中国人が白いウサギの「キャンディー」を愛してやまない理由
日本で大人気のミルク味のソフトキャンディー「ミルキー」ですが、中国にも同じようなお菓子があり、おいしさの他に理由があって大人気のようです。
ミルク味のソフトキャンディーである不二家の「ミルキー」は、日本人なら誰もが知っているお菓子ですが、お隣の中国にも、老舗の食品メーカーが発売しているミルク味のソフトキャンディーがあり、中国人の間でも大人気です。その大人気の理由が、おいしさ以外にもあるそうですが、それは一体何でしょうか。
日中の異文化ギャップを数多く取材している筆者が解説します。
ニクソン大統領へのプレゼントにも
新型コロナウイルスの感染防止のため、マスクをつける人が圧倒的に増えましたが、お菓子メーカーの不二家の店頭でペコちゃんがミルキー柄のマスクをしている写真を見て、思わずほほ笑んでしまった、という人もいるのではないでしょうか。
不二家の「ミルキー」といえば、日本人ならば誰でも知っているミルク味のソフトキャンディーですが、お隣の中国にも、誰もが知っているミルク味のソフトキャンディー「大白兎●糖」(●は「女偏に乃」、以下同)(ダーバイトゥーナイタン white rabbit candy)があります。
白いウサギ(大白兎)のミルクキャンディー(●糖)という意味で、赤と青を基調としてデザインしたパッケージに大きな白いウサギのキャラクターが描かれているのが特徴です。
製造しているのは、1915年に創業した上海の食品メーカー、上海冠生園食品。商品は114グラム入り、227グラム入り、454グラム入り、限定商品などがあります。味はミルク味のほか、小豆味、チョコレート味、トウモロコシ味、ヨーグルト味、濃厚ミルク味など。価格は店舗によって異なりますが、114グラム入りで15~20元(約240~約320円)程度です。
不二家の「ミルキー」同様、中国では全国区の人気商品で、1972年に米国のニクソン大統領が訪中した際、周恩来首相がこのキャンディーをプレゼントしたというエピソードもあるほど。現在は、世界約50カ国・地域に輸出されています。
中国では、コンビニ、スーパーなどで売られているだけでなく、空港でも売られており、まさに中国を代表するお菓子。中国人に「『大白兎●糖』っていうキャンディー、知ってる?」と聞いたら、知らないと答える人はほぼ皆無といってもいいでしょう。
2019年には、白いウサギのパッケージの「大白兎●糖」が発売されてから60周年となったのを記念して、特別バージョンのパッケージが発売されたり、上海のショッピングセンター内に期間限定のカフェ(ミルクキャンディーにちなみ、ミルクティーが飲めるカフェ)がオープンしたりするなど、記念イベントが相次ぎました。
昨今では、中国でもおしゃれなお菓子が増えてきましたが、60年の歴史を誇る商品は珍しいため、中国人のファンの間で非常に盛り上がったのです。
貴重な老舗ブランドの存在
なぜかというと、中国には老舗といわれる企業が日本に比べて圧倒的に少ないからです。中国語で老舗のことを「老字号」(ラオズーハオ)といいます。有名な老舗といえば、漢方店の「同仁堂」(1853年創業)、食品会社の「六必居」(1530年創業)、刃物専門店の「張小泉」(1663年創業)などがありますが、中国で100年以上の歴史を誇る老舗はわずか1000社ほどしかないといわれています。
中国の街角で、看板の隣に「老字号」と書いてあるのをよく見かけるのですが、たいていは創業から30~40年ほどの歴史しかありません。それでも、中国では「老字号」と呼ばれます。それくらい、常に中国の店舗や企業は入れ替わりが激しいのです。
この「大白兎●糖」を製造・販売している上海の企業の歴史は100年ほど。中国では立派な老舗の部類に入ります。ちなみに日本の100年企業(創業から100年以上たつ企業)は約3万3000社あるといわれており、これは世界的に見ても非常に多いです。
中国というと「4000年の歴史がある」と連想する日本人が多いと思いますが、4000年間、ずっと同じ王朝だったわけではありません。元、明、清など王朝が変わるたびに、中国では、社会システムなどあらゆるものが壊されてきて、変化が非常に激しく、時代をわたって何かが継続されていくということは少なかったのです。
現在の中華人民共和国になってからも、まだ71年しかたっていませんが、この71年の間にも、国内で大きな混乱がありました。
日本でも、江戸時代より以前は時代ごとに変化が激しく、世の中が安定していませんでしたが、江戸時代は、初期と幕末期以外は、長く平和な時期が続きました。現在、日本で100年以上続いている企業の中には、江戸時代に創業した老舗も多いです。そのことからもわかるように、企業の存続には「平和であること」「世の中が安定していること」が深く関係しているといえます。
また、中国では、日本のように「息子が家業を継ぐ」という文化も多くはありませんでした。個人の意思よりも「家(家業)の存続」を重視する日本とは考え方が異なっていることや、中国人は常に新しいものを求める気質があることなどが関係しているといわれます。
だからこそ、中国では長寿企業が少なく、その長寿企業が守り育てて、国民の誰もが知るようになった老舗ブランドの存在は貴重だといえるでしょう。
(ジャーナリスト 中島恵)
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