増税で固くなった? 見たことのない「財布のひも」ってどんなもの? 歴史や由来とは
消費税増税を巡り、「財布のひもが固くなる」「ポイント還元で財布のひもを緩められるか」といった報道が相次ぎました。よく使われる「財布のひも」ですが、現物を見たことのある人は少ないのではないでしょうか。

消費増税から半月がたちましたが、増税を巡り、「財布のひもが固くなる」「ポイント還元で財布のひもを緩められるか」といった報道が相次ぎました。「財布のひも」という言葉はよく使われますが、緩めたり固くしたりする「財布のひも」の現物を見たことがある人は少ないと思います。財布のひもについて、和文化研究家で日本礼法教授の齊木由香さんに聞きました。
「ひもが長い」「ひもを握る」などの用法も
Q.そもそも、財布はいつごろ、どのような形で生まれたのでしょうか。
齊木さん「日本では、平安時代までは物品同士の交換が主流でしたが、平安末期になると、権力者たちが中国など諸外国と貿易を始め、中国の渡来銭(硬貨)が日本国内でも使われるようになりました。室町時代になると、渡来銭だけでは不足したことから、自国内でも硬貨を鋳造するようになります。この頃の硬貨は真ん中に穴が開いており、人々はその穴にひもを通して束ねて持ち歩いていました。これを布で巻いたものが財布の始まりといわれています。
江戸時代初期までは、硬貨をひもで束ねていた人が多かったのですが、治安が安定すると、お店も増え、硬貨の出し入れが頻繁になります。すると、ひもで束ねるスタイルが不便になってきて、一度に多くの硬貨を出し入れできる『巾着(きんちゃく)』へと変わり、巾着袋の財布が一般に普及していきました」
Q.布で巻いたものや巾着袋の財布が、どのように現在の形へと変わっていったのでしょうか。
齊木さん「江戸時代中期に幕藩体制が確立すると、自領内で流通する貨幣として各藩は『藩札(紙幣)』を発行し、紙幣を収納できる布製の財布、いわゆる『紙入れ』が登場します。この紙入れは、元来の『懐紙入れ』(懐紙という、現代でいうメモ用紙、ハンカチ、ちり紙などの用途で使われていた和紙を入れるもの)をベースに作られたといわれています。
そして、おしゃれにうるさい江戸っ子を中心に、紙入れ用のおしゃれな留め金の細工なども出始め、デザイン性も豊かになっていきました。また、小判を持ち歩くためのマチがある横長の三つ折りの財布なども、この頃に誕生しました。
明治時代に入り、欧米文化の影響を受け始めると、財布のデザインも大きく変化しました。その代表が『がま口』です。和財布の代表ともいわれ、明治時代に日本で大流行しました。『がま口』の名前は一説に、ガマガエルの大きく開く口に似ているからといわれ、『ガマガエルは金運を呼ぶ』と親しまれ、現在の形へと進化していきました」
Q.「財布のひも」とは。
齊木さん「先述しましたが、室町時代に輸入した中国の文銭には穴があいていたため、そこにひもを通して束ね、袋に入れて折り畳んだ外側をひもで巻いて持ち運んでいました。文銭を通すひもが、布を留める『財布のひも』の由来になっています。また、先ほど述べたように巾着袋の財布もあり、お金を入れて口を締めていた『ひも』も『財布のひも』です。
『財布のひもが固くなる』は、これらの財布のひもが固く締まることの比喩で、簡単には金を使わない、無駄遣いをしないという意味です。『ひもを緩める』は、必要以上に金を使うこと、無駄遣いをする意味になります」
Q.「財布のひもが固くなる」「ひもを緩める」のほかに「ひもが長い」「ひもを握る」といった言葉もあるそうですが、それぞれどのような意味でしょうか。
齊木さん「『ひもが長い』とは、なかなか財布から金を出さないという意味で、けちで金を出し渋ること、『ひもを握る』とは、金銭の出し入れの権限を握ることです。これは『財布の尻を押さえる』とも言います。その他、『財布の底をはたく』は、持っている金を全部使ってしまうことを指し、『財布のひもを締める』は、無駄な金を使わないよう倹約することを指します。『財布の口を締める』とも言います。財布のひもを比喩にして、お金の使い方を表現するのは日本人独自の感性といえるでしょう」
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