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「パーマのかかった髪を切りなさい」 生徒にハサミを渡して迫った教師、法的問題は?

パーマをかけた生徒にハサミを渡し、髪を切るように促した教師について「パーマが校則違反だとしても行きすぎた指導だ」と批判の声が上がっています。教師のこうした行為に法的問題はないのでしょうか。

生徒に髪を切らせる教師、法的問題は?
生徒に髪を切らせる教師、法的問題は?

 パーマをかけたら、教師にハサミを渡されて髪を切るように促された――。このような中学生のエピソードが先日、SNS上などで話題になりました。「パーマ禁止」を校則に掲げる学校では、その指導方法を巡って、教師と生徒の間でトラブルが起きることが少なくありません。今回のケースでは、教師が無理やり生徒の髪を切ると傷害罪になりうるため、生徒自身にハサミを持たせて髪を切らせようとした可能性も指摘されています。これについて「ブラック校則本当に腹立つ」「これ、強要罪じゃない?」「生徒は断れないはずだから何かの罪に問えるのでは」など、さまざまな声が上がりました。

 教師が生徒にハサミを渡して髪を切らせる行為に、法的問題はないのでしょうか。オトナンサー編集部では、芝綜合法律事務所の牧野和夫弁護士に聞きました。

髪を切らせる行為は強要罪の可能性も

Q.指導の名目上、教師が生徒の髪を切る行為は犯罪行為となりうるのでしょうか。

牧野さん「他人の髪を勝手に切る行為は、教師であろうと、傷害罪(人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役または50万円以下の罰金に処する、刑法204条)や暴行罪(暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料に処する、刑法208条)に該当する可能性があります。

明治45年の大審院(現在の最高裁)判決により、人の髪を切る行為は人の体の機能を害していないので傷害罪にまではならず、暴行罪に該当すると考えられていますが、傷害罪を認めた裁判例もあるようです」

Q.今回のようにパーマをかけた生徒に教師がハサミを渡し、自分で髪を切るように促した場合、教師の行為に法的問題はありますか。

牧野さん「教師が『指導に従わなければ、髪を切る』と脅したり、『校則違反だから』という理由で、ハサミを持たせて自らの髪を切らせたりした場合、強要罪(刑法223条)が成立する可能性があります。同様に『染めないと髪を切るぞ』などと告知した上で、髪を黒く染めるように何度も指導を行った場合は、強要罪が成立する可能性があります」

Q.教師に髪を切られたり、自ら髪を切らされたりした場合、生徒は何らかの法的手段に訴えることはできますか。

牧野さん「『故意または過失により他人の権利(人格権)を侵害』していますので、不法行為(民法709条)に基づく損害賠償を請求することが可能です」

Q.「パーマ禁止」と校則に明記されていたり、生徒にパーマをかけないように何度か事前指導があったりした場合は、どうでしょうか。

牧野さん「事前指導があれば、刑事責任や民事責任が軽減される可能性はあります。しかし、基本的には、傷害罪や暴行罪などの刑事責任や、慰謝料や損害賠償の民事責任に問われる可能性は免れないでしょう」

(ライフスタイルチーム)

牧野和夫(まきの・かずお)

弁護士(日・米ミシガン州)・弁理士

1981年早稲田大学法学部卒、1991年ジョージタウン大学ロースクール法学修士号、1992年米ミシガン州弁護士登録、2006年弁護士・弁理士登録。いすゞ自動車課長・審議役、アップルコンピュータ法務部長、Business Software Alliance(BSA)日本代表事務局長、内閣司法制度改革推進本部法曹養成検討会委員、国士舘大学法学部教授、尚美学園大学大学院客員教授、東京理科大学大学院客員教授を歴任し、現在に至る。専門は国際取引法、知的財産権、ライセンス契約、デジタルコンテンツ、インターネット法、企業法務、製造物責任、IT法務全般、個人情報保護法、法務・知財戦略、一般民事・刑事。

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