作家、漫画家…本名と異なる“ビジネスネーム”の使用OK、NGの職業の違いは? 無断使用のリスクは? 弁護士が解説
本名以外の名前での活動が許される職業と許されない職業は、何が違うのでしょうか。弁護士が解説します。
作家や漫画家など一部の職業では、本名以外の名前で活動している人がいます。本名以外の名前で活動が許される職業と許されない職業は、何が違うのでしょうか。また、本名での勤務を求められているにもかかわらず、本名以外の名前で勤務した場合、法的責任を問われる可能性はあるのでしょうか。弁護士法人永総合法律事務所(東京都千代田区)の弁護士・永滋康さんに聞きました。
弁護士は本名での勤務が義務
Q.そもそも、会社員や公務員は、本名での勤務が法律で義務付けられているのでしょうか。
永さん「本名以外の名前での活動は、いわゆる『ビジネスネーム』の使用を指します。ビジネスネームとは、一般的に戸籍上の本名ではなく、仕事上で使われる氏名のことをいい、芸名やペンネーム、屋号などもビジネスネームの一つです。
法律では、『仕事で本名を使わなければならない』と義務付けられていないため、勤務先の企業の承認を得れば、ビジネスネームを使っても問題ありません。
従来、ビジネスネームを使用する目的として、『婚姻時の旧姓使用』『従業員の個人情報保護』といった観点から認めることが多かったのですが、近年ではLGBTQをはじめ、従業員が抱えるさまざまな事情に配慮する、『従業員の多様性確保』のために認める企業も増えてきています。
ビジネスネームとはやや趣旨が異なりますが、政府も国家公務員の旧姓使用を原則として認めるなど、寛容的な態度を示しており、広い意味において社会におけるビジネスネームの通称使用は、より一般化していく傾向にあるのは間違いありません」
Q.作家や漫画家など一部の職業では、本名以外の名前で活動している人がいます。本名以外の名前で活動が許される職業と許されない職業は、何が違うのでしょうか。
永さん「ビジネスネームの使用が認められる職業と認められない職業の判断基準ですが、ビジネスネームの使用による弊害の有無とその大きさ、具体的には、対外的に高度な信用性が求められている業務かどうかによります。
例えば、国家資格の一つである弁護士の場合、基本的に戸籍上の本名を弁護士名簿に登録しているため、事前に弁護士会に婚姻時の旧姓使用を登録するなどの手続きを踏まない限り、ビジネスネームで弁護士業務を行うことは認められていません。
また、公務員のような、社会に対して高度の信用性が求められる職業の場合も、先述のような旧姓使用などの特別な事情がない限り、自由にビジネスネームを使用することは難しいでしょう。
会社員の場合、就業規則で禁止されている場合を除き、基本的にビジネスネームの使用は問題ありません。ただ、その場合であっても社内や取引先での混乱回避のため、会社側にあらかじめビジネスネームを使用する理由を説明した上で了承を得ておくべきでしょう。
ビジネスネームを使う場合、本名とビジネスネームが相違することになるため、例えば、会社の登記簿に代表取締役として記載されている氏名と名刺の名前が相違する場合や、振込先銀行口座名義が相違する場合など、取引相手に疑念や不安を抱かせてしまうリスクがあります。そのため、その点のフォローが必要になります」
Q.本名での勤務を求められていたにもかかわらず、本名以外の名前で勤務した場合、法的責任を問われる可能性はありますか。
永さん「ビジネスネームの利用を禁止する企業に対し、戸籍とは異なるビジネスネームで履歴書を提出し採用され、そのままビジネスネームで業務をしていた場合、氏名の経歴詐称による雇用契約違反に該当する恐れがあります。
また、ビジネスネームで取引したことによって契約書類上の確認作業で食い違いが生じるなどのトラブルにより、取引実施が遅れて企業に損害が生じた場合、企業から損害賠償責任を問われる可能性があります。このほか、ビジネスネームの使用理由にもよりますが、程度によっては懲戒事由に該当する恐れもあります。
いずれにせよ、勤務先がビジネスネームでの業務を禁止している場合、無断でビジネスネームを使用することは避けるべきです」
Q.ビジネスネームで活動・勤務することで不利益となるケースについて、教えてください。
永さん「ビジネスネームの利用時のデメリットは、次の通りです」
・対外的に取引相手に不信感を与える恐れがある
・源泉徴収票や住民票、戸籍、健康保険証、厚生年金、登記といった、勤務先での事務手続きなどが煩雑になってしまう可能性
・免許証や戸籍、登記簿、住民票、健康保険証、源泉徴収票、適格請求書(インボイス)などの公的書類では一切使用できない
ただ、そういったデメリットを受け入れた上で、近年はあえて従業員のビジネスネームの使用を認めることで、対外的にLGBTQなどの多様性を受け入れていることをアピールし、好感度向上を狙う企業も出てきています。
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