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喜んで遊ぶと思いきや…初めて雪を見て怖がる自閉症の息子 母親が得た重要な気付きとは?

知的障害を伴う自閉症の息子を育てる女性ライターが、息子が初めて雪を見たときのエピソードについて、紹介します。

雪遊びを楽しむ息子を想像していたアマミさん(べっこうあめアマミさん作)
雪遊びを楽しむ息子を想像していたアマミさん(べっこうあめアマミさん作)

 ライター、イラストレーターとして活動するべっこうあめアマミさんは、知的障害を伴う自閉症がある8歳の息子と、きょうだい児(障害や病気を持つ兄弟姉妹がいる子ども)の4歳の娘を育てながら、発達障害や障害児育児に関する記事を執筆しています。数年前、息子さんが初めて雪を見たときの反応を見て、子育てをする上で大切なことに気付いたというアマミさん。そのときのエピソードを紹介してくれました。

雪を触ろうとしなかった息子

 2月ですが、地域によっては、雪が降ったり積もったりしていることもあります。大人にとっては煩わしくもあるけれど、子どもにとってはうれしい雪の日。しかし、息子にとってはそうでもなかったようです。

 私たち家族が住んでいる地域では、真冬に雪が降ることはあっても、たくさん積もることはあまりありませんが、夫の実家がある地域では、真冬に雪が積もることも珍しくありません。数年前の冬、夫の実家に帰省したときに、雪景色の中で数日間過ごしたことがありました。当時の息子は2歳くらいだったと思いますが、息子にとっては初めての雪でした。

「真っ白な世界の中で、積もった雪の上をサクサク歩いたら喜ぶだろうな」

「息子と一緒に雪だるまを作りたいな」

 夫の実家への道中、私は楽しそうに遊ぶ息子の姿を想像してワクワクしていました。

 しかし、初めて雪景色を見たとき、息子は予想外の反応を示しました。真っ白な地面を怖がり、雪を触ろうともしません。

 何度も外に連れ出そうとしましたが、結局息子は滞在中、一度も外に出なかったのです。誰が何を言っても、息子はかたくなに外に出ようとしませんでした。息子のために義父が作ってくれた立派な雪だるまの写真だけ、撮ったのを覚えています。

環境の変化に弱く、慎重な性格の息子

 当時の息子には、まだ障害の診断は出ていませんでした。しかし、今になって振り返ってみると、自閉症があり、環境の変化に弱い息子にとって、「初めての雪」は、あまりにハードルが高かったのかもしれません。

 息子と同様の障害があるお子さんを育てる知人の女性からも、「普段から見慣れた景色でも、たまに雪が積もると外に出るのを極端に嫌がる」という話を聞きました。それなのに、ただでさえ慣れない場所に行って不安な中、よく分からない白いものが一面に積もっている状況を見た息子は、とても怖かったことでしょう。

 環境の変化に弱い自閉症の子どもと、雪のように大きな環境変化をもたらす自然現象は、あまり相性がよくないのかもしれません。

 もちろん、自閉症があるお子さんでも、雪が好きなお子さんもいるでしょうし、特性はさまざまだと思います。しかし、息子は恐らく「歩く場所」「地面」に対するこだわりや不安感が、他の人より強いのだと思います。通っていた療育施設(障害がある子どもの自立を支援する施設)でも、床を張り替えただけで床の上を歩けなくなってしまったことがありました。

 ショッピングモールなどでは、床の色が変わった途端、急に進めなくなってしまうこともよくあります。それに加えて、息子は非常に慎重な性格なので、滑りやすく足元が安定しない雪の上は、受け入れがたいものだったのでしょう。知らないことが多かったとはいえ、息子には酷な経験をさせてしまいました。

親がつい抱いてしまう「思い込み」

 息子の場合は障害の特性もあって、配慮しなければならないことが特に多いです。しかし障害の有無にかかわらず、子育てにおいて、「子どもってこういうものだよね」という思い込みは、誰もが持ってしまいやすいものなのではないでしょうか。

 私は雪がまったく積もらない地域で育ちました。そのため、冬に雪が降るだけで気持ちが高揚しますし、夫の実家と同じような雪景色を見たら、「外に出ないと損じゃないか!」とすら思ってしまうのです。

 そのため、「息子に雪を体験させたい」というのは、息子に自分の気持ちを投影させた、私の勝手な思い込みもあったのかもしれません。それに加えて、「子どもは雪遊びが好き」という思い込みもありました。

 いつも後になって気付くのですが、雪の件に限らず、子どもの気持ちを私自身の経験や気持ちから、「こうだろう」と思い込んでしまうことはよくありました。息子は私にとって初めての子どもだったので、子育ての初期の頃は、特にそういう傾向にあったように思います。

 しかし、子どもは親とは別の人間です。同じ場面に出くわしたとしても、同じように感じるとは限りません。息子との初めての雪の日を思い出すたびに、そんな自戒の念が浮かびます。

(ライター、イラストレーター べっこうあめアマミ)

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べっこうあめアマミ(べっこうあめあまみ)

ライター、イラストレーター

知的障害を伴う自閉症の息子と「きょうだい児」の娘を育てながら、ライター、電子書籍作家として活動。「ママがしんどくて無理をして、子どもが幸せになれるわけがない」という信念のもと、「障害のある子ども」ではなく「障害児のママ」に軸足をおいた発信をツイッター(https://twitter.com/ariorihaberi_im)などの各種SNSで続けている。障害児育児をテーマにした複数の電子書籍を出版し、Amazonランキング1位を獲得するなど多くの障害児家族に読まれている(https://www.amazon.co.jp/dp/B09BRGSY7M/)。「べっこうあめアマミ」というペンネームは、障害という重くなりがちなテーマについて、多くの人に気軽に触れてもらいたいと願い、夫と相談して、あえて軽めの言葉を選んで付けた。

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