「安くてうまい」「レトロ」だけじゃない “町中華ブーム”の本質
地域に根差した中華料理の大衆食堂である「町中華」がブームとなっている要因について、評論家が考察します。
地域に根差した中華料理の大衆食堂である「町中華」が、テレビ番組やニュースサイトなどで取り上げられ、ブームとなっています。おいしくてボリュームのある料理を手頃な価格で提供する点や、年季が入った外観や店内によって醸し出されるレトロな雰囲気などが、多くの人に支持されているようです。
さまざまな社会問題を批評する評論家の真鍋厚さんは、町中華ブームには、いくつかの要因があるといいます。真鍋さんが解説します。
食を通じて自尊心を回復
数年前から町中華がちょっとしたブームです。最近は、町中華の仕込みから閉店までの1日の様子を収めた動画がYouTubeで配信されており、人気を集めています。中には、再生回数が数百万回に上る動画もあり、関心の高さがうかがえます。
しかも、町中華だけではなく、地元住民に親しまれている定食店やそば店、ラーメン店などに密着した動画も配信されており、町中華の動画と同様、多くの人に視聴されています。人々の興味が地方の食文化にまで広がっていることがよく分かります。
町中華のような飲食店に密着した動画が見られる理由として、ご当地グルメの再発見や、昭和レトロに対する若者の意識変化などが指摘されていますが、実はもっと深い理由があるように思えます。
まず経済的な要因が考えられます。「失われた30年」という言葉がありますが、日本はバブル崩壊以降、諸外国に比べ、経済成長率が低い状況が続いています。
また、厚生労働省が4月23日に発表した2月の「毎月勤労統計調査」(従業員5人以上)の確報値によると、物価の影響を考慮した労働者1人当たりの「実質賃金」が23カ月連続のマイナスとなり、働く人々の収入が上がらず、生活が苦しい状況にあります。
そんな中、牛丼チェーンの「うまい、安い、早い」のような要素がそろった町中華が再評価されるのは自然なことのように感じられます。例えば、YouTubeの動画のコメント欄には「本当に尊敬します」「日本の宝」といった意見が上がっています。
リーズナブルな価格でボリューミーなメニューを維持する店主の心意気、その職人的なストイックさなど、いわば「健全な市民感覚」の体現者、ロールモデルとして好意的に受け止められている面もあるでしょう。そのため、利用者にとってはコストパフォーマンス(コスパ)が良いことはもちろん、健全な市民感覚を体感する場になっているのかもしれません。
そして、その深層には、食を通じての自尊心の回復があることが見えてきます。例えば、ファミリーレストランのサイゼリヤが「デートをする場所ではない」「お金のない貧乏人が行くところ」などとSNS上で笑いの種にされると、「サイゼリヤのクオリティーはすごい」「サイゼリヤをバカにするな」という反論が投稿され、たびたび論争になります。この怒りの声の根底には、恐らく日本の食文化を誇らしく思う帰属意識が潜んでいます。
このようなスタンスは、「日本の料理を絶賛する外国人」に関する記事や動画などへの反応にとりわけ顕著に表れています。
例えば、日本に旅行に来た外国人ユーチューバーなどがとんかつやパンケーキなど、日本独自のグルメを堪能し、狂喜する様子を収めた動画が、YouTubeで公開されることがあります。すると、多くの日本人によって頻繁に視聴され、拡散されています。
ここにあるのは、一種のフードナショナリズム(食の自文化中心主義)です。日本の食の魅力を積極的に発信するのではなく、冷笑に対する反論や、外国人からの賛辞を好んで拡散する現象として噴出するのがいかにも日本的です。
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