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最初から買うな! 買い占めた商品を持て余し「返品」を求める行為に怒りの声、法的には?

新型コロナウイルスの感染拡大後、トイレットペーパーなどの衛生用品を大量に買い占め、それを返品しようとする人がいるようです。法的問題はないのでしょうか。

ドラッグストアの店頭でトイレットペーパーを並べる店員(2020年3月、時事通信フォト)
ドラッグストアの店頭でトイレットペーパーを並べる店員(2020年3月、時事通信フォト)

 新型コロナウイルスの感染拡大の影響から、SNSを中心に広がった「トイレットペーパー品薄」の情報。「デマである」「在庫は十分にある」と報道されてからも、しばらく、品薄の状態が続く店舗が多くありましたが、地域差はあるものの少しずつ品薄解消の兆しが見えているようです。

 しかし、一部には、買い占め後に持て余した大量の品物を返品しようとする人もいるといい、実際に海外では、買い占めたトイレットペーパーや消毒液など約100万円相当分を返品しようとして拒否される事例が出たり、国内でも「返品はご遠慮ください」の張り紙をする店が多く現れたりするなど「買い占め品の返品」に対する動きが広がっています。

 これについて、ネット上では「あまりにも自分勝手な行為」「自業自得でしょ」「返品できると思っていることにあきれる」「どういう理由であれ、返品するくらいなら最初から買い占めるな」など怒りの声が多く上がっています。

 買い占めた品物の返品に関する法的問題について、グラディアトル法律事務所の北川雄士弁護士に聞きました。

売り主に落ち度があればともかく…

Q.大量の衛生用品(トイレットペーパーなどの紙類、消毒液、マスクなど)を購入した後、それらの返品・返金を要求する行為に何らかの法的問題はありますか。

北川さん「今回の返品要求は、法的には『既に成立』し、『双方が履行済み』の売買契約の解除を求めるということになります。これは例えば、『商品に欠陥があった』など、売り主側に何か落ち度が認められるような場合ならばともかく、通常、解除事由が存在しないとして認められないと思われます」

Q.買い占めた衛生用品の返品について、店側は応じる必要はあるのでしょうか。それともないのでしょうか。

北川さん「先述の通り、今回の状況のようなケースでは、売買契約を解除できる理由が存在しないと思われるため、返品や交換に応じる必要はないと思います。平時、レシートを持っていけば返品や交換に応じてくれる店もありますが、それは顧客サービスの一環として、店が“任意に”応じてくれているだけです。

ただし、返品・交換について、一定の期間や、『レシートを持ってくる』などの方法を示せば一律に応じる旨を店が張り出すなどしている場合は、返品・交換に応じる義務が生じる可能性があります。契約の成立については『当事者間の合意内容』が尊重されます。

『一定の条件で返品などに応じること』が、店に張り出してある文言や掲示の方法から『当事者間の合意内容』であると判断された場合、店としては条件を満たす返品などの申し出に応じねばならないと判断される可能性があるからです」

Q.仮に、店側が返品を拒否しているにもかかわらず、購入者側がそれを強要した場合、何らかの法的問題は考えられますか。

北川さん「強要の文言や態度によっては、刑法上の脅迫罪(刑法222条)や強要罪(同223条)に該当し得ます。さらに、業務を妨害するような行為であれば、威力業務妨害罪(同234条)などにも該当する可能性があります」

Q.買い占め品の返品要求に対し、店側も「返品お断り」の張り紙などで対応しているようですが、こうした状況下において、店側・購入者はそれぞれどのような意識を持つべきだと思われますか。

北川さん「歴史上、古くから『正しい情報をいかに素早く入手するか』は大きな課題であり、現在も続く問題です。

『デマに踊らされないように気を付けましょう』と言うのは簡単でも、時間的・能力的な限界から、実行するのは難しいものです。それでも、実際に行動する前に『これはデマではないのか?』と一歩立ち止まって考えるなど、個々人ができる範囲だけでも気を付けるようにするしかないと思います」

(オトナンサー編集部)

北川雄士(きたがわ・ゆうじ)

弁護士

弁護士法人グラディアトル法律事務所所属。京都大学法学部卒業後、神戸大学法科大学院修了。「労働問題」「男女トラブル」「脅迫・恐喝被害」「ネットトラブル」などを得意分野として扱う。ライトノベル作家「U字」としての一面もあり、「剣と弓とちょこっと魔法の転生戦記1~凡人貴族、成り上がりへの道~」(MFブックス)で作家デビュー。その後も「剣と弓とちょこっと魔法の転生戦記」シリーズとして続刊を刊行中。

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