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「警視庁」「警察庁」は何が違う? キャリア&ノンキャリアの関係性は? 元警視庁公安捜査官に聞いてみた

「警視庁」と「警察庁」は、何が違うのでしょうか。元警視庁公安部外事課捜査官に聞きました。

警視庁と警察庁の違いは?
警視庁と警察庁の違いは?

 ニュースやテレビドラマなどで「警視庁」「警察庁」という言葉をよく聞きます。どちらも警察組織ですが、違いがよく分からないと感じたことはありませんか。警視庁と警察庁は、何が違うのでしょうか。よく見聞きするキャリアとノンキャリアの違いも含め、元警視庁公安部外事課捜査官で日本カウンターインテリジェンス協会代表理事の稲村悠さんに聞きました。

キャリアは採用時から警部補

Q.「警視庁」と「警察庁」は、何が違うのでしょうか。職員の採用ルートの違いも含めて、教えてください。

稲村さん「警視庁は、東京都公安委員会の管理下で、東京都を管轄区域とする警察行政機関です。『〇〇県警』と同じ単位で、東京都の“県警”というイメージです。そのため、給与支払い者は東京都(知事)となります。職員は地方公務員であり、警視庁の採用試験を通じて採用されます。転勤は都内のみです。

規模や首都を守る重要性などから、警察庁の直轄監督下にあります。一方、県警は、警察庁の地方機関である地方ごとの管区警察局の監督下にあります。

警察庁は、都道府県警察全体を統括・監督管理する警察行政機関であり、国家公安委員会の管理の下で、警察制度の企画・立案、大規模な災害・国際テロ事案などへの対処といった国家として責任を負うべき事務のほか、警察通信、犯罪鑑識、犯罪統計、警察装備などの統括事務、警察行政に関する調整事務を担当します。

警察庁の職員は、国家公務員総合職試験(旧国家I種、以下総合職)を経て採用されます。総合職の合格者は幹部候補生であり、多くの人がイメージする“キャリア”組となります。警察庁の職員は、全国転勤があります」

Q.では、警察官におけるキャリアとノンキャリアの違いについて、詳しく教えてください。

稲村さん「キャリアとノンキャリアとでは、職務のほか、採用試験の内容や難易度などが大きく異なります。キャリアは、採用時から警部補の階級を与えられ、警察行政の計画・管理などが主な職務となります。イメージとしては、経営層に近いです。キャリアになるには、総合職に合格し、さらに警察庁に採用される必要があります。

国家公務員総合職試験は、日本を代表する難関試験で、合格率は約10%です。その難易度から、総合職は司法試験、公認会計士試験とともに日本三大試験といわれています。ちなみに、歴代の警察庁長官のほとんどが東京大学出身です。

ノンキャリアは、多くの人がイメージする“現場の警察官”です。職務としては、地域や刑事、公安などといった各課の職務に従事し、現場レベルでの実務を担当します。階級が上がるにつれ、マネジメント業務の割合が増えていき、警視以上の役職に上がると、組織全体の管理といった職務がメインとなります。

ノンキャリアの場合、地方公務員として各都道府県警察の採用試験に合格する必要があります。その年度によって採用人数が変わるので一概には言えませんが、2022年度の倍率は7倍程度です。また、総合職とは違い、適性検査や体力試験がありますが、体力試験は、健康な人であれば問題なく通過できます。

ノンキャリアとして採用される人の中には、東京大学や京都大学の出身者もいます。私は、現役時代に東大出身のノンキャリアの人と一緒に仕事をしたことがありますが、論理的思考が優れているという印象を持ちました。

現実的に昇任できる範囲としては、以下の通りです」

キャリア:警部補→警部→警視→警視正→警視長→警視監→警視総監
ノンキャリア:巡査→巡査部長→警部補→警部→警視→警視正→警視長→警視監

ノンキャリアの場合、トップから2番目の階級である「警視監」を目指すことができます。警部に昇任できるのは警察官全体の5%程度といわれており、警視以上の階級の場合、さらに狭き門となります。手前みそとなりますが、私は警視庁に採用されてから過去最短で警部補に昇任しています。

Q.警視総監よりも上の役職について、教えてください。

稲村さん「警視総監は、実質的に最大の警察組織である警視庁のトップですが、警察組織全体のトップは警察庁長官です。序列は、警察庁長官、警察庁次長、警察庁官房長、警視総監の順になるかと思います」

Q.ドラマなどでキャリアの警察官はとっつきにくい印象がありますが、現役時代はいかがでしたか。

稲村さん「テレビドラマなどの影響で、キャリアがズカズカと警察署にやってきて、ノンキャリア(警察署の職員)がびくびくとかしこまるようなイメージをする人もいると思いますが、警察は階級社会なので、自分よりも階級が高い人にかしこまって接するような構図が生まれるのでしょう。

実際の現場では、ノンキャリアの警察官は、キャリアの警察官に対してびくびくすることはなく、キャリアの警察官もノンキャリアの警察官に横柄な態度を取ることは基本的にありません。お互いに礼節を持って粛々と接しています。

ノンキャリアの警察官からすれば『現場を知らないくせに』、キャリアの警察官からすれば『組織運営・警察行政を知らないくせに』という感覚がそれぞれあるかもしれません。しかし、ドラマなどで描かれるような摩擦は大げさで、互いに目指すべき共通のゴールは、『社会の安全・安心を維持すること』です。

私が現役のときに、経験が浅いキャリア組の人に実務業務を教えたことがありますが、非常に穏やかで飲み込みが早く、やはり頭が良いと感じました」

Q.世間では「警察庁」よりも「警視庁」の方がよく知られていると思います。なぜ「警視庁」が有名になったのでしょうか。考えられる理由について、教えてください

稲村さん「まず首都東京を守る日本の警察の最大組織であるからでしょう。その規模や保有する技術、ノウハウなどは日本の警察でトップだと思います。また、捜査一課や公安部などの有名な部署があり、センセーショナルな事件などの捜査で見聞きする機会が多いことから、皆さんに認知されやすくなったのだと思います。

しかし、警視庁だけでなく、各都道府県警察、そして警察庁も非常に重要な組織です。皆さんに知っていただき、親しみを持っていただきたいと思います」

(オトナンサー編集部)

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稲村悠(いなむら・ゆう)

日本カウンターインテリジェンス協会代表理事/国際政治・外交安保オンラインアカデミー「OASIS」フェロー

 警視庁元警部補。警察学校を首席で卒業し、同期生で最も早く警部補に昇任。警視庁公安部外事課の元公安部捜査官として、カウンターインテリジェンス(スパイ対策)の最前線で多くの諜報活動捜査及び情報収集に従事、警視総監賞など多数を受賞。退職後は金融機関社内調査や調査委員会による不正調査従事を経て、経済安全保障や地政学対応コンサル、諜報活動対策支援や研修、安全保障・危機管理講師などで活躍中。多数のテレビ番組に出演しているほか、メディアで寄稿も行っている。著書「元公安捜査官が教える『本音』『嘘』『秘密』を引き出す技術」(WAVE出版)がある。

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