ZOZO、アルバイト時給最大“3割増し”の狙いとは? 経営への影響は?
ZOZOがアルバイトを2000人採用し、時給を従来の最大3割増しにすると発表したことが話題に。狙いは何でしょうか。

衣料品通販サイト「ゾゾタウン」を運営するZOZOが5月13日、アルバイトを新たに2000人採用するとともに、時給を従来の最大3割増しにすると発表しました。大幅な時給引き上げは人材確保の可能性を高めますが、一方で経営を圧迫するリスクも発生します。ZOZOの狙いは何なのでしょうか。経営コンサルタントの大庭真一郎さんに聞きました。
商品取扱高拡大のための投資
Q.ZOZOの狙いは何でしょうか。
大庭さん「今後も商品の取扱高が増加していく見込みが得られたことを背景に、自社の商品取扱高のキャパシティーを拡大していくための投資の一環として、アルバイト従業員を高時給で大量に雇用する方針を打ち出しました。高時給で募集をかければ質の高い人材を集めやすくなり、確保した人材の定着が見込めます。
これが実現すれば、ZOZOがあらかじめ想定したコストで商品取扱高の増加(売上額の増加)に対応することができますし、今以上の利益を安定的に得られるようになり、経営の向上につながります。そこで得た利益を将来の事業に投資することで、企業としてのさらなる成長を遂げるという好循環モデルも実現できるようになります」
Q.時給を引き上げて人材を確保する取り組みは、経営を圧迫するリスクもあります。中長期的に見て経営にどのような影響があるでしょうか。
大庭さん「衰退産業の下請け事業など、成長の見込めない事業における雇用に対し時給を引き上げることは、収益率の低下に直結し、経営悪化のリスクを高めてしまいます。しかし、今後の成長が見込める事業においては、質の高い労働力を大量に確保し定着させることが収益の拡大や安定化のための原動力となります」
Q.一般的に、現行の時給の何割程度までなら引き上げても問題ないのでしょうか。
大庭さん「時給の引き上げ幅は、人材採用市場における時給相場と今後の収益予測とを勘案した上で、経営的に判断を下すべき内容です。普遍的な基準があるわけではなく、どの程度引き上げれば『求める人材を確実に確保することができ』かつ『目標とする利益を実現させられるのか』で判断します」
Q.人件費と売上高のバランスをどのように判断するのですか。
大庭さん「例えば、売上高に占めるアルバイト従業員の人件費割合が50%で現在、時給1000円でアルバイト従業員を100人雇用している企業が、アルバイト従業員100人の増員を計画したとします。時給1300円であれば求める人材を確実に100人確保できるという判断を下したとき、既存のアルバイト従業員の時給も1300円に引き上げた後のアルバイトの人件費は『200人×時給1300円×稼働時間』となります。
もし、売上高に占める割合を50%以下に維持できるのであれば、企業の手元に残る利益額は今よりも高い確率で増加するはずなので、時給を1300円に引き上げるという経営判断は妥当であると言えます」
Q.時給アップは、求職者や現行のアルバイトにとって魅力的に映るのでしょうか。また、所属する正社員の受け止め方は。
大庭さん「アルバイト従業員については補助的な業務の遂行が主体であり、働きに応じて仕事の質が変化していくという要素が少ないため、時給が高いことは、働く先を探す、または働き続けることへの大きな動機付けとなります。一方、正社員については、会社から与えられている業務内容に変化がない状態で、自分たちの給料は上がらないのにアルバイト従業員の時給だけが上がり続けた場合、不公平感を抱く人間が現れる可能性が高くなります。
しかし、アルバイトの数が増え、人件費負担も増しているのであれば、それらを吸収しつつ企業としての利益を増やしていくための事業の付加価値が必要になります。付加価値を実現するために必要な正社員の業務内容と、その業務を遂行した人に与える報酬を明らかにすることができれば、正社員の納得も得られるでしょう」
Q.1社が大幅に時給を引き上げることは、他社にどう影響するでしょうか。
大庭さん「特定の企業が大幅に時給を引き上げた場合、当該企業と同一の地域にあって事業内容が類似する企業は人材を確保しにくくなり、人手不足に陥るリスクが高まります。限られた労働力市場の中で、時給の高い企業に労働力が集まる、または時給の低い企業から時給の高い企業へ労働力が移動するからです。時給を引き上げた企業の雇用吸収力が強い場合、事業内容が類似しない企業への影響も発生します」
Q.そうした場合、他の企業は時給を引き上げた方がよいのでしょうか。
大庭さん「売り上げを向上させる戦略を持たないまま時給を引き上げてしまうと、利益率が低下して経営悪化を招きます。特定の企業が時給を引き上げた場合、『売り上げを向上させる戦略を構築した上で自社も時給を引き上げる』『すでに雇用している人材の定着を図るための措置を講じつつ、新たな人材を確保できなくても自社の経営安定化を実現できる戦略を構築する』の、いずれかの対応が求められます。いずれの方法も取らず、やみくもに時給を引き上げた企業は淘汰(とうた)される可能性が高くなります」
Q.「人手不足解消」「人件費のコスト」をバランスよく解決する方法はありますか。
大庭さん「一般的な企業の場合、人材の定着を図ることが人手不足の解消へとつながります。人材が定着する企業には、賃金水準以外の従業員を満足させる要素が充実しています。 例えば、『従業員の成長や自己実現の可能性が高い』『従業員が働きやすい環境が整っている』などです。これらの要素を兼ね備えた企業は求職者の目に魅力的に映り、注目されやすくなります。また、満足度の高い既存の従業員が効果的なリクルーターの役割を果たすことも期待できます。
その後、雇用が安定した段階で、利益の一定割合を人件費として分配するという考えで収益の向上を実現させれば、人件費負担の健全化と賃金水準の向上による従業員の満足度向上の両立につながります」
(オトナンサー編集部)
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