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忘年会で「一発芸」強要 実は“違法”? 賠償責任は? 弁護士に聞く

忘年会の際に同僚や部下に一発芸をやるよう強要した場合、法的責任を問われる可能性はあるのでしょうか。弁護士に聞きました。

一発芸の強要は違法?
一発芸の強要は違法?

 新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけが5月に「2類相当」から「5類」に移行したことで、今年は忘年会を久々に行う企業があります。一方、忘年会の際に、上司や同僚から物まねや手品などの「一発芸」をやるよう強要されるケースがいまだにあるようで、SNS上では「忘年会の一発芸で浮いた」「忘年会の一発芸どうする」といった声が上がっています。

 もし忘年会の際に同僚や部下に一発芸をやるよう強要した場合、強要した人が法的責任を問われる可能性はあるのでしょうか。芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

強要罪に該当する可能性も

Q.忘年会の際に同僚や部下に一発芸をやるよう強要した場合、法的責任を問われる可能性はあるのでしょうか。会社側が半ば業務命令のような形で一発芸を強要させるケースもあるようですが、この場合はいかがでしょうか。

牧野さん「そもそも、会社の忘年会は、会社側が従業員を強制的に参加させるのではなく、事前に出欠を確認し、参加したい人だけが参加する形で行われるケースが多いでしょう。その場合は忘年会が業務に該当するとは言えず、宴会時に会社の業務命令で社員に一発芸を強要させることはできません。一発芸を命じられた社員に応じる義務はないでしょう。

忘年会の際に同僚や部下に一発芸をやるよう強要した場合は、ハラスメント(嫌がらせ)行為として民事責任を負う可能性があるほか、刑法223条の強要罪に該当する可能性があります。強要罪の法定刑は、3年以下の懲役です」

Q.一発芸を強要されたことが原因で精神的な苦痛を受けた場合、強要した人や会社側に損害賠償を請求することは可能なのでしょうか。

牧野さん「忘年会の参加者から見て、余りにもひどいことをやらされてはずかしめられた場合で、その社員が精神的な損害を被った場合には、命令をした上司(直接の不法行為者)や会社(使用者責任)に対して損害賠償請求することは可能です。

ただし、一発芸をやらされたことで社員が精神的な損害(精神的疾患)を被ったという因果関係の証明が必要なため、一般的にはその証明が難しいでしょう」

Q.忘年会や新年会などの宴会で一発芸をやるのを断ったことがきっかけで、上司や同僚から嫌がらせを受けるといった理不尽な行為があった場合、どのように対処すればよいのでしょうか。

牧野さん「これはまさにパワーハラスメント(パワハラ)に該当することになるため、会社の内部通報制度を利用して告発し、会社に厳正な対応を求めるべきです」

Q.忘年会や新年会などの宴会で一発芸を強要されたことがきっかけで、裁判に発展した事例はありますか。

牧野さん「特にありません。実際には、被害者の社員は泣き寝入りすることが多いため、裁判まで発展しないのではないかと思います」

 悪気はなかったとしても、同僚や部下に一発芸を強要すると、法的責任を問われる可能性があるだけでなく、相手に精神的な苦痛を与えてしまいかねません。忘年会の際は羽目を外さないように気を付けましょう。

(オトナンサー編集部)

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牧野和夫(まきの・かずお)

弁護士(日・米ミシガン州)・弁理士

1981年早稲田大学法学部卒、1991年ジョージタウン大学ロースクール法学修士号、1992年米ミシガン州弁護士登録、2006年弁護士・弁理士登録。いすゞ自動車課長・審議役、アップルコンピュータ法務部長、Business Software Alliance(BSA)日本代表事務局長、内閣司法制度改革推進本部法曹養成検討会委員、国士舘大学法学部教授、尚美学園大学大学院客員教授、東京理科大学大学院客員教授を歴任し、現在に至る。専門は国際取引法、知的財産権、ライセンス契約、デジタルコンテンツ、インターネット法、企業法務、製造物責任、IT法務全般、個人情報保護法、法務・知財戦略、一般民事・刑事。

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