オトナンサー|オトナの教養エンタメバラエティー

×

虐待より広い不適切行為の概念「マルトリートメント」、子育てに悩む親を救えるか

脳にダメージ与えることも

Q.マルトリは子どもにどう影響しますか。

友田さん「脳にダメージを与えることがあります。私は、マルトリを受けたさまざまな人の脳をMRI(磁気共鳴画像装置)という、脳の画像が撮れる機械を使って調べました。その結果、暴言マルトリートメントによる『聴覚野の肥大』、性的マルトリや両親の家庭内暴力(DV)目撃による『視覚野の萎縮』などが起きることが分かりました。これは脳が『自分を守ろう』とする防衛反応だと考えられます。

つまり、マルトリが発達段階にある子どもの脳に大きなストレスを与え、実際に変形させていたのです。この脳の傷が残り、過度の不安感や情緒障害、学習意欲低下、うつ、ひきこもりといった症状・問題を引き起こす場合があります」

Q.マルトリをしないために、親が注意すべきことは何でしょうか。

友田さん「『愛のムチ』のつもりの行動が、いつの間にか虐待へとエスカレートしていく危険性を知り、子どもの気持ちに寄り添いながら育児をする必要があります。ポイントとして(1)子どもの脳に及ぼす影響を理解し、体罰・暴言による子育てはしない(2)大人と子どもは対等な力関係ではないという前提に立つ(3)爆発寸前のイライラをクールダウンする(4)子どもの気持ちと行動を分けて考え、成長を応援する――の4つがあります。

親にとって、子育てと仕事の両立は想像以上に大変です。そのため、私が強く言うのは『とも育て』です。これは、子どもたちを実の親だけでなく、社会が育てていくという視点で、みんなが子育て支援をしながら見守っていくことです。核家族化と『孤育て』が進んだ今、『とも育て』が大事だと思います」

Q.周囲がマルトリに気付いたとき、どのようにすればよいのでしょうか。

友田さん「マルトリを受けたとみられる子どもと遭遇したら、速やかに児童相談所全国共通ダイヤルの『189』や市区町村の子育て相談窓口、専門的な医療機関に相談してください。子どもが早い段階で安心できる環境に移り、こころの傷の専門的な治療やケアを受けられれば、脳の傷は回復していきます。子どもの脳は発達途上であり、可塑性というやわらかさを持っており、早いうちに手を打てば回復することが分かっています」

Q.マルトリの認知度は。広まることにより、どのような効果が期待できるのでしょうか。

友田さん「認知度はまだまだです。そのため、2019年1月から大阪府枚方市、豊中市などと協働で『適切な養育のあり方や親と子のかかわり方』を子育て家庭や地域市民に広げていくための『マルトリートメント予防モデル構築』事業を始めました。マルトリが子どもの脳の発達に悪影響を与えることを啓発するための取り組みです。大阪だけでなく、全国に広げていきたいと思っています。

人間の子どもは生きていくために、大人の『養育』を必要とします。その養育には愛情とぬくもりが必須です。しかし、実際には身近な大人と愛着(絆)が結べないまま成長していく子どもたちが多く存在します。子どもを健全に育てるためには、親が健全であることが求められます。私たちは、母子保健・児童福祉・精神保健機関と連携しながら、子どもだけでなく親をサポートしていく施策や仕組みづくりに力を入れていきたいと考えています。

『将来を担う子どもたちを社会全体で育て守る』という認識が、広く深く浸透することを願ってやみません」

(オトナンサー編集部)

1 2

友田明美(ともだ・あけみ)

福井大学子どものこころの発達研究センター教授

熊本大学医学部卒業。1990年から熊本大学病院発達小児科(現小児科)で勤務するなど、小児神経科医として診療に携わる。2011年から現職。福井大学医学部付属病院の子どものこころ診療部長も兼務している。著書に「新版いやされない傷-児童虐待と傷ついていく脳」(診断と治療社)「子どもの脳を傷つける親たち」(NHK出版)「虐待が脳を変える-脳科学者からのメッセージ」(新曜社)など。

コメント