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普通の落書きは罪なのに…バンクシーの無許可の絵、なぜ罪に問われない?

芸術家のバンクシーは公共物や私有物に絵を無許可で描いていますが、一般人が同じことをすると罪に問われます。なぜ、バンクシーは罪に問われないのでしょうか。

パリのバタクラン劇場非常口の扉に描かれたバンクシーによるとされる作品(2018年6月、EPA=時事)
パリのバタクラン劇場非常口の扉に描かれたバンクシーによるとされる作品(2018年6月、EPA=時事)

 正体を明らかにせず活動している芸術家のバンクシーが先日、自転車のタイヤチューブをフラフープ代わりにして遊ぶ少女の絵を新作として発表しました。報道によると、この絵は英国ノッティンガムにある美容院の外壁に描かれたそうです。これまでも、バンクシーは公共物や民家の壁などの私有物に新型コロナなど社会性のあるテーマに関連した絵を無許可で描いてきましたが、私たち一般人がバンクシーと同じことを行えば、違法で、落書きをしたとして罪に問われてしまいます。

 なぜ、バンクシーは罪に問われないのでしょうか。芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

シンガポールではむち打ち刑も

Q.日本の法律で、公共物や私有物に落書きをするとどのような罪に問われ、どのような刑罰が科される可能性があるのでしょうか。

牧野さん「建造物に落書きをすると建造物等損壊罪(刑法260条、5年以下の懲役)が成立する可能性があります。裁判例では、この罪でいう『損壊』とは一般的に考えられる『壊す』行為だけでなく、『その物の効用を害する一切の行為』『その物が本来持っている価値を低下させる行為』を損壊としています。

建造物や文書を除く他人の物に落書きをした場合は器物損壊罪(刑法261条、3年以下の懲役、または30万円以下の罰金、もしくは科料)が成立する可能性があります。この罪の『損壊』も先ほどの建造物等損壊罪と同じです。また、軽犯罪法1条33号(みだりに他人の家屋その他の工作物にはり札をし、もしくは他人の看板、禁札その他の標示物を取り除き、またはこれらの工作物もしくは標示物を汚した者は、拘留または科料に処する)に違反する可能性もあります」

Q.海外では、公共物や私有物に落書きをするとどのような罪に問われるのでしょうか。

牧野さん「海外でも日本と同様に、落書きをすると罪に問われます。例えば、シンガポールでは公共物や私有物への破壊行為を厳しく規制する法律があり、車に落書きをしたとして、アメリカ人の少年がむち打ち刑となったことがあります。クリントン政権時代、アメリカが外交交渉でむち打ち刑を回避しようと試みましたが、残念ながら刑が執行されました。

日本と同じような罪だと思い込み、軽い気持ちで落書きをするとむち打ち刑が科されるので、刑罰の名称通り『痛い目』に遭うことになります」

Q.バンクシーの絵も許可を得て描いているわけではないそうです。なぜ、バンクシーは罪を問われないのでしょうか。

牧野さん「先述したように、器物損壊罪や建造物等損壊罪の裁判例では『その物の効用を害する一切の行為』『その物が本来持っている価値を低下させる行為』を損壊と見なしています。一般人が公共物や私有物に落書きをした場合、落書きした物の効用を害したり、価値を低下させたりするため、『損壊』と判断されるでしょう。

しかし、バンクシーは芸術家として世の中に認知されており、その落書きは単なる落書きではなく、高付加価値のアートとなるため、落書きされた物が本来持っている価値を低下させるどころか、むしろ、高めることになります。そのため、バンクシーの落書きについて、器物損壊罪や建造物等損壊罪が成立することは難しいでしょう。軽犯罪法1条33号にも該当しない可能性が高いです」

Q.一般人が同じことを行うと罪を問われるのに芸術性を認められた場合には罪を問われないというのは、ダブルスタンダードで不公平ではないでしょうか。

牧野さん「法的には『落書きをしたことの善しあし』ではなく、刑法上犯罪と評価することができる『損壊』や『汚した者』であるかどうかで、落書きが犯罪に当たるかどうかが判断されます。そのため、結果的にダブルスタンダードになったとしても不公平ということにはなりません」

Q.もし、日本の高名な芸術家がバンクシーのように、日本で公共物や私有物に無許可で絵を描いたとします。この場合は罪を問われますか、問われませんか。

牧野さん「日本の高名な芸術家が日本で公共物や私有物に無許可で絵を描いた場合も、法的には『損壊』に該当しないと思われます。倫理的に問題はあるかもしれませんが、描いた絵により、その物が一般的に価値を高めることになる限り、バンクシーが罪を問われないのと同様、その芸術家が罪を問われる可能性は低いでしょう」

(オトナンサー編集部)

牧野和夫(まきの・かずお)

弁護士(日・米ミシガン州)・弁理士

1981年早稲田大学法学部卒、1991年ジョージタウン大学ロースクール法学修士号、1992年米ミシガン州弁護士登録、2006年弁護士・弁理士登録。いすゞ自動車課長・審議役、アップルコンピュータ法務部長、Business Software Alliance(BSA)日本代表事務局長、内閣司法制度改革推進本部法曹養成検討会委員、国士舘大学法学部教授、尚美学園大学大学院客員教授、東京理科大学大学院客員教授を歴任し、現在に至る。専門は国際取引法、知的財産権、ライセンス契約、デジタルコンテンツ、インターネット法、企業法務、製造物責任、IT法務全般、個人情報保護法、法務・知財戦略、一般民事・刑事。

コメント

1件のコメント

  1. 落書きされた側の持ち主が、その落書きに価値を見出さない場合はどうなるんだろうか。
    「俺の大切な○○に傷をつけやがって」ってなったら。
    その落書きがどんなに高値になろうとも、許せないのでは?