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虐待より広い不適切行為の概念「マルトリートメント」、子育てに悩む親を救えるか

児童虐待の犠牲になる子どもが絶えない中、子育て上の不適切な行為を含めた「マルトリートメント」という概念を広めて、子育てに悩む親と子どもを救おうとしている人がいます。

2019年3月2日、船戸結愛ちゃんの命日には、事件現場のアパート前に多くの花が供えられた
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 東京都目黒区、千葉県野田市、鹿児島県出水市と児童虐待の犠牲になる子どもが絶えない中、一般的な虐待行為に加え、虐待とはいえない、子育て上の不適切な行為を含めた「マルトリートメント」という概念を広めて、子育てに悩む親とその子どもを救おうとしている人がいます。福井大学子どものこころの発達研究センターの友田明美教授です。「マルトリートメント」とは何か、友田教授に聞きました。

虐待より幅広い「不適切な養育」

Q.マルトリートメントとは、どういうものでしょうか。

友田さん「『避けるべき子育て』を指します。1980年代からアメリカなどで広まった表現で、日本語では『不適切な養育』と訳され、子どもの健全な発育を妨げる行為とされています。『マルトリートメント』は長いので、『マルトリ』と略して呼ぶこともあります。

具体的には、子どもを怒鳴ったり、たたいたり、感情に任せて親の気分で子への態度を変えたり、といった行為を含みます。最近は、スマートフォンやタブレットを子どもにあてがったり、授乳中にSNSや動画を見たりする親もいますが、そうした行為も含みます。スマホやタブレットの使用自体は悪くありませんが、親と子の貴重なコミュニケーションの時間がなくなってしまいます。子どもの昼寝中や保育園在園時に使うなどして、子どもとの貴重な時間をきちんとつくってほしいです」

Q.マルトリートメントと虐待は違うのでしょうか。

友田さん「虐待とほぼ同義の部分もありますが、虐待とは言い切れない行為を含めた、より広い表現で、『子どものこころと身体の健全な成長・発達を阻む養育をすべて含んだ呼称』です。大人の側に加害の意図があるか否かにかかわらず、また、子どもに目立った傷や精神疾患が見られなくても、行為そのものが不適切であれば、それはマルトリです。

ニュースで報道される児童虐待は、ひどい暴行や性的虐待などを伴った極端なケースが多いです。しかし、マルトリには、しつけと称して脅したり、威嚇したり、暴言をぶつけたりといった心理的・精神的な虐待も含まれます。日常生活の場面で起こり得るもので、子どもと関わる多くの大人が『自分は児童虐待とは無関係だ』と思って見過ごし、日常的に不適切な接し方で子どもを傷つけてしまっている可能性があります」

Q.なぜ「虐待」と言わず、「マルトリ」と言うのでしょうか。

友田さん「『あなた虐待していますよね』と言うと、親は絶対に心を開きません。一方、『マルトリをしていませんか』と問えば、子育て困難な家庭からのSOSを捉えることができます。SOSを拾うことで、その家庭の子どもと向き合ったり、親の話を聞いてあげたりして、その情報をいろいろな機関につなぐことができるようになります」

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友田明美(ともだ・あけみ)

福井大学子どものこころの発達研究センター教授

熊本大学医学部卒業。1990年から熊本大学病院発達小児科(現小児科)で勤務するなど、小児神経科医として診療に携わる。2011年から現職。福井大学医学部付属病院の子どものこころ診療部長も兼務している。著書に「新版いやされない傷-児童虐待と傷ついていく脳」(診断と治療社)「子どもの脳を傷つける親たち」(NHK出版)「虐待が脳を変える-脳科学者からのメッセージ」(新曜社)など。

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