かつての人気ペット「アライグマ」の野生化が深刻な問題に…人への被害や対策は?
かつて、ペットとして人気だったアライグマが、各地で野生化して問題となっているようです。外来生物に詳しい専門家に聞きました。

つぶらな瞳とかわいらしいしぐさで、かつてペットとして人気のあったアライグマが、各地で野生化しているようです。SNS上では「うちにアライグマが来た」「かわいい」と写真を撮って投稿する人たちもいますが、「本当は狂暴」「かまれたら病気になるかも」と警告する声もあります。アライグマのどのような点が問題なのでしょうか。外来生物に詳しい、NPO法人静岡県自然史博物館ネットワークの三宅隆副理事長に聞きました。
北米原産、食肉目アライグマ科の動物
Q.そもそも、アライグマとはどういう動物ですか。
三宅さん「アライグマは元々、北アメリカ原産の、食肉目アライグマ科に属する中型の動物です。頭と胴の長さは約40~60センチ、尾の長さは約20~40センチ、体重は約4~10キロで、尾に5~8本の黒いリング模様の輪があり、目の周りが仮面をかぶったように黒く縁取りされているのが特徴です。このあたりで、国内の他の野生動物のタヌキやアナグマ、ハクビシンと区別がつきます」
Q.なぜ、日本で増えたのでしょうか。現在は、どの程度日本にいるのですか。
三宅さん「アライグマはテレビアニメ『あらいぐまラスカル』の放映により、1980年代に一躍人気者となりました。ペットとして多く輸入され、家庭でも飼育されるようになりました。しかし、アライグマは野生動物であり、小さい時は人なれしておとなしくても、成長すると気性が荒くなります。
『アライグマ』の名前は、食べ物を『洗う』ようなしぐさからついていますが、私は、気が荒いから『荒いグマ』だと感じています。気が荒いため、飼育に困って捨てたり、逃げられたりして、放映から10年くらいたった頃から、日本のあちこちでアライグマの野生化が確認されるようになってきました。現在、どれくらの数が日本にいるのか、はっきりとは分かりませんが、各都道府県の年間の捕獲数からみて相当多くの、例えば10万頭以上は生息していると推定されます。
1頭や2頭が遺棄されたくらいでは、こんなに増えることは考えられません。動物業者やペット販売店が、大きくなって売れなくなったアライグマをまとめて捨てたり、繁殖して数が増えて困った飼い主が全部捨てたりするなどして、日本全国で相当数が捨てられなければ、このような爆発的な増加は起こらなかったはずです」
Q.今もペットとして飼っている人はいるのでしょうか。
三宅さん「現在は特定外来生物に指定され、動物園など一部の許可された施設を除いて、その飼育や販売などが禁止されており、一般家庭での飼育はほとんどないと考えられます」
Q.野生化したアライグマによる被害や懸念点について教えてください。
三宅さん「まず、人畜共通伝染病の、狂犬病やQ熱を媒介することが挙げられます。現在、国内で狂犬病の発生報告はありませんが、北アメリカでは、アライグマにかまれてできた傷から人間が狂犬病に感染した例もあり、重大な問題となっています。
もう一つ、『アライグマ回虫』感染の危険性もあります。この回虫は、本来はアライグマだけに寄生する回虫ですが、子虫の時に誤って人体に入ると、人の体内を移動して脳内に入り込むことがあり、死亡例も報告されています。日本の野生アライグマからのアライグマ回虫の報告例はまだ聞いたことがありませんが、以前、国内の動物園で飼育されていたアライグマからの感染報告はあるので注意が必要です。
これら、人間への直接的被害の他に、農作物の被害があります。トウモロコシや落花生、スイカなどの被害が目立ち、ハクビシンによる被害だと思っていた果実被害も、アライグマかもしれないと思われる例があります。他にも、池のコイが盗られたり、飼い犬の餌のドッグフードが食べられたりしたという話をよく耳にします。
さらに、人家の屋根裏などにすみ着き、そこを巣として利用することがよくあります。ふん尿による被害も多いのですが、京都や奈良、鎌倉などでは、寺社などの歴史的建造物に入り込み、傷をつけるといった被害が相次いでいます。
また、アライグマの侵入が、元々日本に住んでいた動物たちに大きな被害を与える可能性があります。北海道では、ニホンザリガニやエゾサンショウウオへの影響や、キタキツネとの競合、シマフクロウなど樹洞性の鳥への被害などが懸念され、東京では、トウキョウサンショウウオの被害も報告されています。在来動物のキツネやタヌキなどとの競合や、野鳥の巣の被害なども考えられ、喫緊の課題となっています」
Q.野生化したアライグマについての対策は。
三宅さん「基本的には、捕獲を進めていき、駆除していく必要があります。北海道や兵庫県、岐阜県、鳥取県、神奈川県などでは、捕獲に関する防除の指針を策定し、例えば2017年度は北海道で年間1万6182頭(北海道ホームページより)、兵庫県では4561頭(同県まとめ)、神奈川県でも1484頭(同県まとめ)を捕獲していますが、一向に減る気配がないということです。
農作物の被害防除をするにしても、アライグマは手が器用で木登りも得意なため、簡単な策では通用しません。電気柵による防除が有効といわれていますが、根本的対策としては、捕獲処分しかないのが現状です」
Q.野生化したアライグマを見かけた際、どのようにすればよいのでしょうか。
三宅さん「『かわいい』と言って、餌をやっては絶対にいけません。野生動物なので、捕まえようとすれば、かみつかれ、大けがすることもあります。基本的には、行政へ相談して対応してもらうしかないと思います。家の屋根裏に入り込んだ場合は、専門の捕獲業者に依頼することも考えられます。
『アライグマが捕獲処分されるなんてかわいそう』という人もいるでしょう。確かに、アライグマが自分の意思で日本に来たわけではなく、人間が持ち込んだものであり、アライグマ自身に責任はありません。しかし、元々日本にいなかったアライグマによって生息をおびやかされる日本の動物たちは、もっとかわいそうですし、作物を荒らされる農家の人たちも気の毒です。これだけ被害や問題が出てくると、持ち込んだ人間の責任として、捕獲して数を減らし、被害を防止する義務があるのではないでしょうか。
そうした例はアライグマだけではありません。現在、沖縄や奄美大島では、ハブ対策として移入されたマングースが増えて、ヤンバルクイナやアマミノクロウサギの捕食者となっており、マングースのために、在来の希少な動物たちが絶滅の危機にあります。政府はマングースの根絶を目指して捕獲に取り組んでおり、少しずつその効果が出てきているようです。
やはり、アライグマは、日本にいてはいけない動物なのです」
(オトナンサー編集部)
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