループ名を変更するための区切りとなる重大な意味を持つものでした。演出面に目を向けると、本来なら多くの観客で埋まるであろう大きな空間を縦横無尽に用いながら、俯瞰(ふかん)やクローズアップを効果的に使い分けるカメラアングルも含めて、無観客・カメラ越しであることを前提にしたセットとパフォーマンスを企図していました。

 昨今の情勢に適応し、従来のような有観客ライブとは異なるアウトプットを実現した好例だったといえるでしょう。これはまた、デビュー時から、独特の演劇的・立体的な群像表現を築いてきた同グループの本領が発揮された瞬間でもありました。

 また、乃木坂46は延期されていた白石麻衣さんの卒業コンサートを10月に配信しました。ライブが無観客を前提に演出されたのはもちろんですが、本編終了後にメンバーたちが余韻を分かち合う余白の時間までも半ばシームレスに映し出され、表舞台とバックステージとのあわいを感じさせる、配信だからこその見せ方になりました。

 他方で、東京ドーム公演に向けたアリーナツアーが中止された日向坂46は、予定されていた演出をあえて踏襲してみせるスタイルで7月に配信ライブを催し、本来行われるはずだったライブの姿を刻みつけました。

 2020年後半のこうした例を概観するとき、ライブが通常開催できない状況下で送り手がオンライン配信の性質に順応したパフォーマンスや演出を模索し、単なる代替手段にとどまらない可能性を広げてきたことが分かります。これらはまた、多人数グループによるパフォーミングアートという性質と相性が良かったこともあるかもしれません。

 いずれにせよ、従前の環境に戻る見込みが立たない中で、アウトプットのあり方が試行錯誤され、進化の跡がうかがえることはエンターテインメントの継続にとって肝要です。12月には、坂道シリーズ3グループそれぞれで、オンライン配信や映画館のライブビューイングを介しての公演が予定されています。これら各ライブも含めてさらなる表現方法の開拓につながるならば、それは一つの希望となるはずです。

(ライター 香月孝史)

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香月孝史(かつき・たかし)

ライター

1980年生まれ。ポピュラー文化を中心にライティング・批評やインタビューを手がける。著書に「乃木坂46のドラマトゥルギー 演じる身体/フィクション/静かな成熟」「『アイドル』の読み方 混乱する『語り』を問う」(ともに青弓社)、共著に「社会学用語図鑑 人物と用語でたどる社会学の全体像」(プレジデント社)、執筆媒体に「RealSound」など。

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