もうすぐ年末! 恒例の「忘年会」はいつごろ、どんなきっかけで始まった?
もうすぐ忘年会の季節ですが、いつから、どのようなきっかけで行われるようになったのかは、あまり知られていません。忘年会のルーツを聞きました。
11月も下旬になると、そろそろ忘年会が気になる季節です。職場の同僚や友人同士でおいしいご飯を食べ、お酒を飲み、1年間の労をねぎらう年末の風物詩ですが、いつから、どのようなきっかけで行われるようになったのかは、あまり知られていないかもしれません。忘年会のルーツについて、和文化研究家で日本礼法教授の齊木由香さんに聞きました。
鎌倉時代の「としわすれ」が起源
Q.忘年会はいつから、どのようなきっかけで行われるようになったのですか。日本独自の風習なのでしょうか。
齊木さん「鎌倉時代、皇族や貴族など上流階級の人たちが集い、一晩中和歌を詠んだとされる『としわすれ』という行事がありました。それが忘年会の起源とされています。漢語としての『忘年』は中国の故事に『忘年の交わり』とあり、年齢差を問題にしないことを指します。日本人はこれを『その年の慰労を目的として執り行う宴会』の意味に解釈したため、宗教的な意味付けや、特定行事様式のない日本独自の風習といえます」
Q.最初は、にぎやかに楽しく過ごす会ではなかったのですね。
齊木さん「鎌倉時代の『としわすれ』は、お酒を飲みながら和歌を詠み明かす、もっと静かで厳かな行事でした。江戸時代になると、庶民も『としわすれ』として、酒やつまみを楽しんで一年の憂さ晴らしをするようになり、親しい者同士で比較的にぎやかに行うようになりました。
職場での宴会が始まったのは、明治時代になってからです。ボーナスが出た官僚や帰省しない学生が、どんちゃん騒ぎをするようになりました。昭和時代に入ると、企業の忘年会を中心に規模、予算が拡大し、当初は男性社員ばかりで行っていたものが、女性社員の参加も増えていきました。
また、楽器の演奏や手品などの芸を素人が披露する『かくし芸』、座布団回しなど宴会でしか通用しない『宴会芸』といったものがつきものになりました。文明開化の流れとともに世間に広まり、忘年会という行事が形作られていきました」
Q.忘年会といえば「無礼講」もありますが、どのようにして生まれたのですか。
齊木さん「鎌倉時代末期、鎌倉幕府を倒す意思を探ろうと、後醍醐天皇が身分の上下に関係なく、席の移動を自由にした酒席を設けたことが始まりとされています。当時の公家社会の宴席では、席順が厳しく決まっており、一度座った席から移動することは許されていませんでした。
このしきたりを無視して座席を立つことが無礼になることから、自由に座席を移動することが許された宴会を『無礼講』と呼び、現在は『堅苦しく儀礼めいたことは抜きに、みんなで楽しく飲みましょう』という意味に変わったと考えられています」
Q.お酒を飲んでおいしいご飯を食べ、にぎやかに楽しく過ごすのは、普段の宴会でも行われることだと思います。忘年会だからこそ、普段の宴会ではやらない何かをすべきだということはあるのでしょうか。
齊木さん「忘年会では、『かくし芸』『座布団回し』など宴会でしか通用しない『宴会芸』といったものがつきものになります。そこで、新入社員が一発芸を披露するなど、ダンスや芸人のネタ、コスプレで、その年のはやりのキャラクターに扮(ふん)し盛り上げます。会社の忘年会は、その時の振る舞いも評価対象になることもあり得ました。
しかし、近年では、宴会芸やビンゴ大会などは幹事の負担も多いため、ただの居酒屋ではなく一風変わった居酒屋での忘年会や、宴会芸をしなくても盛り上がるようなスポーツバーなどで、お酒を飲みながら卓球やバーチャルゴルフを楽しむという、場所で楽しませる風潮へと移り変わっています」
Q.年末に行う忘年会のことを「納会」と呼ぶ人もいます。忘年会と納会には違いがあるのでしょうか。
齊木さん「納会とは、忘年会と同じく年末に催す場合が多く、“締めくくり”という意味では変わりありません。しかし、忘年会との違いは、必ずしも12月に行うわけではないということです。例えば、プロ野球やJリーグではシーズン終了後に開催し、“打ち上げ”に近い意味合いがあります。各業種や会社によって、納会の開催月はそれぞれ異なり、株主総会終了後の7月に行う企業も多くあります。
また、納会は主にシーズンや期ごとの打ち上げの意味に加え、“一年間の仕事納めの打ち上げ”として、年内最後の出勤日に行うことが多いです。仕事の打ち上げとしての意味合いが強く、開催時間も忘年会に比べると早い午後3時ごろからのスタートで、軽めの飲食で終わらせる会社も多くあります。つまり、忘年会が『その年の苦労を忘れる』意味でやや騒がしい宴会であるのに対し、納会は『仕事の延長にあるもの』です。飲みすぎないよう注意する必要があります」
Q.最近では、若い社員を中心に、職場の忘年会に参加したくないという人が増えています。やむを得ないことでしょうか。
齊木さん「個人の意見が尊重される現代においては、やむを得ないと思います。昨今は、職場での深いコミュニケーションを取ることを嫌う若い世代が増えてきているように思いますが、いくつかの利点もあります。例えば、普段聞くことができない上層部の話を聞くことができる、職場では話す機会の少ない社員と会話ができる、さらに、上司や先輩にかわいがってもらえる、コミュニケーションを通して重要な情報を知ることができるなどです。
また、上司や同僚・部下の新たな一面や人間性を垣間見ることができます。それが仕事においてもチームワークが良好になる、信頼関係ができる、相手をより思いやることができるという、素晴らしいきっかけになり得ます。こうしたコミュニケーションを図ることは、人と人が同じ空間で生きていく上で非常に大切なことです。忘年会に参加する場合は、自分にとって何を学び吸収したいかという目標を掲げると、実りある有意義な時間で年を締めくくれるのではないでしょうか」
(オトナンサー編集部)
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