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「飲み放題」で飲み物がろくに来ず…お店に時間延長や返金を要求できる?

飲食店の飲み放題コースでは、なかなか飲み物が届かず制限時間を迎えてしまうケースもあります。この場合、店に時間の延長や返金を要求できるのでしょうか。

飲み放題で飲み物が届かなかったら…
飲み放題で飲み物が届かなかったら…

 新年会や忘年会などで、飲食店の飲み放題コースを利用した人も多いと思います。飲み放題は「2時間まで」などと時間が決まっていることが多いですが、飲み物を注文しても届くのが遅かったり、まったく届かなかったりして食事を楽しめないまま、ラストオーダーを迎えてしまうこともあります。

 もし、店側の不手際で満足に利用できないまま制限時間を迎えた場合、客は時間の延長や返金を要求できるのでしょうか。芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

景品表示法上の「有利誤認」

Q.飲み放題にもかかわらず、飲み物が届くまでの時間が遅かったり、店員のミスで飲み物が届かなかったりして時間を浪費し、客が満足に飲めなかった場合、法律上どのような問題点があるのでしょうか。

牧野さん「『飲み放題』とうたっている以上、客が制限時間内に満足に飲めるよう、スタッフを増員するなどして速やかに飲み物を運べる態勢を整えておくべきだと思います。

例えば、飲み放題の料金として2000円払ったにもかかわらず、飲み物が速やかに運ばれなかったことで制限時間内に1杯しか飲めなかった場合、個別注文よりも飲み放題にした方が得だという印象を客に与えたものの、実際はそうでなかったことになります。つまり、景品表示法の『有利誤認』として景品表示法違反にあたる可能性があるでしょう。

同法違反の場合は消費者庁から措置命令を受けますが、その命令に違反した場合、2年以下の懲役または300万円以下の罰金が科される可能性があります(同法36条)。ただ、消費者庁から指導を受けてから是正すればよいため、一般的には、いきなり罰則とはなりません。それが、こうした低レベルのサービスが後を絶たない理由でしょう」

Q.客は、飲み放題の時間延長や返金を要求できるのでしょうか。

牧野さん「例えば、飲み放題のサービスを利用して1杯しか飲めないとすれば、店側の明らかな債務不履行となり、客は店側に対して差額相当分の損害賠償請求(料金の一部返金を含む)が可能でしょう。また、飲み放題の時間延長の申し入れを求めることもできるでしょう」

Q.店の混雑や人手不足の結果、店員のミスが頻発するケースや人手が回らずに対応が遅れるといったケースもあるかと思います。こうしたケースは、店が時間延長や返金を拒否する理由になるのでしょうか。

牧野さん「確かに、店が時間延長や返金を拒否する理由になりそうにも思えますが、店側は本来、混雑や人手不足、店員のミスをも考慮して飲み放題メニューを提供する義務があるでしょう。よって、時間の延長や返金を拒否することは難しいと思います」

Q.ちなみに、大食いの客が食べ放題や飲み放題を利用して大量の注文をした場合、店側は拒否できるでしょうか。

牧野さん「食べ放題や飲み放題の契約では、店は客に対し、一定の時間内で食べ放題、飲み放題のメニューを提供する義務を負う一方、客も店に対し代金を支払う義務を負います。そこで、『1人3個まで』『1人3皿まで』などの注意書きがない限り、在庫があるのに客に対して食べ物の提供を拒否することは難しいでしょう」

Q.飲食店での飲み放題、もしくは注文に関するトラブルの事例・判例はありますか。

牧野さん「調べましたが、裁判例は見当たりませんでした。飲食代は基本的に少額であることから、裁判になりにくいのではないかと思います」

(オトナンサー編集部)

牧野和夫(まきの・かずお)

弁護士(日・米ミシガン州)・弁理士

1981年早稲田大学法学部卒、1991年ジョージタウン大学ロースクール法学修士号、1992年米ミシガン州弁護士登録、2006年弁護士・弁理士登録。いすゞ自動車課長・審議役、アップルコンピュータ法務部長、Business Software Alliance(BSA)日本代表事務局長、内閣司法制度改革推進本部法曹養成検討会委員、国士舘大学法学部教授、尚美学園大学大学院客員教授、東京理科大学大学院客員教授を歴任し、現在に至る。専門は国際取引法、知的財産権、ライセンス契約、デジタルコンテンツ、インターネット法、企業法務、製造物責任、IT法務全般、個人情報保護法、法務・知財戦略、一般民事・刑事。

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