オトナンサー|オトナの教養エンタメバラエティー

リードなしで散歩中の犬が通行人にけがをさせたら…飼い主の法的責任は?

犬をリードでつながずに散歩をさせている人を見かけることがあります。通行人にけがをさせた場合、どうなるのでしょうか。

リードなしの犬が通行人にけがをさせたら…?
リードなしの犬が通行人にけがをさせたら…?

 新型コロナウイルスの影響による外出自粛が東京都内などで続く中、公園やその周辺で散歩をしたり、ジョギングをしたりする人が増えています。犬を連れて散歩している人もいますが、中にはリードでつながずに歩かせているケースも見られます。もし、リードをつながずに犬を散歩させ、犬が通行人にけがをさせてしまった場合、飼い主は法的責任を問われるのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

愛護条例違反や過失傷害罪も

Q.そもそも、犬の散歩をする際はリードでつなぐよう、法律や条例などで義務付けられているのでしょうか。

佐藤さん「法律や条例で義務付けられています。まず、『動物の愛護および管理に関する法律(動物愛護法)』(7条1項)では、動物の所有者、または占有者は、動物が人の生命や身体、財産に害を加えたり、人に迷惑を及ぼしたりすることのないように努めなければならない旨を定めています。

動物愛護法を受けてつくられた『家庭動物等の飼養および保管に関する基準』では、犬を道路など屋外で運動させる場合、犬を制御できる者が原則として引き運動(リードを着けての並走)により行うこと、犬の突発的な行動に対応できるよう引き綱(リード)の点検や調節などに配慮することが定められています。

また、動物愛護法(9条)は、地方公共団体が条例をつくり、動物が人に迷惑を及ぼさないよう必要な措置を講ずることができるとしています。この規定を受け、各地方自治体はそれぞれ、独自の動物愛護条例を制定しており、犬の放し飼いを禁じているところが多いです。

例えば、東京都は『東京都動物の愛護および管理に関する条例』を定め、犬の飼い主の順守事項として、犬を運動させる場合、犬を制御できる者が綱や鎖などで確実に保持しておくことを求めており、違反すれば拘留、または科料に処される可能性があります(9条1号、40条1号)」

Q.リードをつながずに犬を散歩させて、犬が通行人にかみついたりぶつかったりして、けがをさせた場合、飼い主はどのような法的責任を負うのでしょうか。

佐藤さん「民事上の損害賠償責任や、場合によっては刑事責任を問われる可能性があります。

まず、民事上の責任ですが、民法(718条1項)では『動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、動物の種類および性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、この限りでない』と定めています。リードをつながずに犬を散歩させていた場合、『相当の注意をもって犬の管理をした』とは認められませんので、飼い主はけがをした人に対して、治療費や慰謝料などを支払う必要があるでしょう。

刑事責任としては、動物愛護条例違反の罪に問われたり、刑法209条の定める過失傷害罪に問われたりする可能性があります」

Q.それでは、リードで犬をつないでいて通行人にけがをさせた場合、飼い主は損害賠償を免れることもあるのでしょうか。

佐藤さん「前述の民法(718条1項)で定められているように、『相当の注意をもって』飼い犬の管理をしていた場合は、損害賠償責任を免れます。

『相当の注意』をしていたかどうかは(1)動物の種類、年齢、雌雄(2)動物の性質、性癖、病気(3)動物の加害前歴(4)飼い主の保管に対する熟練度、動物をならしている程度、加害時の措置態度(5)保管の態様(6)被害者の警戒心の有無、被害誘発の有無、被害時の状況――など、諸般の事情を考慮して判断されます。

ただ、実際の裁判では、飼い主の免責を容易に認めない傾向があり、たとえリードで犬をつないでいたとしてもそれだけでは『相当の注意』を尽くしたとはいえないとして、損害賠償責任が肯定されることがあります。例えば、リードを長くして犬を散歩させ、飼い主が犬をコントロールできていない間に、飼い犬が第三者を傷つけたような場合、飼い主の責任は認められるでしょう。

刑事責任についても同様で、責任が認められるかどうかはケース・バイ・ケースです。リードをつないでいた場合は、つないでいなかった場合に比べ、過失の程度は小さいと評価されるでしょう。ただ、それだけで刑事責任が一切問われなくなるわけではありません」

1 2

佐藤みのり(さとう・みのり)

弁護士

神奈川県出身。中学時代、友人の非行がきっかけで、少年事件に携わりたいとの思いから弁護士を志す。2012年3月、慶応義塾大学大学院法務研究科修了後、同年9月に司法試験に合格。2015年5月、佐藤みのり法律事務所開設。少年非行、いじめ、児童虐待に関する活動に参加し、いじめに関する第三者委員やいじめ防止授業の講師、日本弁護士連合会(日弁連)主催の小中高校生向け社会科見学講師を務めるなど、現代の子どもと触れ合いながら、子どもの問題に積極的に取り組む。弁護士活動の傍ら、ニュース番組の取材協力、執筆活動など幅広く活動。女子中高生の性の問題、学校現場で起こるさまざまな問題などにコメントしている。

コメント