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知人が「違法薬物」所持・使用、見て見ぬふりは法的責任を問われる?

知人や友人が違法薬物に手を染めているのを知りながら、警察に通報しなかった場合、法的責任を問われるのでしょうか。弁護士に聞きました。

伊勢谷友介容疑者
伊勢谷友介容疑者

 俳優の伊勢谷友介容疑者が大麻取締法違反の疑いで9月8日に現行犯逮捕され、衝撃が走りました。ただ、報道によると、芸能関係者からは「以前から情報があったので全く驚かなかった」「まだやめていなかったのか」といった声も聞かれ、ネット上では「放っておいた人にも罪がある」「知っていて黙っていたことに驚き」などと批判の声が上がっています。

 もし、知人や友人が違法薬物を所持しているのを知りながら、見て見ぬふりをした場合、法的責任を問われるのでしょうか。また、知人や友人が違法薬物に手を染めていると分かった場合は、どのように対処すればいいのでしょうか。グラディアトル法律事務所の伊藤琢斗弁護士に聞きました。

捜査機関への通報義務はない

Q.もし、知人や友人が違法薬物を所持したり、使用したりしているのを知りながら、見て見ぬふりをした場合、法的責任を問われるのでしょうか。

伊藤さん「日本では、他人の違法薬物の所持や使用を知ったとしても、それを捜査機関に通報する義務はありません。そのため、知人や友人の違法薬物の所持・使用について通報しなかったとしても、原則として法的責任を問われることはありません。

ただし、自分の家で友人や知人が違法薬物を使用し、そのまま家に薬物の残りを置いていったのに、それを知りながら放置したような場合では、自身も薬物を所持したものとして罪に問われてしまう可能性があります」

Q.もし、知人や友人が違法薬物に手を染めていると分かった場合やその疑いがある場合、どのように対処したらよいのでしょうか。

伊藤さん「まだ依存状態にはなっていないようなら、薬物の危険性を伝えると同時に『薬物所持などが発覚して刑事事件化してしまったら、どれだけ大きな不利益があるか』などを伝えて、何としてでも薬物とは関わらないようにさせるべきだと思います。既に依存状態になってしまっていたら、薬物依存症の治療プログラムを提供している機関が多数あるので、それらの機関へ相談に行くよう強くすすめましょう」

Q.もし、知人や友人から違法薬物を無理やりすすめられた場合、どう対処すればいいのでしょうか。通報義務はありますか。

伊藤さん「何が何でも断ってください。一度使用してしまうと、その後、ずっと苦しめられる薬物もあります。『その場の空気を壊すのが怖い』『断ってしまうと今後の友好関係が壊れてしまいそう』など誘いに乗ってしまう理由はいくつもあると思います。

しかし、誘いに乗ることは『薬物を使用する』だけでなく、『犯罪に手を染める』ことであるとしっかりと認識して、強い意志を持って断ってください。なお、違法薬物の勧誘に関しても通報義務はありません」

Q.それでは、無理やり使用させられた場合は、どう対処すればいいのでしょうか。無理やりであっても、薬物を使用したことで法的責任を問われるのですか。

伊藤さん「無理やり使用させられてしまった場合は、すぐに医療機関で診察してもらい、その後、警察に必ず相談しましょう。もし、相談をしなかった場合、後日、警察が違法薬物を所持している人を逮捕した際に、その人が『○○と一緒に薬物を使用した』などと供述すれば、ご自身にも薬物使用の嫌疑がかかってしまう可能性があります。

薬物を無理やり使用させられた場合に犯罪が成立するか否かは『無理やり』の程度によります。例えば、『お前もやれ!』などと言われ、無理やり体を押さえつけて薬物を吸引させられたり、注射させられたりしたような場合は、薬物使用の『故意』がなかったとみなされ、罪に問われないでしょう。

ただし、『断れない空気だったので、仕方なく薬物を使用した』という程度では『渋々ながらも自分の意思で薬物を使用した』と判断され、罪に問われる可能性が高いです。何度も言いますが、刑事責任を問われないためにも、違法薬物の勧誘は何としてでも断ってください」

Q.ネット上では「大麻は健康への悪影響はない」「たばこより健康被害が小さいのに逮捕するのはおかしい」という意見もあります。

伊藤さん「確かに、大麻の流通を合法化している国もありますし、多くの研究で、大麻による健康被害は大きくないという結果が出ています。あくまで個人的な見解ですが、『健康への悪影響が大きい』『大麻は危険だ』という意見は私は持っておりません。

しかし、これは大麻の所持を容認しているという意味ではありません。大麻の安全性を信じていたとしても、現在、日本で大麻を所持すれば『違法』なのです。『自分は安全だと思う』からといって、違法行為をしてもよいということにはならないので、そこは切り分けて考えましょう」

(オトナンサー編集部)

伊藤琢斗(いとう・たくと)

弁護士

弁護士法人グラディアトル法律事務所所属。立命館大学法学部卒業後、神戸大学法科大学院修了。インターネット問題、ベンチャー企業支援をはじめとする民事上の案件を幅広く取り扱う。刑事事件についても積極的に取り組んでいる。

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