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「ボーナス」はなぜ、春や秋ではなく夏と冬に支給される?

「ボーナス」は多くの企業などで一般的に夏と冬の2回支給されることがほとんどです。春や秋でも問題ないはずですが、なぜ、夏と冬に支給されるのでしょうか。

なぜ、ボーナスは夏と冬?
なぜ、ボーナスは夏と冬?

 企業などで働く社会人の楽しみの一つに「ボーナス」があります。今年は新型コロナの影響で、例年よりも支給額が少ない人もいるかもしれませんが、それでもワクワクするものではないでしょうか。

 ところで、ボーナスといえば、多くの企業などで一般的に夏と冬の年間で2回支給されることがほとんどですが、春や秋に支給しても特に問題になることはないと思います。なぜ、ボーナスは春や秋ではなく、夏と冬に支給されるのでしょうか。経営コンサルタントの大庭真一郎さんに聞きました。

江戸時代の「餅代」の名残

Q.日本において、ボーナスはいつから、どのようなきっかけで支給されるようになったのでしょうか。

大庭さん「江戸時代にも、住み込みで働く奉公人が盆や正月に田舎へ帰るとき、主人が新しい着物を与えたり、『餅代』と称して包み金を与えたりする、ボーナスと似たような風習がありました。しかし、企業が従業員にボーナスを支給したのは1874年、三菱財閥の創業者である岩崎弥太郎が初めてといわれます。

ボーナスは、従業員の奮闘で競合他社との価格競争を勝ち抜いたことに対する報奨という意味で一時的に支払われたものですが、1888年からは制度として、毎年決まった時期にボーナスが支給されるようになりました。それをきっかけに、日本国内にボーナスという制度が普及したといわれています」

Q.ボーナスという制度があるのは日本だけなのでしょうか。

大庭さん「日本とは運用形態が異なりますが、海外にもボーナスという制度は存在します。例えば、アメリカでは、役員や管理職などのマネジメント業務に従事する従業員を対象に、企業の業績をもとにした本人の年収の5~10%程度のボーナスが支給される運用形態が一般的です。

ヨーロッパでは、企業の業績や個人の勤務成績によって、従業員ごとにボーナスの支給額を決定する▽特定の時期に基本給の1カ月分に相当するボーナスを従業員に支給する▽夏季のバカンス休暇手当や年末のクリスマス休暇手当として従業員にボーナスを支給する――など国によって運用形態はさまざまです。

アジアでは、年末手当として基本給の1~2カ月分に相当するボーナスが従業員に支給されるケースが多く、中国では現物支給を行う運用も見られます」

Q.なぜ、ボーナスは春や秋ではなく、夏と冬に支給されるのでしょうか。

大庭さん「ボーナスは毎月支給される給与とは違い、法律上、支給することが義務付けられた賃金ではないため、企業ごとに自由に制度を運用することができます。そのため、支給時期も企業が自由に決められるのですが、夏と冬に支給する会社が多いという実態があります。

夏と冬に支給する理由ですが、戦後の日本の経済復興期に、国民(労働者)が足並みをそろえて、夏季(お盆)や冬季(年末年始)に休暇を取得して帰省や旅行などをする風習が定着し、それに対する臨時収入という意味合いでボーナスを支給する企業が多く現れ、夏季・冬季のボーナス支給が定着したというのが実態です。

夏は盆の帰省や旅行、レジャー、冬は年末年始の帰省や旅行、レジャーなどで家計の支出がかさみ、従業員がまとまったお金を必要とする時季なので、それらの費用をボーナスで補填(ほてん)しているのです。江戸時代の『餅代』の名残ともいえるでしょう」

Q.最近は賃金体系が年俸制の企業も増えており、これらの企業では、夏と冬の定期的なボーナスがない企業もあります。企業の間では、ボーナスという制度をなくす風潮が強まっているのでしょうか。

大庭さん「世の中全般で、ボーナスをなくすという風潮は現在のところ存在しません。ボーナスも従業員の生活費を賄う重要な要素となっているからです。しかし、ボーナスの支給目的は変化する傾向が見られます。

一昔前は、従業員の継続勤務に報いるための特別な給与という位置づけでボーナスが支給され、職位や勤続年数などが同じであれば、支給額もほとんど差がつかない運用を行う会社が多かったのですが、近年は会社が稼いだ利益を従業員に分配するという位置づけで、個人の成果をもとに支給額にも差をつける運用を行う会社が増えてきています。

その一環として、夏と冬のボーナスの支給額を低く設定した上で、最終的な獲得利益の一部を従業員の成果に基づいて分配する『決算賞与制度』を導入する会社が増えています」

Q.年収が同じ場合、月給制で夏と冬にボーナスがある企業と、年俸制で毎月12等分の金額が支払われる企業では、それぞれどのようなメリット、デメリットがあるのでしょうか。

大庭さん「月給制と年俸制とでは、互いに相反する形でメリットとデメリットが存在します。月給制のメリットは、毎月支給される給与に関しては変動するリスクが小さいことです。日本の給与は本人の職務遂行能力や勤続実績などによって決められる場合が多いため、翌年の給与が大きく減るようなことは通常ありません。

月給制のデメリットは、ボーナスに関しては毎年の支給額が一定ではないため、年収を計算しづらく、支出の計画も立てづらいことと、個人の成果による差がつきにくいことです。企業の業績が厳しいとボーナスが減り、年収も減ってしまいます。さらに、個人の頑張りによる差もつきにくくなります。

一方、年俸制のメリットは、年収額があらかじめ確定されることで支出の計画を立てやすくなること、個人の成果によって、年収を大幅に増やすことができることです。年俸制では、会社の業績に関係なく、あらかじめ契約した報酬額が支給されます。さらに、個人の頑張りに対する評価がストレートに報酬に反映されます。

年俸制のデメリットとしては、年度ごとに年収額が変動するリスクが高いことです。結果を出せなければ、年収額を大幅に減らされることもあります」

(オトナンサー編集部)

大庭真一郎(おおば・しんいちろう)

中小企業診断士、社会保険労務士

東京都出身。東京理科大学卒業後、企業勤務を経て、1995年4月に大庭経営労務相談所を設立。「支援企業のペースで共に行動を」をモットーに、関西地区を中心に企業に対する経営支援業務を展開。支援実績多数。以下のポリシーを持って、中堅・中小企業に対する支援を行っている。(1)相談企業の実情、特性に配慮した上で、相談企業のペースで改革を進めること(2)相談企業が主体的に実践できる環境をつくりながら、改革を進めること(3)従業員の理解や協力を得られるように改革を進めること(4)相談企業に対して、理論より行動重視という考えに基づき、レスポンスを早めること。大庭経営労務相談所(https://ooba-keieiroumu.jimdo.com/)。

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