紙の通帳有料化の一因、「印紙税」ってそもそも何? なぜデジタル通帳なら不要?
「紙の通帳」有料化の背景に「印紙税」があります。そもそも印紙税とは何のために存在し、なぜ紙だと課税されて、デジタルだと課税されないのでしょうか。ファイナンシャルプランナーに聞きました。
「紙の通帳」を有料化する銀行が増えていますが、その理由の一つに「印紙税」を銀行が毎年負担していることが挙げられています。デジタル通帳にすれば、印紙税もかからないそうですが、そもそも「印紙税」とは何のために存在し、同じ通帳でも、なぜ紙だと課税されて、デジタルだと課税されないのでしょうか。ファイナンシャルプランナーの長尾真一さんに聞きました。
「経済的利益」あるという理由で課税
Q.印紙税とは、そもそも何でしょうか。
長尾さん「印紙税とは、日常の経済取引に伴って作成する、契約書や領収書など特定の文書に課税される税金です。経済取引の背景には、一般的に経済的利益が存在し、そこには税を負担する能力があるので、その支払い能力に応じて納税すべきであるという考えに基づいています。また、国は『文書作成によって、取引の法律関係が安定化する』ことも、文書作成に対して課税する根拠に挙げています。もともとは、1600年代にスペインとの戦争で財政が疲弊したオランダで、新たな税収確保の手段として考案されたと言われています。
税金を課すためには何か理由が必要ですが、広く使用されている文書に対して、1件当たりは比較的少額の税金を課すことで、国民に重税感を与えることなく徴税できたことが、他の国々でも印紙税が普及した理由のようです。
日本でも明治6(1873)年に印紙税が採用されました。2020年度の印紙税による税収は約9200億円に上ります」
Q.印紙税が必要なケースの中で、私たちの暮らしに身近なものの具体例を教えてください。
長尾さん「印紙税の課税対象として、印紙税法で20種類の課税文書が決められていますが、個人の生活に身近なものとしては、買い物をしたときの領収書などがあります。マイホームを購入するときの不動産売買契約書で見た経験がある人もいるでしょう。
高額の買い物をすると、領収書に収入印紙が貼られているのを見たことがある人は多いと思いますが、受取金額が5万円以上の領収書には、収入印紙の貼付が必要です。領収書の金額が5万円以上100万円未満の場合は、収入印紙の金額は200円ですが、100万円以上200万円以下の場合は400円と、領収書の金額が上がるほど、必要な収入印紙の金額も上がります。
自分が買い主の場合はよいのですが、売り主になる場合は印紙税(収入印紙)を負担しないといけません。また、契約書の場合は2通を作成して、双方が1通ずつ保管する場合が多いので、印紙税も双方がそれぞれ負担するのが通常です。
なお、自分が印紙税を負担するわけではないので知らない人も多いのですが、生命保険などの保険証券や、後述する銀行の預金通帳も、印紙税の課税対象とされています」
Q.印紙税を納めないと、罰則などがあるのでしょうか。
長尾さん「印紙税は原則として、課税文書に印紙税相当額の収入印紙を貼り付けることによって納付します。印紙税の納付を怠ると、納付すべき印紙税の額に加えて、その2倍に相当する金額の合計額が、過怠税として徴収されます。
例えば契約金額が2000万円の不動産売買契約書であれば、印紙税額は2万円なので、納付を怠った場合は、本来の印紙税額2万円に加えて、その2倍の4万円が加算され、合計6万円が徴収されることになります」
Q.紙の通帳を有料化する銀行が増えていますが、「紙の通帳」だと印紙税がかかって、「デジタル通帳」だと印紙税がかからないのはなぜでしょうか。また、通帳発行時や切り替え時は、紙の通帳を作成するので分かりやすいのですが、なぜ毎年、紙の通帳に印紙税がかかるのでしょうか。
長尾さん「印紙税はあくまで、印紙税法で定められた20種類の課税文書を作成した場合に課税される税金であり、デジタル通帳や電子契約書などは、この20種類に入っておらず、課税文書を作成したことにはならないため、印紙税の課税対象にはなりません。
また法令上、紙の預貯金通帳は1年以上にわたって使用すると、1年区切りで1冊の通帳を作成したものとみなされることになっています。そして手続きを煩雑にしないために、所轄税務署の承認を受けた場合には、毎年4月1日の預貯金口座の数に基づいて納税し、その後に新たな通帳を交付しても、追加の納税は発生しないことになっています。
このような理由から、紙の通帳のみ毎年印紙税がかかることになっており、金融機関にとっては大きな負担になっています。そのため最近では、顧客にデジタル通帳の利用を促し、さらに紙の通帳は有料化する金融機関も増えてきています」
Q.「印紙税は時代遅れ」との指摘もあるようです。時代遅れなのでしょうか。そうであれば、なぜなくならないのでしょうか。
長尾さん「先述の通り、印紙税は特定の課税文書を作成した場合に課税される税金ですが、最近ではあらゆる文書のデジタル化が進んでおり、国も積極的にDX(デジタルトランスフォーメーション)を促進しようとしています。そのような時代において、『紙の文書』に課税するというのは、時代遅れな印象を持つのも無理はないと思います。
また、同じ取引をしても、契約書がデジタルであるか紙であるかによって税金が違ってくるのは、公平感に欠ける気がする人もいるでしょう。これでは税金というよりも、紙の文書に対するペナルティーのようにすら感じてしまいます。
とはいえ、現在でも印紙税は1兆円近い税収があり、国にとっては貴重な財源でもあります。もし印紙税をなくすとしたら、国としては別の税金で埋め合わせる必要があるかもしれません」
Q.印紙税を合法的に節約する方法があれば教えてください。
長尾さん「印紙税は原則として課税文書を作成した者が負担するので、通帳の印紙税を負担するのは金融機関ですが、先述の通り、紙の通帳を有料化する銀行も増えていますので、新規で口座開設する場合は、デジタル通帳を選択した方がよいかもしれません。
契約書は電子化することで、印紙税の課税対象から外れます。もしどうしても紙の契約書が必要な場合は、契約書の重要度にもよりますが、原本は1通だけ作成し、一方はコピーを保管すれば、印紙税は1通分のみで済みます。
また、契約書に記載する金額を税込み金額のみとせず、内訳として消費税額を明記しておけば、消費税額は印紙税の記載金額に含めなくてよいため、印紙税が節約できる場合があります。例えば『請負金額1100万円(税込み)』と記載された契約書の記載金額は1100万円とみなされて、印紙税額は2万円になりますが、『請負金額1100万円(うち消費税等100万円)』と記載した場合は、消費税を除いた1000万円が記載金額となるため、印紙税は1万円で済みます。ただし、この取り扱いが適用されるのは、(1)不動産の譲渡等に関する契約書(2)請負に関する契約書(3)金銭または有価証券の受取書の3種類に限られます」
(オトナンサー編集部)
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